【然るべく 水玉模様と 雨粒と】第7話 対決大学 その5
「きたッ!」
糸がピーンと張ってギターの弦のように振動し、竿をしならせて私の手元へ獲物の手ごたえを感じさせる。
「曾根崎くん巻いて!」
糸が切れないように注意を払いつつ、緊張で荒れた呼吸を整えながらリールを巻いて糸を手繰る。しかし、ある程度巻いてからはピクリとも動かない。むしろ、獲物の強すぎる力で糸がどんどん引っ張られているようだ。
「随分と大物なようだ! 曾根崎くん! 無理して巻かず、相手の消耗を待つんだ!」
「曾根崎流ローマ式コンクラーヴェ!」
小林氏が緊張した面持ちでカメラを向け、私もそれに応える。(※コンクラーヴェはローマではやりません)
ギュルギュルと糸がどんどん暗水に飲み込まれていく。畜生、魚め。ここからは根競べだ。この手ごたえならば、多少時間がかかってもかなりの大物、高ポイントも期待できる!
「止まった!」
「巻くんだ!」
うぉおおお、とは声に出さずとも心の中で雄たけびをあげ、一心不乱にリールを回す。
「魚影が見えてくるぞ!」
「チャンスニツヨイヨカンチャンスー!」
下っ腹に力を入れて叫ぶと、水面に不気味な影が。信じがたいのだが魚影から察するに大きさは150cmを楽々超えている。まさか、グランドシーサーか? あんな針と餌で本当にこんな大物が食いついたのか! よく持ちこたえているな、竿と糸!
「オラァ!」
ぐいっと止めを刺すつもりで一気に竿を立てると、水面から見慣れた帽子が顔を出した。
「くたばれ!」
私のルアーを鷲掴みにしたハイジさんがイルカショーのイルカのように勢いよく水面から飛び出し、竿の先端をもう片方の手でがっちりと握りしめ、そのまま水に飛び込んだ。当然、その勢いと力には敵うはずもなく、世界の終わりを告げるように竿がポキリと折れてしまった。再び潜水したハイジさんの気泡が浮かぶ水面で、糸で繋がった竿の先端がプランプランと揺れている。
「か……ぁ……」
頭を鉄球で殴られたような衝撃と燃え上がる木造納屋のような怒りで私は声にならない声を喉から絞り出した。
「くぅ……ハイジさんは何ポイントですか?」
「釣り上げていないので0です」
ビックリ人間チーム 0ポイント ― 0ポイント 努力家さんチーム
ちくしょおおお!!! 妨害ありにもほどがあるじゃねぇかよぉ!!!
‐午後11時‐
ハイジさんへの怒りもオーバーヒートしてただ座っているだけの時間が過ぎ、辟易していた頃にやっと水原さんの竿がしなった。ハイジさんの竿折り以降初めてのヒットだ。
「来ました!」
「またハイジさんかもしれませんよ」
良崎が意地の悪い笑みを浮かべる。そういえば良崎は『ビックリ人間チーム』、ハイジさんの妨害工作があればあるほど彼女はその恩恵を受けるのだ。まぁ、グランドシーサー狙いではせっかくハイジさんが工作をしても0ポイントのままかもしれないが。私の竿が折れてしまった今、その『ビックリ人間チーム』の完封を狙うためにも、水原さんには是非ここで1点でも稼いでほしい。
「マテバでよければ」
私はハイジさんが残していった拳銃を手に取り、安全装置を外して撃鉄を起こし、水原さんの糸の先に向ける。ハイジさんの妨害なら私は怒れる男として銃弾をブチ込む所存だ。
「大丈夫みたい!」
ぐい、と止めを刺すように水原さんが竿を引くと、糸の先に流線型に縞模様の魚がぶら下がっている。
「釣れたー!」
水原さんが満面の笑みを浮かべ、魚を高く掲げた。私も拳を振り上げて雄たけびをあげていた。
「フム、これは昆布の香りとお酢かげん、腹持ちのいい未来のきずし、『サバのきずし』」
水原さんが釣りあげた魚は見た目からはその種類が不明だったが小林氏が実際にさばいて調理して口に運び、サバと認定した。
「5ポーイント!」
ビックリ人間チーム 0ポイント ― 5ポイント 努力家さんチーム
なぜサバが淡水の貯水池にいるのかは不明だが、5ポイントを獲得したことに変わりはない。良崎も渋い顔をしながら、ちょいとつまんだサバのきずしを口に運んでいる。そういえば私たちは夕食もまだだった。
「お茶が欲しくなる味じゃないの」
「あ、買ってきましょうか」
私は挙手をする。幸いコンビニも歩いて10分ほどの場所にある。竿の折れた私の出番はハイジさんのように潜水が出来ない限り日昇までないであろうから、せめて買い出しの役くらいは買って出よう。
「じゃあ、プロレスラーカードチップスとお茶。あとは甘いものと何か読むもの」
「わたしはお茶をお願いしていいかしら」
「僕はビール……という訳にはいかなかったんだ、そういえば車が」
小林氏はがっくりと肩を落とす。




