【然るべく 水玉模様と 雨粒と】第17話 対決大学 その15
完全復活を主張する良崎に対し、あの民間療法程度の処置では心配だという私と水原さんと小林氏の主張で良崎は一度病院にて検査を受けることになったが高速で雑巾がけをしていたら床に固定された爪切りに躓いて壁にぶつかったとは言えず、階段から落ちたということにしてレントゲンを含む精密検査を受けたが結果は異状なし、それどころか良崎は昔にストーブの角にぶつけて以来曲がったままになっている足の小指の骨も治っていたという。小林氏によれば良崎完全回復の際にハイジさんが使用した陣は『萬斎抄』なる古典で打撲、骨折等の打撃による傷を治す神を記す際に宛がわれた文字だという。古典『萬斎抄』についての詳細は我々がゴールデンウィークに出かけた際に小林氏から聞いた。確か、既存の文字一文字一文字を八百万の神を表す表意文字に昇華させた国宝級の書物だとか。
怪我の功名でとてつもなく健康になってしまった良崎は私達の制止も振り切り、今の状態のいいままこれまでの二回戦の汚名を返上いたいと対決大学第三回戦の実行を要求した。
本来今日は第四回戦まで執り行う予定だったこと、医師の判断、本人の強い要求を受け、水原さんは対決大学第三回戦の実行を宣言した。
「では、対決大学第三回戦のルールを説明します」
病院を訪れた際に一度李威亜夢・弐伊尊ジャージと由按・幕例牙亜ジャージに着替えた良崎だが自主的にまた服装はゴスロリに戻ってしまった。見栄えが良い、という水原さんの言葉に準じてか、二回も戦犯になってしまったという自責の念かはわからないがこの対決大学を盛り上げようと気持ちは強くなっているのだろう。
「えー、初夏でございやす。夏と言えばそうめんだぁね。流しそうめんなんていうのもオツなもんだけど、おめぇ、自宅じゃそうそうできやしねぇ。毎日毎日そうめんそうめん、朝そうめんを食って、昼高校野球で手に汗握ってそうめんを食うってんだ。おっといけねぇ、宅配便だぜ。お中元はなんだろか? 箱を開ければまたそうめんときたもんだぜ。おっ母さんも茹でて冷やせばいいから手軽でいいわ、なんて夜もまたそうめん。黄色に緑、赤のそうめんをおかずに白いそうめん。そうなっちゃいくら夏の風物詩でもいい加減堪忍袋の緒が切れるってもんでぇございやす」
流石、下町は人形町出身。水原さんが見事なべらんめぇ口調ですらすらと口上を述べる。ギャラリーも惜しみない拍手を送る。仮に台本通りだとしても、名ばかりとは言え流石『演劇サークル』会長と私は舌を巻くしかない。
「おい、またお中元だ。どうしてくれるんだぜ。もう喰いきれねぇ量のそうめんだぜ。俺はもう喰いたくねぇぜ。そうだ、明日食おうってんだ。いや、明後日。いやいや、いっそ腹いっぺぇ食いたくなるくれぇそうめんが恋しくなるまで食いねぇでおこうってんだ。そうしているとそうめんってなぁ、溜まるものでございやす。えぇい、そんなそうめん、しとつのこらず流してしまえ! ってぇ訳で兵学部のみなさん、おねがいしやす!」
合点でい、と気風の良い返事をして兵学部の学生が木目の模様に紺色がアクセントのバズーカを一丁水原さんに手渡した。
「つうことで、対決大学第三回戦は『何キロ食えるかな? 去年のそうめん一斉処分スーパー流しそうめん大食い対決!』」
ギャラリーが歓声と拍手を送る。おそらく、兵学部の学生全員はいるのではないか。少なくともこの対決大学の対決の中では初めてまともなPR、小さいころから兵器が好きだった、将来は兵器に携わる仕事がしたい! と思っている受験生には夢の道しるべとなるだろう。
水原さんとハイジさんと小林氏は人目に触れることに一日の長があるのか全く平常心どころか観客の視線に心地よさすら感じているようだが、私と良崎はこれがデビュー戦となる。先ほどの水原さんの江戸っ子口上でもわかったようにあの三人は舞台に立つ、台詞を言う、大勢の人の前に立つということに慣れている。即ち、本当に演劇の経験があるということだ。演劇に挑戦してみることを諦めて早二か月、私は今運命の岐路に立っているのかもしれない。




