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うぉくのふぉそみつ リターンズ  作者: ムッシュ志乃
6月編
36/185

【然るべく 水玉模様と 雨粒と】第9話 対決大学 その7

‐午前2時‐


 つまみに買ってきたスルメを糸の先に吊るして貯水池に垂らしていたら、なんとザリガニが連れてしまった。


「小林さん釣れました!」


 ザリガニなどサバに比べればポイントなどたかが知れているだろうが、それでも加算されることには変わりはないだろう。ハイジさんがまだ戻らず、良崎がグランドシーサー狙いでいる現在、ビックリ人間チームはまだスコアレスだ。良崎は悔しそうに舌打ちをし、水原さんが黄色い声を上げる。


「アメリカザリガニは……1ポイント!」


ビックリ人間チーム 0ポイント ― 6ポイント 努力家さんチーム


「いや、700ポイント!」


ビックリ人間チーム 0ポイント ― 705ポイント 努力家さんチーム


「700!?」


 全員が思わず大声を上げる。


「このザリガニは子持ちだ。ザリガニは約700個の卵をつけるんだよ。だから700ポイント」


「インチキだ!」と良崎が低い声で唸り声をあげる。グランドシーサーは一匹何点だろうか。仮に良崎がグランドシーサーを釣り上げても705ポイント以下ならば私たちの勝ちだ。我々努力家の努力家たる由縁は、挑戦への心だ。挑戦することこそが努力なのだ。釣り対決で釣竿が折れてもなお勝ちへの執念を失わず糸とつまみだけでも戦おうとする逆境挑戦の心もまた然り。挑戦し続ける限り努力の余地はある。逆境だろうと努力家は挑戦を諦めない。努力で勝ち取った700点だ。


「どうした、挑戦してみろよ良崎」


「沖縄の守護神の捕獲得点がたかが子持ちザリガニ一匹に負けるわけがないわ!」


「諦めるんだなぁ、才能じゃどうにもならないこともあるんだぜぇ? 才能に勝るのは積み重ねた努力と不屈の精神だよ」


 良崎は釣竿をその場に置き、口をへの字に曲げてきりりとした足取りで荷物の置かれたガンセキオープンへ向かう。


「ちょっと休みます。曾根崎死ね! ちょっとお腹も減って来たし」


「じゃあ、わたしもちょっとお腹の虫抑えに」


 と水原さんも席を立つ。


「でもこんな夜中に食べて太らないかしら?」


「一日くらい大丈夫ですし、十五回戦もやれば心労で自然と痩せますよ」


「……ごめんね」


 今の棘のある発言で水原さんのカロリーも少しは消費されただろう。


「せっかくビールもあるし……って思ったけどアンナちゃん飲めないのよね」


 いや、そもそも大学構内で酒を飲むことが間違いであってな、とは買ってきた私自身の口からは言えない。私が悪かった。責任を取ってその指摘役は辞任しよう。だから小林氏、先に常識人代表としてそれを諌めてくれ。


「いえ、わたしは飲めない訳じゃないんですよ」


 ガサガサとガンセキオープンの荷台から私が買ってきたレジ袋を引きずりおろし、眉間に皺を寄せて手に握ったビールの缶を見つめる良崎。


「数秒だけ酔うんです。数秒だけ意識がなくなるんですけど、意識が戻ると周りがみんなキョトンとしてるんです。きっと何かしてるんだと思うんですけど意識が戻った時に脱いでることもないので大丈夫とは思うんですが。ハイジさんのいぬ間に飲んでみるのもいいかもしれませんね」


「え、じゃあやめておいた方が……」


 水原さんの制止の声を押し切り、カシュンと心地よい音を立ててプルタブを引き、グイっとまた心地よい飲みっぷり。私は近寄るべきか近寄らないべきか。数秒だけ酔う良崎がどうなるのかはわからないが、脱ぐことはないと言っていた。脱ぐことはなくとも、周りが血の池になっていたことはあるのかもしれない。ならば近寄らないのが得策だが、意識が飛ぶほどの何かが起きるのならば、今回は……今回は脱ぐかもしれないじゃないか! この暗闇でその一瞬を堪能できるのか、もっと近寄らねばならないんじゃないのか曾根崎忠!!! 男だろう、オスだろう曾根崎忠! 血を見るのと痴を見るの、天秤にかけた結論はどちらだ!

 混乱する私の脳に対し、脊髄はその停滞した審議を振り払うようにガンセキオープンへの歩みを進めていた。


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