【然るべく 水玉模様と 雨粒と】第21話 対決大学 その19
眉毛は人間の顔の美醜を大きく左右する。人間の感情の機微を表現する「眉をひそめる」等、コミュニケーションツールでもある。第一印象が「眉毛が繋がっている」「眉が薄い」などというケースも多く、バブル期や平安時代の資料を見ると現在との眉のトレンドの違いに驚かされることもしばしばだ。その文明社会に生きる生物に必要な体毛の白眉である眉を片方だけそり落とせとはなにごとか。空手バカ一代の山籠もりのような眉唾物のエピソードを真に受け、この対決で負けた暁には人に顔向けできないほどなさけない顔になれと言うのか。
「こちらが5Kgの氷になります」
ずっしりと重量感のある氷が冷学部学生の手によって運ばれ、その脇には涼しげなペンギンの模様の掘削機いやかき氷マシーン。シロップ各種。
「先に食べきった方の勝利となります。がんばりましょう」
本来であれば私も女性陣のためならばと眉くらい差し出してやってもよいのだが、私が負ければ水原さんが片眉、私が勝てば良崎が片眉。どちらか一人しか救えない。ならば私は自分の身を大事にしよう。すまない良崎。そっちにはとりあえず真っ赤な炭なら食えるほど高温に強かったハイジさんがいるではないか。がんばれ。
「スタート!」
ペンギン掘削機から次々とかき氷が砂場の砂のようにかき出されてくる。その量に私は思わず腰を抜かしそうになったが果敢に挑み、口に運ぶが数口で撃沈され、冷たさで口をすぼめて、数分後にはなくなってしまう予定の眉の辺りを抑えてうずくまる。
「んなあああ」
奇声を上げながら良崎は涙か溶けた氷かわからないが顔をびしゃびしゃにして痛みと戦いながらかき氷と戦い続けている。
「しゃああああびあろんそー!」
「水原、これ無理だ。これ以上やったら俺は死んでしまうよ!」
と、悲痛なハイジさん。
「だったら……眉毛を剃るだけですね」
水原さんも泣きながらかき氷を食べている。
「にゃあああ!」
何が悲しくて六月の夜にこんなかき氷大食い早食いなんて荒行に臨んでいるのだろうか。これを終えた暁には必ず極楽浄土に行けると誰かが保証してくれるのであれば耐えられようが、勝っても誰も褒めてはくれない。負ければ眉毛を剃らねばならないという追い打ちを受けるだけだ。
「あっはっはっは」
当事者でないからか小林氏はミジンコのようにのた打ち回る我々を見て腹を抱えて爆笑しているが、今私は初めて小林氏を憎いと思った。私はアイツが憎いよ。五月の時も知っていながら私達を見殺しにしたし、そもそも対決大学の発案者はあのメガネではないか。
「無理!」
ハイジさんは器と匙を投げだし、こめかみのあたりを掌底でとんとんと叩いて痛みを散らして泣いている。
「正攻法では無理だ。リーベルト、悪いが俺は別の案を探る」
そのまま掌底を眉間に当て、ピシュンという音と同時にハイジさんはどこかへ消えてしまった。
「粗末なド×××を蹴りつぶして陣内家のクソブタファッカー共に食わせてやる!」
罵詈雑言の限りを尽くし良崎がハイジさんの器を手刀で真っ二つに割り、なおもその割れた器に匙を突き刺す。
「ごめん曾根崎くん、わたしもそうする!」
水原さんもあった分だけのかき氷をかきこみ、器を置いてどこかへ走り去った。どうして我々の先輩たちはそうなのだ。あわよくば両チーム戦犯が一人ずつ、罰ゲームなんて別にいいよね? と逃げられるとでも思っているのか!
俺は絶対に許さんぞ! 死んでも曾根崎一族総出で陣内の枕元に立って眉毛どころか陰毛に至るまで全身の体毛を左右非対称に剃り落としてくれる!
そんな恨みに頭を支配されているうちに事実上私との一騎打ちになった良崎は氷の量を遥かに上回るほどのブルーハワイのシロップを氷にかけて溶かし、青い冷水にして飲んでいる。
「ぐはぁ!」
しかしあまりの味の濃さにナメック星人の喀血のように青い液体を吹き出し、涙目で口をぬぐいながら両膝をついてしまった。
私はペンギン掘削機に寄り添い、その機熱と体温で少しずつ溶かして食べている。要は良崎が全力疾走と休憩を繰り返して進み、私はマラソンのようにすこしずつ戦っているのだ。良崎が差を開けたと思えば行きづまり、そこで私が徐々に差を詰める一進一退の攻防。
「曾根崎くん!」
こう着状態になったかと思われた私と良崎の一騎打ちの均衡を破ったのは、鍋と七輪と炭をどこからか仕入れてきた水原さんだった。
諌めることも出来ずかき氷を食べる機械のような私を尻目に七輪に炭を入れ、団扇で灰を散らして火力を強める。そして水原さんはその七輪の上に鍋を置いた。
「鍋に入れるのよ!」
おぉーという歓声があがり、小林氏は笑い上戸モードに入ったのかカメラを近くにいた学生に渡して両手両足を投げ出して笑うことに専念してしまっている。
「グッジョブ水原さん!」
確かに滑稽ではあるが、かき氷をぼうぼうと音をたてる七輪の鍋に入れるとどんどんと溶けていく。煮込みかき氷! 先のそうめん撃ち上げ計画に引き続き、かなり有効な秘策だ。
たまらず良崎は匙を私に投げつけるが別にそんなものが目を直撃しようと私はもう別に構わない。なに使おう勝ちゃいいんだ!
悔しさで一口のかき氷を食べる事すら出来ずに号泣する良崎は確かに見ていて痛々しかったし憂いの気持ちもなくはない。チームメイトに恵まれなかったことも不幸だったとは思うがしかし勝利には代えがたい。
私と水原さんは残りのかき氷を全て煮込みかき氷とし、5Kgのかき氷の完食に成功した。
「『努力家さんチーム』の完食! 終了ー!」
『ビックリ人間チーム』片眉決定!
※ナメック星人の吐血の件は『Walk Now For So Meet』を読み直した時に唯一自分で吹き出したネタ。
↑と、ファイルには書かれている。当時(2012年11月頃)の話。




