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うぉくのふぉそみつ リターンズ  作者: ムッシュ志乃
6月編
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【然るべく 水玉模様と 雨粒と】第8話 対決大学 その6

 ハイジさんを除く全員分のプロレスラーカードチップスとお茶を4本、そしてどうせ飲みたくなるだろうし飲んだら乗らないだろうとビールを4本。読み物として『世界のペリカン目ハシビロコウ科ハシビロコウ図鑑』なる500円の本、プリンと少々のつまみを入れたレジ袋を携えて貯水池に戻ると、水原さんと良崎と小林氏が釣竿も持たずにガンセキオープンの脇で固まり、どこか一点を見つめている。


「どうかしましたか?」


「曾根崎くん、あそこの茂みに何かいるみたいなの」


 水原さんが池の縁の林を指さし怯えた声で言った。枝葉を広げた木々が光を遮り、鬱蒼とした闇を一段と濃くしている。その指の先に目を凝らすが、光量が足りず三人を安心させられる言葉を発することはできなかった。


「ハイジさんじゃないですか?」


「隠れ蓑はあそこに落ちてるし、ハイジさんだったら水に潜ってたんだからあんなに乾いた音は出ないわ。それに、ハイジさんの目の光の色は赤だし。あれは黄色って言うか、緑って言うか」


 背筋がぶわっと粟立つ。ハイジさんではない何かがあそこにいるのか。この貯水池にはサバがいた。もう何がいてもおかしくない。グランドシーサーの可能性もある。


「と、とり、とりあえず」


「なんだお前は。DJか」


「火を焚きましょう!」


 進言するが、「さすがに退学だの思うの」という水原さんの声で却下となった。車のライトを点けてみることも提案したが、下手に刺激しては飛び出されるかもしれない。目が光るということは暗闇にもある程度対応した生物、人間では敵わないだろう。良崎がいるとは言え、こんな時ばっかり女の子にすがるなんて最低よ! せめてハイジさんがいたら頼もしかったのだが……。


「これ、撮影したらドキュメント系ホラー映画みたいで面白いんじゃないですか?」


 とりあえずはユーモアがあれば少しは緊張がほぐれるだろうと軽口を叩いてみたが、小林氏は本当にカメラを真っ暗な林に向け、「今、我々の目の前に正体不明の生物がいます」と中南米で謎の生物を探す探検隊のようなナレーションを入れる。

 ガサッ……

 草を踏み、葉のこすれる乾いた音。全身ずぶ濡れのハイジさんでは出せない音だ。そして、一つ、蛍のような光が暗闇に浮きあがり、その光が二つに増える。つまり、なにかが正面を向き、その双眸が私を捕えられている可能性があるということだ。


「うわ、大きいよあれ」


 良崎がか細い声を上げるが、咄嗟にグランドシーサー用の特大の釣り針は持ってきていたようで、襲撃に備えてしっかりと針を握っている。


「……ネコかしら?」


「いや、あんなでかいネコいないですって……。いや! あんなでかいネコいないですって! やばいってでかいってトラだって!」


 トラ! もう言うな良崎! もうトラにしか見えないじゃないか!


「命には代えられません、火を焚きましょう!」


 私は全員に火を点けられる何かがないか尋ねたが小林氏は焦ってライターを暗闇に落としてしまう。


「うわ、トラまた動いた!」


 良崎もう何も言わないでくれ! 本当は私が一番大声で叫びたいんだ。コンビニから帰ってこなければよかった! 助けてくれハイジさん!


「ううっ」


 断末魔のような声をあげながら何か決意したように水原さんが駆け出す。大声を出さずにその動きを目で追ったが、水原さんは先ほど私が投げ捨てたマテバを拾い上げたようだ。弾詰まりを起こさないのがリボルバーの利点、拳銃があればトラ相手でも急所を捉えればなんとか出来るかもしれない。水原さんは一人離れて拳銃を構えている。リボルバーの天敵はシリンダーを抑えてしまうような勇気ある臆病者だが、ここには勇気あるものなどいない。臆病者と阿呆だけだ。


「うわ、また動いた……ん? 曾根崎くん、良崎さん、あれ、角ないかい?」


 小林氏の気の抜けた言葉。


「うー……ん、んん? あれ角じゃない?」


 良崎も続く。確かに、二つの光の上に木の枝のようなものがあるが枝ではないのか? シカじゃね?


「角だとしたらよりマズい可能性がある。我々は昨月、7体の贋作ロボットに関与した……。原作では7体のロボットやそれに関与した者は竜巻に巻き込まれて死ぬか巨大な角を持ち『冥府の王』と呼ばれるロボットに殺害されるんだ」


「う、うわぁああ」


 カサ、カサ。

 私が悲鳴を上げきらないうちに二つの光は地面を這うほど低い位置に移り、草を食む音が聞こえてきた。


「ん?」


 ――さぁ、神無月だ。出番だよ、先生。

 ラジオを受信するように急に、急にいい声が頭蓋骨に響いた。


「あ、シカでした」


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