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うぉくのふぉそみつ リターンズ  作者: ムッシュ志乃
7月編
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【笹の葉に 結ぶ短冊 おもうもの】第16話 文学部のブルース その3

 水原さんは少し耐性がついてきたのか、少し気持ち悪い程度で済んでいるようだがわたしと良崎、そして文学部の紳士淑女はまだそれは済まない。全員が瞬間移動酔いである者は膝を抱え、ある者は四つん這いに。一体が吐しゃ物のにおいに包まれてしまう。

 ピヒュルルルルル……

 ッタァーン!

 バチーン! バチーン!

 比較的、瞬間移動酔いには強い私だから、周囲に物騒な音が絶え間なく飛び交っていることもすぐにわかった。一足早く顔を上げ、周囲を伺うと足元には吐しゃ物のにおいが充満しているが、その上の層では火薬のにおいが鼻を突く。その私の鼻先三寸を火の玉がかすめて飛んでいった。

 煙を吸ったのか、少し咳き込みながらハイジさんを探す。


「う、げほっ、どこなんですかハイジさん!」


「オゥ、この花火がビリー坊やの誕生ケーキの蝋燭にでも見えちまったのかい? 7月4日は我らがU.S.Aの独立記念日(インディペンデンスディ)だぜ!? 人の文化、って括りなら、我らのU.S.Aの文化にあやかるのも悪くないかと一例を挙げてみたまでだぜ! だが、いい知らせと悪い知らせがあるんだ。まずはいい知らせだ。この祭りは最高だぜ! 派手に花火をぶっぱなせるんだ! だが、悪い知らせだ。アメリカの祭日なんだ」


 妙にアメリカナイズになってしまったハイジさんが答えるが、どうもこれは違う。というか花火で危ない! 文学部の紳士淑女の皆様方も四つん這いを吐くためではなく、例え吐しゃ物と向き合うことになろうとも、自分の命は花火から守ろうと頭を抱えて怯えている。


「Oh! Aren't you Jinnai? It is a long time!」


 突然、怪力レスラーのような筋骨隆々の陽気なアメリカンがハイジさんを抱きしめた。日本の華奢な美男子は世界のゲイにモテモテです。ウィーアーノットオールメン。


「Awesome! Aren't you Texas? What are you doing here?」


 やっと陽気なアメリカンに放してもらったハイジさんは、私達を見て友人の紹介を始める。


「あー、こちら俺のアメリカの友人、ブロッケン・テキサスだ。こっちで超常現象トラブルバスターの仕事をして旅をしてるんだが、偶然このカリフォルニア州サクラメントに居合わせたらしい」


「アー、少シ、日本語、デキルヨウナッタ。ツブラヤト、モリタニ、習タ。アイツ、ラ、ハ、バカ! スグニ、タンドクコウドウ! ミナサン、コンニチハ」


 テキサスはたどたどしい日本語で一生懸命挨拶をしてくれた。瞬間移動酔いのせいできちんと挨拶できないのが残念だ。日本に来た際にはウェルカムトゥージャパンと迎えたい。


「しょうがねぇさ。森田さんも円谷くんも、お前なら一人でも大丈夫だって信頼してる証拠だろ。おっと、長居はできねぇ。戻るとするよテキサス。Bye!」


 ピシュン!


「ギブ」


 一度は持ちこたえた紳士淑女ももう耐えきることが出来なかったようだ。戻ってきたサークル棟の前は吐しゃ物の沼になっている。


「……却下で」


 服に少し焼け焦げがついた水原さんが涙交じりに言うと、満場一致で異論なしだった。

 紳士淑女も調子を取り戻し始めるまでハイジさんは待ち、大きな辞典を開いて次のお祭り候補を探している。


「よし、そろそろ次の視察に向かうか」


「それもやめましょう。口頭でリストアップしてください」


「いやぁ、七月となるとやっぱり祇園祭りにもってかれちまう。ちなんだものって言ってもなぁ。幅が広すぎて選択肢も多すぎる。結局誰かが納得行かない気がしてきたんだ。そう思うと文学部全員が納得できるって言う前提を無視してたな。すまない」


 酔いの屍の中の一人が挙手をする。


「まず、先に覚えていてほしいことは、我々文学部も、祭りや行事が、欲しいという、ことです」


 息も絶え絶えな紳士。


「しかし、文学部にも今でこそ様々な学科がありますが、最初からあったのは文学科ですので、候補は文学科にちなんだものだけでよいです……」


「つったってなぁ。本当にそれでいいのか?」


「構いません……」


「ってなるとよぉ、7月に文学関連となると森鴎外に井伏鱒二、芥川龍之介に江戸川乱歩に幸田露伴、谷崎潤一郎の命日がある。芥川は24日だったかな。他の文豪のは俺の勉強不足だからわからんが探せば他に何かあるが……。あとは直木芥川賞の上半期の授賞式くらしかパッと出てこないぜ。しかも直木芥川賞の授賞式は毎回7月って訳でもなし」


「じゃあ、とりあえず祭りの日にちを決めましょう。もし、その日に何もなかったら、もう諦めましょう……文学部と祭りは縁がなかったということで」


「わかった。でも、どうやって日にだけ決める?」


「なんでも構わないです。陣内さんに任せます……」


「わかった」


 と静かになってしまった紳士。ハイジさんは重い腰を上げ、ヒョイと部室の中に飛び込むと、数人がかりで運んだ大型テレビを持って屋上にやってきて、何一つ接続などしていないというのに電源を入れた。


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