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うぉくのふぉそみつ リターンズ  作者: ムッシュ志乃
6月編
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【然るべく 水玉模様と 雨粒と】第3話 対決大学 その1

 六月とはどうも忌み嫌われる月のような気がしてならない。我々にも猛威を振るった五月病を六月まで引きずるものもいる。祝日もない。梅雨入りによる連日のぐずついた天気が気に食わない。新入生だからと歓迎される機会も、もはやない。けだるい暑さの日もあれど、夏だからと浮かれることもできない。一学期最大の中だるみ、それが六月だ。


『本日午後6時30分サークル棟前全員集合 水原』


 常に誰か(主にハイジさん)がごろごろとしている部室の窓に、かわいらしく尚且つ読みやすい水原さんの小づくりな文字で書かれている。元々明朝体で『演劇サークル』の紙が内側から貼り付けられているのだが、そのサークルの看板の上に貼り付ける蛮行が水原さんの何かの決意の強さを感じさせる。

 ドアノブに手をかけたが、私は踵を返して午後6時に備えることにした。






「なんだろうなぁ。6時半って何やるんだろうなぁ。いくら夏至の月だとは言え、流石に日は沈むぜ」


 今日は珍しく、ハイジさんが私達と同じく困惑する立場にいる。


「立食パーティーとか手塚赤塚二大パーティーとかだったらいいんですけどね」


 常にハイジさんに惑わされる立場にいる分、良崎の方がよっぽど肝が据わっているようで、軽口をたたく余裕もあるようだ。どちらかというと私も良崎に近い。不安なのは、今回の発端が水原さんだということだ。ハイジさんが奇行に我々を巻き込むのはもう珍しいことでもないが、水原さんがここまで大がかりな奇行をするとなると何か思いつめているのではないかと勘繰って不安になってしまう。水原さんの身が。


「まぁ、銀さんが企画であの人がいる以上、そう辛いことになりそうにもないけど。二人とも暫定人畜無害だしね」


 と、黄昏の向こう側を良崎が指さす。その先にはハンディカムを構えて運動会で子供たちの雄姿をフィルムに収めんとする日曜日のお父さんこと小林氏とその愛車ガンセキオープン。


「いや、リーベルト。ああいうヤツらに限り、愚痴で話が盛り上がったりしてタガを外すと恐ろしいことするぞ」


 緊張しているのか、ハイジさんにはいつもの奇行がない。ただのお兄さんに成り下がってしまっている。

 時計の針が午後6時30分を指す。

 ドン、ドン、ドドン、ドン、ドン

 小林氏がハンディカムを三脚に固定し、ひらりとガンセキオープンの荷台に乗った。夕闇と車前方部に隠れてしまって目を細めても見えないが、この逞しく勇ましい轟音は恐らく和太鼓だろう。和太鼓の心得まであるのか。本当に趣味に生きているんだな。


「控えろ、控えろ! 頭が高い! お前たちが、簡単にお会いできるような、方ではない! 静まれ! 弁えろ! 『演劇サークル』初代会長様のお出ましだ!」


 和太鼓にも負けない声量で小林氏。『演劇サークル』初代会長?

 バシーン! とその和太鼓と小林氏の口上を遮るように、既聴感のある扉を蹴破る音。アホな小鳥の雛のように私とハイジさんと良崎がサークル棟の方へ目をやる。『演劇サークル』の充てられた部屋の扉の前の柵の上に、いつもより気合の入った軍服、つまり少佐クラスから元帥クラスの軍服に身を包み、勇ましさと誇り高さを放つ佇まいの水原さんが立っている。その水原さんは羊皮紙かパピルスのような分厚さと厳かさを兼ね備えた紙を一枚、目の前に掲げた。その間に小林氏はガンセキオープンの荷台から降り、ハンディカムをその水原さん(元帥)に向けている。


「やぁやぁ陣内一葉! 貴様の数年に渡る活躍、敵ながらあっぱれであった!」


 目一杯の声を張り上げ、重みのある声でそれを水原さんが読み上げる。


「おぃあぶねーから降りろ!」


 負けじとハイジさんも声を張り上げる。


「溢れんばかりの才能と行動力は評価に値するものではあるが、その能力を世のため人のために使っていると尋ねられたら貴様は首を縦に振れるのか!」


「いいから降りろっつってんだよ! お前運動神経悪いじゃねぇか!」


 水を差すなよ。やらせてやれよ。やらせてやれって! 水原さんだって頑張ってるじゃねぇかよ! 今まで散々蓄積してきたストレスがああいう形で発散されているだけだろう。少々痛々しいがあの程度の暴走で住んでいること自体が奇跡なのだ。


「生まれ持つ能力と歳の功にものを言わせ、『演劇サークル』会長たるこの水原銀子を差し置き事実上の覇権を握るその横暴を見過ごすことはできぬ! そして良崎=リーベルト・アンナ!」


「銀さんまでそれを言うんですか!」


 良崎は随分と水原さんを信頼しているのだろう、リーベルトと呼ばれたことがよっぽどショックだったのか普段の水原さん(少佐)並みの涙ぐんだ声を上げた。


「生まれ持つ美貌にものを言わせ、サークル紅一点のマドンナの称号をこの水原銀子から奪い去ったことを看過することはできぬ! 生まれ持った容姿のみで労せず手に入れた玉座に胡坐をかく姿、片腹痛し!」


「わたしはそんなつもりはありません! 危ないから降りてください!」


「以上を踏まえ、我が『努力家さんチーム』より、天賦の才のみで地位と名誉を手に入れた『ビックリ人間チーム』に対し当大学の全十一の校舎と四つの施設で全十五回執り行われる戦の宣戦布告をするものとする! ……もうわかったであろう。現時点を持って当大学は、対決大学となるのだ!」


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