【然るべく 水玉模様と 雨粒と】第15話 対決大学 その13
「対決大学第二回戦、『雑巾早かけ対決』のルールを説明します。『ビックリ人間チーム』と『努力家さんチーム』で指定したコースの雑巾がけをしてもらいます。ランナーの交代は自由です。コースは第一校舎廊下、約50m」
50mの雑巾がけ!
ハイジさんが頭を抱え、その場でうずくまる。
「50mってお前……サークルの人数足りないからPR撮るために50mの雑巾かけるってバカじゃねぇのかよ」
毎回、対決内容の発表の時のハイジさんは完全に素の状態なのだな。陣内先輩に戻るのだな。攻めるのは好きだが攻められると途端に陥落する、自分の予めたてた予定にそぐわないとパニックになるタイプか。
「決定です」
水原さんが強い口調で突き放す。
「リーベルトが、リーベルトがスカートです」
「そうですわたしスカートです」
良崎も挙手をしてハイジさんに加勢する。嫌なことから逃れるときのこの二人のコンビネーションは抜群だな。
「こんなか見てくださいジャージ入ってるぅ」
予想以上にハイジさんが嫌がっているからか水原さんの調子が上がってきている。颯爽と大きな紙袋を取り出し、その中からえんじ色のジャージを取り出し、良崎に渡す。
「あれ、そのジャージ……いや、いいや」
李威亜夢・弐伊尊って書いてあるぞ、あのジャージ。返してやれよ、リーアム・ニーソンに。出来れば96時間以内に。そうじゃないとあいつはきっとヒャッハー雑魚を狩るケンシロウ感覚で我々を殺すぞ。
「一発目で一晩粘ってサバとザリガニしか釣れねぇ対決して二回戦で雑巾がけってのがもうダメなんだよ!」
「ですから、スピーディに行こうと思いまして」
「一晩釣れませんでした、退屈な映像だったんでだったら50m雑巾かけるよってお前らやっぱりバカだろ」
その場でうずくまり膝を抱え始めるハイジさんと対照的に良崎は覚悟を決めたのかジャージを持ってどこかへ向かう。そしてそのリーアム・ニーソンのジャージをフリル付きスカートの下に履いて再び現れ、手を後ろで組んで悟ったように一言も発さない。もうハイジさん以外は覚悟を決めている。私もこの対決大学で結果を残さないことには目立つことが出来ない。
「曾根崎くん、運動得意?」
「いえ、得意というほどでは」
作戦会議が始まったようで水原さんが私に小さな声で尋ねる。『ビックリ人間チーム』は悲しげな目で良崎がまだ立てないハイジさんを見下ろすだけだ。その後、良崎が雑巾を握り、向こうの第一走者は良崎で決まったようだ。
「ごめん、わたしはすごい苦手なの。50mなんて無理だから、すぐに交代できるように並走して。向こうはどちらも体力は折り紙つきだし」
戦車をぶん投げたりできるくらいだしな。もちろん、あのピシュンで一気に50mいってしまう可能性もある。その場合は流石に反則にしてほしいが。
「わたしは並走した後に交代して雑巾がけなんて無理なの。先に全力を尽くすわ」
『ビックリ人間チーム』第一走者:良崎・リーベルト・アンナ
『努力家さんチーム』第一走者:水原銀子
約50mの第一校舎廊下のスタート位置に到着し、水原さんと良崎は雑巾を絞って来たるべき開始合図に備える。どうやら対決スタートは次の講義開始のチャイムのようだ。講義中は当然、廊下の人通りは少ない。
-対決大学 第二回戦 『雑巾がけ50m走』ルール-
・からぶきを禁ずる。ただし一度濡らしているのであれば水分の裁量は自由。
・走者の交代は自由。交代の回数にも限度はない。
・開始は5限目開始のチャイムとする。
・最も目覚ましい活躍をした者には区間MVPを与えるものとする。
「そういえば、妨害ってありなんですか?」
先日の第一回戦で妨害を受け、さらに自分の妨害は妨害されたことを思い出した。ハイジさんはもちろん、私は良崎にも復讐の動機がある。
「今回はナシで」
「お前はわたしに復讐をしようと思ったのか」
雑巾を引きちぎらん勢いで絞る良崎。一方水原さんはほとんど絞っていない。中途半端に水分を絞るよりも、びちゃびちゃでもスラスラと速度を落とさない戦法だろう。そののち、リトリウムの床がどれだけ滑ることになろうがこの際お構いなしということか。何かの騒動の予感を孕ませつつ、二人はスタート位置に着き、開始のチャイムを待つ




