【然るべく 水玉模様と 雨粒と】第20話 対決大学 その18
「楽しい時間はすぐすぎるって言うけどね、どうも時間の進みが遅いのよね」
対決大学第四回は於冷学部、となったが先の良崎爪切り壁クラッシュのせいで中止の通達がなされていたらしく準備が出来ていない、ついでに冷学部で代表を務めるハセベ氏もそのせいで「心が整っていない」らしく、現時点で我々に課された任務は待機、であった。
しかしハイジさんと水原さんと小林氏は同じ文学部(関係者)であるらしく、文学部あるあるや文学部の未来について幕末志士のように膝を向い合せて熱く話し込んでいる。そして私と良崎は文学部ではない。あるあるにも未来にも話を合わせることはできず、特に就職活動における一寸先の確実な闇に関してはまだ賛同しかねる。
「そのはずよね。だってこれ、辛いもん。楽しい時間は時計見る時間すら惜しいからすぐ過ぎるように思えるけど、これは早く終わらないかなって時計をちらちら見ちゃうから」
と、ここまでの率直な感情を吐露するしかない。蚊帳の外の良崎と私は対決大学あるあるしか共有する話題がない。
「俺も同意見だ。特に戦犯は辛い」
「戦犯は精神的にきついけどわたしは一度死に掛けてるからね。いや、一度じゃないわ。酔った勢いで『冥府の王』に掴みかかった、壁にクラッシュした、1Kgのそうめんが頭を直撃したで3回は死んでるわ」
「それに考えたらどうやっても落下する20Kgのそうめんキャッチとか無理だ」
「無理無理無理よ。20kgなんてキャッチできても骨折よ。よくて脱臼よ。奇跡の価値は起こすんじゃなくてどれだけラッキーパンチが降ってくるかってことよ。奇跡を起こそうって時点で奇跡を覚悟してるもの。覚悟していない奇跡だから奇跡なのよ。だから嬉しいのよ」
しかし、この対決大学において最も目立った活躍をしているのは間違いなく良崎だ。戦果につながることはなくとも、その数々の失敗の過程が面白すぎる。対決大学での勝敗で言えば現時点で戦犯なのは間違いないが、当事者でない者たちが面白がる目的で観たならば最大の貢献者は良崎だ。
「そもそも、銀さんの考えてる対決内容が人間の限界を超えてるのよ。失敗が前提でどれだけマシにできるかっていうのって、ねぇ」
「今のところ兵学部のPRになった以外はただの泥仕合だからな」
「でも、その辛いことがあと10回以上も控えているのよ」
整いました、と準備とも心ともとれる言葉と同時に、対決大学第四回戦が始まる。
「対決大学第四回戦は『5Kgのかき氷を食べつくせ! 氷早食い対決』」
ほら、また無茶を言っているではないか! 100Kgのそうめんよりはマシだとはいえ、かき氷はそうめんと違って食うこと自体が苦痛な人間もいるんだぞ! 頭がキンキンしちゃうではないか!
「ルールはいたって簡単です。5Kgのかき氷を先に完食したチームの勝利です。時間無制限。妨害以外はすべて自由です。各チーム用意したかき氷5Kgを先に食べ終えた方の勝利です」
水原さんは正気か? 食べ切れる気でいるのだろうか? 中止となった先の『雑巾がけ50m走』を除けば第一回戦も第三回戦も無茶な内容ながらも制限時間を待ちさえすればまだマシな内容だった。ただ日没から日昇まで貯水池の近くにいる、10分間迫りくるそうめんの砲弾を避け続けるだったが、今回は誰かが5Kg食べきるまで終わらない。私一人で5Kgなど無理だぞ。秘策はあるのか秘策は。
戦犯の汚名返上と意気込んでも、それを挫くくらいのインパクトがありすぎるのだ。
「待った!」
ハイジさんがルール説明が終わるか終らないかのタイミングで鋭い声を上げた。
「この対決大学に物申させてもらう。てめぇら負けてもいいやMVPなんかアテにしちゃいねぇからしのぎ切ろうなんて思ってるんなら笑止! 覚悟が甘いぞ」
その言葉が一番深く突き刺さっているのはどうやら良崎のようだ。確かに二戦連続戦犯の良崎は最もMVPから遠い。私も第一回戦でのMVP貯金は第三回戦での痛恨のエラーで帳消しにしてしまったし、ハイジさんは第一回戦第二回戦と活躍をしていないどころかいたのかいなかったのかもわからない。第三回戦では均衡を破る勝利の一手を決めたがまだまだ第一回戦をサボった罪は重い。しかし水原さんはどうか。第一回戦ではサバを釣り上げ5ポイント、第二回戦では第一走者、第三回戦では秘策を披露。区間MVPの獲得こそないもののこれまでの全ての対決でそこそこの戦績を残している。
つまり、何が言いたいかというと我々『努力家さんチーム』は『ビックリ人間チーム』より高いモチベーションで臨んでいるということだ。そっちの二人は第一回戦で二人ともサボった時間帯があるじゃないか。覚悟が甘いのはそちらではないだろうか。
「この対決で負けたチーム、そのチームには眉毛をそり落としてもらう」
!!?
「眉毛をそり落とす……」
「それぐらいやんないとお前ら本気出さないだろ」
「それは……あまりにも酷ですよ。わたしと銀さんは女なんですよ!?」
敗戦の覚悟があったのか、良崎がハイジさんのつま先を何度も踏みながら訴える。
「そう言うだろうとは思っていた。俺は優しいからな。そり落とす眉毛は半分でいい。片眉だけで許してやろう」
片眉をそり落とす! むしろ両眉の方がバランスが取れるのに譲歩してもらったら状況が悪化するとはこれ如何に!?
「山に籠れと言うのですか!」
「籠るか籠らないかは貴様らの自由! それだけの覚悟があるのかないのか聞いているんだ!」
「勝てばいいんだろこのヤロー!」
「このヤロー!」
「このヤロー!」
涙交じりで返事のように我々は「このヤロー」で返し、敗者は片眉をそり落とすことになりました。




