【馴染まねば 治りもしない 五月病】第3話 リアルウイニングイレブン その2
「わたしリアルウイニングイレブンわからないけど、ハイジさん勝てるかしら」
「ウイニングイレブンなら勝てたかもわかりませんね」
『それからプレイヤーと観客共、間もなくキックオフだが一つ言い忘れていたことがある。今回はただリアルウイニングイレブンやっても面白くないから、ピッチに二、三爆弾を埋めてある』
「爆弾!?」
『まぁ、頑張れ』
ピィーっとキックオフを告げる笛が鳴ったが、誰一人その場を動かなかった。
『ちなみに、爆弾は小林軍のゴール真下に二つ設置してあります』
小林軍のキーパーが青ざめるのがここからでもよく見える。その言葉を信じてか、いきなりハイジさんの筒抜け作戦を無視して良崎が前に走り始めた。
『いっけぇリーベルト! ベルリンの赤いミドルシュートだ!』
ポーンと簡単に良崎にパスが通り、赤いユニフォームがピョーンと蹴ったボールが棒立ちのキーパーの横を転がり、ゴールネットを揺らしてボールが止まった。
『いよっしゃあ! 我がリーベルトの決定力はァァァ! 世界一ィィィイイイ!』
ハイジさんは喜びを爆発させるが歓声は一つもなく全員が腑に落ちない表情で立ち尽くしたままだ。唯一、小林氏が抗議のためかハイジさんに詰め寄るが、ハイジさんまで後数歩というところで地面が閃光を放ち、放射状に広がった土と草の中心で小林さんが異星人の手先の自爆攻撃に巻き込まれて憤死した戦士のように横たわっている。
「これが……これが男の戦いと呼べるのか!」
「汚ぇぞハイジ!」
罵声が乱れ飛ぶ。かくいう私もなりふり構わずハイジさんにブーイングを飛ばしていた。キーパーつぶしの上に監督つぶし。あまりにも非道が過ぎる。それに私はハイジさんがハッピーラッキー星人にしたことも忘れてはいない。この機を逃すものかとここぞのばかりにヤジを飛ばす。
『ブーイング上等! 俺はここから一歩も動かねぇからかかってこい!』
ハイジさんは下卑た笑みを浮かべながら高笑いを響かせている。どこに爆弾が埋まっているかわからないのでは、抗議に行っても殴りに行っても小林氏の二の枚になるだけだと誰もその場を動けない。
「リアルウイニングイレブンで爆弾ってそんなに卑怯なの?」
「あまりにも卑劣すぎますよ!」
ハイジさんに向けたブーイングと同じ口調がつい水原さんにも流れてしまう。
「止めた方がいいかしら」
「当たり前じゃないですか! 小林さんだって早く手当しないと!」
「じゃあ、ハイジさん止めてくるわね」
水原さんはブーイングの嵐をかき分け、ベンチのハイジさんの元へと向かった。
そうか。爆弾は二、三発。そのうち二発は小林軍のゴールの真下、残る一発は小林氏が踏んでしまった。ハイジさんの宣言した爆弾の数と設置場所に偽りがなければ、小林軍のゴールさえ避ければ爆発することはない。
それにしても、普段あれだけ泣かされている泣き虫水原さんに本日いつにも増して鬼畜の一面を際立たせているハイジさんを止めることが出来るのだろうか。
とことことラインの外側を歩く水原さん。彼女には何か勝算はあるのだろうか。それに気づいたハイジさんは急いで拡声器を構えた。
「来るな水銀ー!!!」
ズッ、ドォーン……。
水原銀子爆死!
「水銀ー!」
ハイジさんは拡声器も投げ捨てて水原さんにかけよるが、本日三回目の閃光と爆音がハイジさんの足元で炸裂した。
「ざまぁー見やがれ!」
つい口をついて叫んでしまうが、それも仕方のないことだ。ゴールの真下に爆弾、なんて大ウソをついた罰だ。
落としどころがわからなくなりつつも歓声にも悲鳴にも似た声が飛び交う、今度は良崎が三つの亡骸の脇を通り抜けてハイジ軍のベンチに向かい、何かのスイッチを押した。
チャチャチャチャチャッチャカャッチャッカチャッカチャッカチャッカ
オチのつもりか、再放送で聞き馴染んだ軽快なリズムが場内に響き渡り、ハイジさんの遺した拡声器を拾い上げた良崎がざわめく観衆に一礼し、拡声器を通して一言。
「ダメだこりゃ」
本当にそれで片づけるつもりか!
しかし、それを合図にしてかハイジ軍、小林軍共に笑顔でベンチに引き下がり、爆死したはずの小林氏、水原さん、ハイジさんの三人も土ぼこりを払いながら楽しげに立ち上がり、一礼をしてやはりベンチに下がっていく。それを拍手と爆笑で見送るオーディエンス。
……ダメだこりゃ。そりゃダメだろーさ!