表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
うぉくのふぉそみつ リターンズ  作者: ムッシュ志乃
6月編
45/185

【然るべく 水玉模様と 雨粒と】第18話 対決大学 その16

「武装学科では白兵戦装備の研究と開発を中心にしたカリキュラムで局地的武力衝突の未来を担う人材の育成を目標にしています。サバイバルゲームやハンティングをはじめとした娯楽の分野でも注目を集めおりさらなる発展が期待されています。搭乗兵器学科では戦車、潜水艦、爆撃機など……」


 水原さんが第三回戦の協力者である兵学部のPRを続けている。その脇では何やら時代劇SFチックなバズーカ、そして馬の鼻息のように蒸気を上げる鍋にどんどんとつぎ込まれては冷水で締められ対戦に使われるそうめんが、兵学部有志の手にスピーディに山となって積み上げられている。


-対決大学 第三回戦 『何キロ食えるかな? 去年のそうめん一斉処分スーパー流しそうめん大食い対決!』ルール-


・そうめんバズーカにより「流される」そうめんをキャッチし、食べる。最終的に食べたそうめんの総重量の多い方の勝利とする。

・砲手と食手の交代は自由。

・制限時間は10分。

・各チーム使用できるそうめんは合計100Kgまでとする。なお、そうめんバズーカで「流す」ことの出来るそうめんの量は最少100g、最大20Kgである。

・制限時間内であれば「流された」そうめんを食べるタイミングは問わない。

・安全確保のためバズーカと食手は5m以上の距離を置くこと。5m以上であれば距離は問わない。




 最大20Kgのそうめんのかたまりが飛んでくるというのか。そもそも100gから20Kgまで装填できるバズーカのスペックはどんなのだ。極秘扱いでその仕組みは明かされなかったが、それを可能としているだけでも我が大学の兵学部の優秀さを語るには十分だろう。

 しかし、10分間に四人で200Kgものそうめんを食すことは可能なのだろうか? 食べ切れることはないということを前提としたルールのように思えてならない。

 スターターは『ビックリ人間チーム』砲手:陣内一葉、食手:良崎アンナ。『努力家さんチーム』は砲手:水原銀子、食手:曾根崎忠。

 軍服を着た水原さんはさぞかしバズーカが似合うのだろうなと想像していたのだが、どうやら彼女の軍服は戦争は会議室で起きているんじゃない現場で起きているんだと現場の兵士に無線で怒鳴りつけられる方の軍人の服だったので思っていた以上に似合っていない。一方、ハイジさんは和装にバズーカという一見ミスマッチに思える組み合わせに反し、そうめんバズーカの和を中心としたテイストに戦車を駆った前科も相まって驚くほど似合っている。

 食手の私と良崎には、特設テントのテーブルに陳列されているSML各サイズの箸、大皿、小鉢、キャッチャーミット、野球の審判の防具、めんつゆ(鰹、昆布、飛魚出汁)全ての使用が許可され、私も良崎もまずは様子見、と箸、受け皿、小鉢の全てをMサイズ、出汁も鰹出汁を選択し、キャッチャーミットと審判の防具は遠慮しておいた。また、激しい運動が予想されるため良崎は再びリーアム・ニーソン`sジャージを着用した。


『午後6時を、お知らせします』


「プレイボール!」


 時報と同時に小林氏が開戦を宣言した。


「リーベルト! まず1Kg!」


「曾根崎くんこっちも1Kg!」


 1Kgのそうめんか……。考えただけで気分が重くなる。使えるそうめんの総重量が100Kgだとしても、一度に発射するには1Kgは多すぎる。プロ野球のバットでも1Kgは重い方に分類されてしまう。材質が違うとはいえ、プロ野球の150gに満たない硬式ボールですら鍛え上げたアスリートの骨を折るくらいのダメージを与えることが出来る。その気分の重さにつられてか、私は膝を少し曲げて重心を下げ、上下左右のそうめんに対応できる体勢を整え、箸をしっかりと握る。

 そうだ。相手は所詮そうめんだ。野球ボールとは材質も違うし、発射されれば空気の抵抗で絡まったそうめんも徐々にほどけ表面積は広くなり、速度はさらに落ちることになる。それをすでに考慮した上での1Kgなのだろう。

 獅子の喉のような圧倒的な存在感のバズーカの砲口を見つめ、そうめんの発射に備える。水原さんに先立ち、ハイジさんが引き金を絞った。

 ぼぅふっ! と、痰の絡んだ湿った咳のような気持ちの悪い音と共にそうめんが発射される。そうか、先にハイジさんにそうめんバズーカを撃たせて威力を確かめてみようという戦略か。などと呑気なことを考えていた時には1Kgのそうめんは良崎の右の耳を掠め、遥か後方で浜辺に打ち上げられたクラゲのように広がっていた。その威力、反動の無さ、要するにそうめんバズーカの完成度に兵学部の有志たちは歓声を上げたがお前たち死の商人は一度でもその銃口、砲口を向けられる側の気持ちを考えたことがあるのか。ボタン一つ押すのは簡単、引き金一つ絞るのは簡単だ。しかし、そのボタンを押すことで大量破壊兵器が数万人単位を殺傷する。鉛の弾一発で人は未来を失う。取っ掛かりと結果の間にどれだけのファクターがあるのか何故考えないんだ。あのそうめんバズーカはそういう域の話にあるんだ。

 絶対無理。


「曾根崎くん!」


 水原さんは砲口を真っ直ぐ私に向けて名前を呼ぶ。確かに、下手に角度をつけて撃ち上げようとすればあのそうめんバズーカの威力ならそのまま私の制空領域など軽々飛び越えていくだろう。

 ならば。


「ここを狙ってください!」


 私は3mほど後退し、右手を大きく右方に伸ばす。その先には箸。箸を狙ってくれと言っているのだ。あまりの速度にもう目で追って掴むことはできない。しかし、予めどこに来るのかわかるのならば待ち伏せることはできる。そうめん砲弾が箸の先を掠める程度ならば、多少のそうめんは絡み取ることが出来るかもしれない。この『流しそうめん対決』はどれだけ食べられるかが争点ではあるが、前提は食べられない、ということだ。いかにして食べるのか。それを試されている。


「了解!」


 ぼぅふっ!

