【笹の葉に 結ぶ短冊 おもうもの】第14話 文学部のブルース その1
ちんちんどんどん、ちんどんどん。
「なんですか、あれ」
「どこの学部だろうなぁ」
ハイジさんはパンダの餌をアマゾンで大人買いしてしまったらしく、荷物持ちに私を引きつれ、コンビニで受け取った笹を肩に担いで部室へ向かう。
「まぁ、どっかしらでなんかしらの祭りはあるもんなんだよ。これだけの人が集まるんだ。大学ってのは若者ばっかりで人の入れ替わりが激しい分、町とか村よりも楽しい風習が多くて、楽しい文化だけ残ってく。宗教も自由だしな。何やろうが、人が集まって楽しけりゃいい。それが大学だ」
欠伸をしながらハイジさん。
「時期的に山王祭にゃちょいと遅いから、祇園祭。いや、豊穣の祭りでもやるんじゃないのか? ビールをせびるためにも顔出しておかなきゃな」
「お酒はもういいですって」
酒と聞くと軋む金属と人類の禁じ手のことを思い出してしまう。ついでに豊穣の行事とハイジさんもレッドゾーンだ。神輿戦車のことを忘れてはならない。
「そう考えると、我が文学部はあまりにも独自の祭りと無縁! いつも他の学部の神輿の後ろを幟だけかついで参加させてもらってるイメージだ」
「いえ、僕文学部じゃないですから」
「え、マジ?」
「良崎も違いますよ。今度難しい実習があるって言ってたじゃないですか」
「あぁ! そう! リーベルトあそこなんだ! へぇ! ご愁傷様!」
ハイジさんは右の手首をくるりと回した。
「俺も昔他学科履修でやったことあるよ。あれは難しいぜ」
「良崎もそう言ってました」
「基本的には慣れだけど、練習も難しいしなぁ」
ちんどんの音と人垣の向こうから大きな棒が空に突き刺さるように伸びている。
「宵山かねぇ」
「祭りの季節、かぁ」
部室のエアコンとテレビのスイッチを入れ、笹の葉を枝打ちする。
「おぅわっ! なんですかこれ」
青い顔をした良崎が扉を開けるなり怒声を上げる。
「パンダの餌」
「笹ですよね?」
「そうとも言う」
「笹かぁ。もうそんな季節。どうりで日めくりカレンダーをめくるのが嫌になる訳ですよ」
「どういうこと?」
「期末が迫るってことですよ。まだあれ、上手くいかないし」
「どれ、貸してみ」
剪定ばさみを置き、ハイジさんが腰を上げる。
「ちょっとここじゃ狭いから外行くぞ。曾根崎も見とけよ」
私も腰を上げ、ハイジさんと良崎に続く。そのまま階段を下り沿道まで出て、ハイジさんは良崎から白くて細長い箱を受け取る。随分長く使っているのか、丸くなった角の塗装は剥げてところどころ鼠色の下地が見えている。
「まずこれをこう」
箱の両端を持ったまま大きく振りかぶると、蓋が飛んで中から深紅のバラの花びらが散った。
「なんていうのかなぁ。この、箱がでかい団扇の柄で、この先に扇の部分がついてるイメージ。両手ででかい団扇。重要だ」
箱の中身はウィンチェスターのショットガンだ。ショットガン。大学の実習でショットガン!
「レバーに手をかけて、回す。最初はスナップ効かせるだけで、指は銃身落とさないように支えけばいいかな。まずは形だけ覚えろ。行くぞ。まず回す」
ガチャン! ダンッ!
「撃つときも片手。で、回して」
レバーアクションでリロード。
「撃つ。これの繰り返し」
「その装填の時の回すのが上手くいかないんですよ。うまく回らなかったり、勢い余ったり」
「そうかぁ。やっぱりそこだよなぁ。なんだろ、綺麗な円で回すんじゃなくて、縦長の楕円を意識してみな。で、最初はリロード後に両手持ちにしてみていいから、とりあえず回してみろ」
ショットガンを良崎に手渡す。銃身に「良崎」とちゃんと名前が彫ってある。そうだよなぁ。試験の時に間違えて他人のショットガンだと勝手が違うからなぁ。マイショットガンにはちゃんと学部学科学籍番号名前を書かねば。
「えぇと、団扇を煽ぐイメージで」
バラがばさぁー。
「綺麗な円じゃなくて楕円」
レバーがガチャリ。
「あ、ちゃんと手に収まった!」
「よし。あとはよっぽど的から外れない限り大丈夫だから、リロードは今のイメージ忘れるな。バイクの上でやる時は、まずはケガしないようにな」
「助かりました!」
なんの実習だろう。将来、人類の救世主になる少年を悪のターミネーターから守る実習かなにか?
【自己批判】
特にねぇな。




