【然るべく 水玉模様と 雨粒と】第13話 対決大学 その11
東の空の色が紺色から藍色に、そしてその藍色も淡くなりつつある。日が明けるのだ。
私は相変わらずザリガニ狙い、水原さんもブラックバス狙いだがサバ以降釣果はなし。ハイジさんも惰眠をむさぼる良崎に代わってグランドシーサー用の竿を振るうが、二度目の夜這いを敢行した際に受けた二連撃で負傷した(一発目は精霊アクアクがその身を呈した)左手のせいで十分に力を発揮できているとは言えない。
しかし、左手を負傷していなかったら逆転できたと言えるだろうか? 再び潜水して、あのピシュンで水底のタカアシガニでも運んで来れば『ビックリ人間チーム』は逆転できたんじゃないのか。答えはノーだ。ハイジさん含め全員が疲れ切っているのだ。もう潜水やピシュンどころか無駄口を叩く余裕すらなく、餌の付け替えなどの間隔も長くなり、気力のみで噛り付くように貯水池を睨み付け、やる気なく腕を振るだけだ。
「日昇まであと1分」
小林氏の宣言と同時にハイジさんは腰の入った前傾姿勢になり、全力でリールを巻き始めた。この『日の目を見られない貯水池』対決で初めてグランドシーサー用の竿がしなり、唸る。
「1分か!」
ハイジさんは急に元気を取り戻す。水原さんも唇を噛み、眉を八の字にしてその動向を見守っている。あの巨大な竿と針だ、当然獲物も巨大だろう。700点程度のリードで足りるのか……?
そう思った時には、私が『努力家さんチーム』の勝利のために取るべき行動はわかっていた。まだ、ハイジさんに激しく非難の声を浴びせることが出来るほど余裕があったあの頃。ハイジさんがまだ潜水もピシュンも意のままだったあの頃。ハイジさんが何をしたか私はまだ忘れていない。
「天に滅せい陣内!」
そう、妨害だ。私は開始早々、ハイジさんの妨害により竿を折られ、ザリガニ釣りへと移行せざるを得なくなった。その結果が700点という大きなポイントの獲得だが、700点を獲得するまで、希望もなくただするめを結んだ糸を池に垂らすことがどれだけ苦痛だったか。良崎のようにMVPを諦めて途中で寝る度胸もない。無駄かもしれないとわかっていても、私は勝利への挑戦を諦めなかった。そんな根性と努力が、負けてたまるか!
重心を低く保ち、私に気付きながらも糸を巻く動作で精一杯で躱すことも防御することもできないハイジさんの膝を狙う。私の攻撃が当たろうと当たらなかろうと構わない。私への反撃だろうがピシュンによる回避だろうが、時間稼ぎには十分だ。
「甘い」
私の視界が正しくない。地面や水面が水平に見えないのだ。そしてその正しくない視界は、どんどんと貯水池の水面に近づいていく。
その池の縁で、私に向けて拳を突きだしてニヤリと笑みを浮かべている良崎を見て私は何が起きたのかを理解した。そうか、私のハイジさんへの妨害は良崎によって妨害されたのか。もう何も言うまい。そのまま行け、ハイジさん。
果たしてアンタは……705ポイントの差を……埋められ……る、かな……?
-日昇 対決大学 第一回戦 終了-
「対決大学第一回戦『日の目を見られない貯水池』の結果は、『ビックリ人間チーム』陣内一葉、-5ポイント。良崎アンナ、0ポイント。合計-5ポイント」
リーベルトと呼ばれなかったことが嬉しかったのか、ハイジさんのマイナスと自らのスコアレスなどどこ吹く風と嬉しそうに口元をほころばせた。
「『努力家さんチーム』水原銀子、5ポイント。曾根崎忠、700ポイント。合計705ポイントで合計705ポイント。よって第一回戦の勝者は『努力家さんチーム』!」
勝利を収めた将として水原さんが宙高く拳を掲げる。水原さんは疲労で限界に近いものの、全身全霊の笑みを浮かべ、私の手首を掴んでそれも宙に掲げる。私もつい嬉しくて大声で歓喜の声を上げる。
「区間MVPは大きく差を広げる700ポイントを獲得した曾根崎忠くん」
「やった!」
その700ポイントの差をハイジさんは詰めることが出来なかった。最後の最後でハイジさんは釣り上げることに成功したのだが、釣り上げたのは全長10mほどの肉塊であったという。釣り上げた時点で既に死後かなり長い時間が経っていたようで腐乱がかなり進行しており腐臭もひどくとても置いておくはできず、さらに死体であることからポイントもつかずということで正体を確かめる前に貯水池に投げ捨ててしまったらしい。その決定的瞬間に私は良崎から受けたダメージで貯水池に沈んでいたので立ち会ってはいない。カメラに収められた映像を観たが、確かに肉塊としか言いようのない状態であったが10mというサイズ、1m以上はあると首と思われる部分から私はネス湖のネッシーではないかと疑ったが私以外はウバザメであるというのが最終的な見解であるようだ。
とにもかくにも我々『努力家さんチーム』は第一回戦を制し水原さんは『演劇サークル』の全権限と『演劇サークル終身名誉会長』『演劇サークル終身名誉マドンナ』の肩書、私は『演劇サークルのツッコミ王』の肩書とサークルにおける拒否権とMVPの副賞金一封獲得のための先手を取ることに成功した。
しかししっかりと睡眠をとった良崎と超人ハイジさんはさておき、大勝利を収めた『努力家さんチーム』は続くその日の講義、嘘のようにボロ負けした。




