【然るべく 水玉模様と 雨粒と】第14話 対決大学 その12
部室の扉にさがっていた札の場所に行き、そこにゴスロリを着た良崎がいるということはつまりそういうことだ。
対決大学第二回戦。
「曾根崎二番」
ニヤリと口角を上げ、手に提げた見覚えのあるコンビニのビニール袋からプロレスラーカードチップスの袋を一つ投げてよこす。先日の対決大学第一回戦の際に買い出しで私が買ってきたものだ。あの時は「さすがに太る」と女性陣からの強い抗議により空腹に耐えることを選択し、チップスは良崎が持ち帰ることになったのだがまだ開けていなかったようだ。
「開けないのか?」
「みんなで開けるのが楽しいんじゃない。みんなでカード見せ合うのが」
ニョホホホ、とハイジさんを真似たような笑みを浮かべた。良崎の言うみんな、とは『演劇サークル』のことを指すのだろうか。そうだろう。先月私が目撃したように本来、彼女が身を置く環境は『孤独』と『虚無』だ。良崎の居場所は『演劇サークル』しかない。ならば、ハイジさんはあのバーベキューの時の「お前に居場所を分けてやる」のマニフェストを実行したということになる。……なんだ、この月末みたいな雰囲気は。
ピシュンッ!
「う、うぉえ……」
「待った?」
例の音とハイジさんの口癖が重なり、ハイジさんが四つん這いになってえずく水原さん小林氏と共に現れた。
「ハイジさんもどうぞ。銀さんと小林さんは……」
食えと言う方が無理だろう。二人は今、吐いているんだ。
「おぅ。これ、気になったけど買ったことはなかったからなぁ」
受け取った瞬間にハイジさんは袋を破り、みんなで開けたいという良崎の希望も儚く散った。
「お、これレアなんじゃね?」
ハイジさんカードを裏返し、解説に目を通す。私に向けられた表面には野球帽にリストバンド、デニムの短パンを履いた男、文字は印刷されるのではなくカードに刻まれるように立体的にも見える。
「レジェンド、ジョン・シナ フィニッシャー『AA』。AAってなんだ?」
「アティテュード・アジャストメントですよ!」
良崎が興奮した声を上げ、ハイジさんの手からカードを奪い取る。
「『LEGEND! John-Cena』。シナ、まだ現役なのにレジェンドなんだ! これレアですよ! キラキラだ初めて見た!」
「レジェンドねぇ。かっこいいな。やるよ」
ハイジさんが欠伸をかみ殺し、水原さんのすぐそばに座り込んで顔色を伺う。
「とんでもない! ただでは受け取れませんよ!」
良崎も自分の分のカードの袋を破り、中身を確認する。
「あぁ、わたしはシェイマスでフィニッシャーも『ホワイトノイズ』かぁ。もう持ってるので交換する分にはわたしは構わないんですが、そんなこっちだけ得をするようなことがあっていいのでしょうか」
「好きにしろよ」
「すまない、私はシェイマスの『テキサスクローバーリーフ』と『ブローグキック』は持っているが『ホワイトノイズ』はまだなんだ。譲ってくれないか?」
と四つん這いのまま口を抑えて小林氏。良崎の『ホワイトノイズ』が小林氏、『レジェンドカード』は良崎へ。
少しひきつった笑みを浮かべるハイジさんと、無邪気にはしゃぐ良崎。吐く水原さんと、嬉しそうな小林氏。
「すみません、お見苦しいところを」
生まれたての小鹿のように小林氏は立ち上がり、撮影の準備を、負けじと水原さんも立ち上がり、二回戦の準備を始める。
「体力勝負なので準備運動をしておいてください」




