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うぉくのふぉそみつ リターンズ  作者: ムッシュ志乃
6月編
39/185

【然るべく 水玉模様と 雨粒と】第12話 対決大学 その10

「ちょっとハイジさん、何してるんですか?」


 ハイジさんが気配を殺し、抜き足差し足でガンセキオープンの荷台に忍び寄っている。その目的は明らかだ。水原さんがそれを敢えて問うのはハイジさんの良心に賭けたか、問うことで考えを改めさせる牽制だろう。


「でかい声出すな夜這いに決まってんだろ」


「アンナちゃん起きてー!」


 水原さんが金切声をあげると、「があああああ!!!」と良崎が倒したはずの『冥府の王』が再び起き上がり、言葉でなくとも心で理解できる『憎悪』の声を私達に叩きつけた。


「なんかいるのか」


 計らずもハイジさんは『冥府の王』の声で跳ね起きた良崎と『冥府の王』の間に立つような形になっている。良崎からすれば、寝ている自分を『冥府の王』からハイジさんがかばっているように見えたかもしれない。


「とぅ」


 ハイジさんがガンセキオープンのタイヤを蹴ると、バンッ! と何かが弾けて砕けるような音がしてきらきらと輝く板のようなものがタイヤ跡地から飛び出し、浮遊してハイジさんの肩の上に浮かんでいる。その板の放つ光で辺りはまばゆく照らされている。


「ワシがついている時は、一度、敵から身を守ってやるぞ! 2枚集めるとキラキラ光ってとてもカッコイイぞ! ワシを3枚集めると、神秘のパワーが爆発じゃっ!」


 どうやら板と思っていたものは、中年から想念の男性の顔を模したお面のようだ。羽根や毛で修飾されておりかなり派手だ。その面の模様は本物の顔のように表情を浮かべ、ハイジさんに語りかける。でも、正体はわからないので小林さんお願いします。


「な、あれは精霊アクアク! まさか私の車にもいたとは……」


 『冥府の王』の黒金のような角が嘘のような速度で嘘のような長さに伸び、ハイジさんの胸を貫いた。

 私含む全員が悲鳴を上げたがハイジさん自身は全くの無傷、しかし先ほどまでハイジさんの余裕の表情を照らしていた精霊アクアクが消えてしまった。どうやら、本当にハイジさんの身を守ってくれたらしい。自分の存在と引き換えにだ。今、ハイジさんがどんな表情をしているかはわからない。しかし、あの精霊アクアクがもしハイジさんにとって大切な存在だったのならば、その心中は穏やかではないだろう。

 ハイジさんが少し重心を下げ膝の上に手を置き、力士が四股を踏むように足の裏を強く地面に叩きつけた。


 ダンッ! ウンガガ!


「このステージは真っ暗じゃから、ワシが明かりになってやろう。時間が経つと力がなくなるので急いで行くがよい。ワシも若い頃は、もっと長持ちしたものじゃがのぅ」


 妙な効果音と共にハイジさんの足の下から再び、光る派手な板こと精霊アクアクが飛び出し、再び辺りが光に照らされる。


「があああああ!!!」


 『冥府の王』は内臓から縮み上がってしまうような怒声をあげ、強力な弓で巨大な矢を飛ばすようにハイジさんに角を伸ばす。ハイジさんはそれをひらりとかわすが、右腕の袖の先が角に触れて切り離され、その場で宙に舞う。


「手強いな。大丈夫かアクアク」


「大きなロボットにはリンゴバズーカじゃ。なぁに、お前さんならチョチョイのパーじゃよ」


 長年つき添って花も嵐も乗り越えた相棒同志のように声を掛け合うハイジさんと精霊アクアク。


「ありがたいね」


 ハイジさんは今度は鞭のようにしなりながら追撃を緩めない『冥府の王』の角を躱しながら大きな木の枝を拾い上げた。そして体全体を捩じって大きく振りかぶり『冥府の王』を左目で睨み付ける。その構えた一瞬を見逃さず『冥府の王』は角を目一杯伸ばしてハイジさんを取り囲む。

 ピシュン。

 またあの音だ。聞きなれたあの音。ゴールデンウィークのドライブで初めて聞いて史上最悪の乗り物酔いをして以来、幾度となくハイジさんはあの音と同時私達の予測や常識の範囲を超えた場所に突如現れたり、消えたりを繰り返した。しかし、その音が何を意味するのかを知っていたからといってどこに現れるかなどは予想もつかない。


「『僕自身』」


 その点、今回はわかりやすかった。周囲が暗闇に包まれていながらも、ハイジさんの傍らには光を放つ派手な板こと精霊アクアクがいる。その光源が自分の背後に一瞬にして回り込んだことに『冥府の王』が勘付くのにそう時間はかからなかった。


「『貯水池を出る喜びはあった』!」


 ハイジさんが漫画やアニメのキャラクターのように必殺技を叫んで木の枝を振り抜くと、そのノリに乗ってくれたのか『冥府の王』は野球ボールか子供向けアニメの憎めない敵役のように空に向かって飛んでいていき、オチをつけるかのように最後はキラーンと光った。


「打ちすぎて申し訳ない」


 捨て台詞を吐いて無造作に木の棒を投げ捨てるその姿はイケメンヒーローそのものだった。いるよなぁこういうタイミングだけいいやつ。

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