 景気の悪い音の直後、私の構えた箸はただの短い棒になっていた。箸の先を持って行かれたとういう感触すら感じない、圧倒的な速度。

 俺は死ぬかもしれないな。


「ハイジさん、ここ狙ってください!」


 良崎は特大の力士のぶちかましやアメフトのタックルを受けるように重心を落として体を斜めに構え、肩を砲口に向けMサイズの大皿を盾のように構え、その下に受け皿としてかLサイズの大皿を置いている。なるほど、盾のMサイズ大皿でそうめん砲弾の勢いを殺し、下の受け皿のLサイズ大皿の上に落とす作戦か。考えたな、良崎。


 ―圧倒的に速く、強く放たれ。

 ―かすめ取り、剥ぎ取り、貫き、巻き込み、もぎ取り、なぎ倒し、行く手を阻むもの全てを破壊してまでも与えられたエネルギーを使い切るまで進む様は火の玉の如く。


 「流しそうめん」の名を冠しながらも、砲口を飛び出してからは何ものにも流されることなく貫き、与えられたエネルギーを使い果たしてやっと地球最強の力、重力によって地に落ち、宿命を終えて動くのをやめる。

 私の箸を含め様々な『抵抗』を突き破っても最後は地に落ちるのが流しそうめんの宿命ならば、自らがその流しそうめんの宿命最大の『抵抗』になろう。良崎自身もそのアイディアに歓喜し、驚愕し、そして悲嘆していることだろう。


 流しそうめんを『食す』宿命を背負った一人の人間が―

 本来『食べられること』を宿命とするはずの「そうめん」でありながら、「流しそうめん」になってしまったせいで『進むこと』を宿命づけられたそうめんを食べるために編み出した方法が……

 『掴む気さえ持たないこと』だったとは。

 『流しそうめん最大最後最期最難の敵』になることだったとは。

 『食す』より先に『斃し』……そして『地面に落とす』ことだったとは!


「よし! 受け止めろ! リーベルト!」


 ハイジさんが良崎を目がけて再び引き金をしぼる。

 べちゃあ!

 ハイジさんは目測を誤ったのか、盾の大皿どころか良崎にも掠めもせず再び背後で屑となる。


「……アメィジング」


 良崎は半ば臆したような目をしながら、口元には嬉しそうな笑みと相反する感情をその白皙の美貌に浮かべている。


「すまん外したリーベルト! 次は当てる!」


 良崎は今度は重心を落とすどころではなく、両膝をついて、限りなく低く構えて再び盾を持つ。


 ―地球最大の力、重力。その力が流しそうめんの背負った悲しき宿命に終止符を打つことはもう周知の事実である。

 その重力を我々は普段、どれほど意識しているのだろうか。例えば、自宅の居間でくつろいでいる時。或いは学び舎へ向かう電車の中。或いは温かい風呂に浸かり、一日の疲れを癒している時。

 17世紀、ニュートンが林檎が落ちる様に疑問を持つまで、誰が重力の存在に気づき、その力を称え崇めただろうか。しかし、我々人類は、否、地球に在るもの全ては46億年もの昔から重力に或るときは脅かされ、或る時は守られてきた。台風や雷や地震を超越し、遥か後方に置き去にする桁外れの『超自然現象』―それこそ重力である。

 良崎は重心をより落とし膝をつき、より重力に従い、より密接になり、「重力で地球の上に立つ人間」から地球と接点を増やすことで次の次元に進もうとしている。


 ―『直立した自分の体高』×『直立した自分の体高』=縦×横の一つの正方形の『ボックス』が人間の基本的な可動領域である。

 そしてその『ボックス』をさらに四つの正方形の『ゾーン』に分ける。その四分割した『ゾーン』の、下の二つの正方形―

 その底辺二つの正方形のうちの一つに自分の全質量を収め、敢えて自らの可動領域の4分の3を放棄することで、自分の質量を一か所に集中凝縮させ、全て地球に差し出したことにより、その恩恵を最大限に受けることを許される。

 その『究極の構え』を取った人間はもはや「地球の上に立つ」人間を越え、「地球の隆起の一つ」と呼べる存在になる。

 良崎は自分の全質量と可動域を引き換えに地球最古にして最強のポテンシャルの庇護を最大限に借り、あのそうめんを止めるつもりだ。もう良崎の頭にはそうめんを止めることすらもないだろう。究極の『停止』は活動するものに対し最大の『邪魔モノ』になるのだから。今、良崎は思考さえも『停止』に徹しているのだ。

 「重力」+(「可動域の放棄」+「地球との密着」)=『超停止!』 → 対決大学第三回戦勝利!!!


「止めるぞリーベルトォオオオ!!!」


 ぼぅふっ!

 飛び出したそうめんは地球と一体化した良崎の盾を直撃し、そのまま盾を砕いて良崎の顔面を直撃、『超停止』を吹き飛ばす。


「地球が……負けた」


 仰向けに倒れる良崎を目を丸くして眺め、わなわなと震える私の口から飛び出たのは地球最大の敗北宣言だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