【笹の葉に 結ぶ短冊 おもうもの】第15話 文学部のブルース その2
「あ、ウィンチェスターM1887ショットガンだっけ?」
海軍風セーラー服みたいなのを着た水原さんが、視界に入るや否や良崎にかけよる。
「あれ、銀さんって文学部ですよね?」
「うん、そうなんだけどね。実家がああだから。これ、『ターミネーター2』でシュワちゃんがバイクに乗りながら片手でリロードしたレバーアクションが魅力の銃なんでしょ? 父がよく話してたわ」
「最近じゃゴリライダーもやったな。まぁ、そんなことはいい。水銀、文学部の祭り考えようぜ」
「文学部のお祭り?」
水原さんは首を傾げる。
「ほら、農だの兵だの神だの球だのはさ、それぞれ祭りを持ってるだろ、学部ごとの。俺たち文学部も持とうじゃあないか」
「確かに面白そうですけど、文学部と一括りにするのは随分と難しいですよ。哲学と史学を見ても全然違いますし、一つのことで全員が楽しめるのは難しいことかと」
「ん? 文学部って哲学とかもやるんですか?」
ショットガンをしまいながら、良崎が水原さんに尋ねる。
「てっきり、文学について習ってるんだとばかり思ってましたよ」
「よく間違えられちゃうんだけどね、文学部は人の歴史や文化を学ぶ学部だから、幅広いのよ」
「ハイジさんが文学部で実家が書庫の家だからどうも文学ばかりだと」
と私。恥ずかしながら知らなかった。
「あぁ、もちろん文学を扱う学科もある。実際、俺はそこだしな。とまぁ、一つにまとめ上げるには確かに難しい。だが、文学部はこの大学で一番歴史があるにもかかわらず、存在感を前面に押し出すのは受験生募集の時だけ、入ってしまえば目立たない。だからこそ、アピールするためにも祭りを考えたいんだよ」
「確かに、面白そうかもしれませんね。じゃあ、部室で考えましょうか」
水原さんは黄昏の夕日のような穏やかな微笑みを浮かべ、階段を上る。
「じゃあ水原は賛成な、文学部のお祭り考案」
ハイジさんがそれを声で追う。
「え、まぁはい」
「そうなりゃ話は早い」
ハイジさんは大きく息を吸い込み、両手を口の前で構えた。私達は反射的に耳を塞いだ。
「文学部はサークル棟集合ー!」
まるで山彦のように学内のあちこちでハイジさんの声が反射している。しかし、こだまする声はハイジさんの声ではない。そしてさらに言うならばここは山ではない。ハイジさんの声を聞いた者たちが、他の者にも伝えるべく大声で同じように叫んでいるのだ。そしてぞろぞろとサークル棟前に文学部と思しき学生たちが集まってくる。人数が集まるのを待ち、100人ほど集まったところでハイジさんがサークル棟の屋根に上に立った。
「よく集まってくれた我が文学部の同志よ! この度は、文学部オリジナルの祭りを作りたく、ご足労願った。お前ら、農学部の収穫祭だのを見て悔しくないのか? この学び舎に籍を置くものはみな等しく学究の徒である! そうであると同時に俺たちだって若者だ! 理由をつけて祭りを楽しむ権利がある!」
「確かにそうだ!」
「あいつらばっかりずるいぞ!」
と集まった文学部の紳士淑女が賛成の声を飛びかわす。どうやらハイジさんは文学部でも権力者のようだ。
「しかぁーしだ! あまりにも幅広すぎるため、俺たちは何にちなんだ祭りをすればいいのかわからないと言うのが現状だ! さぁ、どうする? そこで俺は考えた。とりあえず、文学部に関係のありそうな祭りをいくつかピックアップしてみた。一つ一つ検討してみよう。いいか、これは俺のおふざけじゃない。文学部の学生が学園生活を楽しめるようにするためだ! 俺たちが未来に楽しい学園生活への道を切り開くんだ!」
おぉー! と拳を振り上げる文学部の紳士淑女達。よほど、凹凸のない生活をしてきたのだろう。学園祭では各サークルに仕切られ、体育祭では体育会系に押しやられ。熱心な学究の徒であるが故にスポーツも出来ず、サークルに現を抜かす暇もない者たちが楽しめる行事は、実はないのかもしれない。
「まず、一つ目の祭り候補だ。全員、手を繋げ」
ハイジさんの号令で文学部の紳士淑女達は手を繋ぐ。屋根から飛び降りたハイジさんは水原さんに手を差出、水原さんは私に、私は良崎に手を伸ばす。
「あー、リーベルト、お前、あまった方の手で誰でもいいから体のどこかに触れろ」
その言葉に準じて良崎は近くにいた女性徒の肩に手を乗せた。
「よし、これで全員繋がったな?」
無言を肯定と受け取り、ハイジさんは空いた手を眉間に当てた。
「やべぇ! 全員手を放して!」
ピシュンッ!




