【然るべく 水玉模様と 雨粒と】第2話 沖縄土産ドラフト会議 後
「基本的にはローチンで守り、ティンペーで突く琉球に伝わる武器だな。俺も一度達人と立ち会ったことがあるがこれがまた強くてなぁ。俺のスーパーウルトラサンボマンボマーシャルアーツも無意味だったよ。『心眼』を習得していれば自分の視界ごと相手の視界もローチンで隠して、『心眼』で相手の位置を見抜いて刺すことが出来てより強力だ」
「わたしはいりません」
良崎が突っぱねる。
「僕もいりません」
「うるせぃ。どっちか持って帰れ」
「わたしはちんすこう持ち帰ります。ティンペーローチンは」
「ありがとうございますッ!」
「曾根崎が持って帰ればいいじゃないですか」
「逆でもいいじゃないか。俺がちんすこうでお前がティンペーローチン持っていけ」
幸いにも良崎は今は畳の縁正座中だ。座ったままではちゃぶ台の上のちんすこうには手が届くまい。ならば先に奪ってしまえばいいのだ。私がちんすこうを先に手中に収めれば自動的にティンペーローチンは良崎のものとなる。
「ぅごぉおおおああああ!!! ……るるーん」
割れているにも関わらず、窓ガラスが太鼓の膜のように震えるほどの轟音が響いた。
「グランドシーサーか。大分キレてるな」
午後からの雨脚の様子でも語るかのようにハイジさん。しかし、私は今の怪獣の雄たけびにすっかり縮み上がってしまった。
「さっさと持っていけばいいじゃない曾根崎」
その硬直を崩すように良崎。そうか。ちんすこうなど所詮食べればなくなってしまうお菓子。しかし、ティンペーローチンはしばらくは使える武器だ。少なくとも、この部屋でグランドシーサーから身を守り、反撃する程度の役には立つ。
「いや、ここは良崎に譲る。ハイジさん、ティンペーローチンを」
「お前、いらないんじゃないのか?」
少しいじけた目つきでハイジさんはティンペーローチンを大事そうに抱えた。大事なペットを可愛がれない里親には出せないのは理解できるが、それはイヌやネコではなくティンペーローチンだ。
「良崎もいらないって言ってたじゃないですか」
「じゃあいいよ。お前ら二人でちんすこう半分づつ持ってけよ。ティンペーローチンはこばやっちゃんにやるよ。それとも水銀、お前のお父さんこういうの好きそうだよな?」
いや確かに骨董品ではあるし小林氏も好きそうな一癖ある品だが……愛でるよりも先に武器である以上、有効活用できるならば使ってくれる人に譲るべきではないか。
「いや、ほしいんですよティンペーローチンが! くださいよティンペーローチン!」
私は精一杯ハイジさんの情に訴えかけるが訝しげな目をしてティンペーローチンを渡そうとしない。
「良崎もほしいか?」
「ティンペーローチンほしいです」
「ありがとうございますッ! ティンペーローチン入りましたッ! ……わかった。じゃあ、ティンペーが曾根崎で、ローチンが良崎! ちんすこうも分け合い!」
「逆で、逆でお願いします! ティンペーが良崎で僕にローチンをください」
仮にこの部屋がグランドシーサーとの決戦場となった場合、槍で攻撃役に回るのだけは勘弁だ。いくら段ボールに大人しく詰められていたとはいえ、相手はその段ボールから解放された直後助走なしで窓ガラスを突き破っている。その脚力の前では私の命など風前の灯火であろう。ならば私は盾で自分の身を守る。それに攻撃は良崎も得意とするものだろう。
「じゃあ、良崎がティンペーで曾根崎がローチン。異論ないな」
「はい」
「……もういいですよ。それで」
良崎は腑に落ちない不満げな声を上げたが私はもうこれで満足だ。あとはグランドシーサーがこの部屋に乗り込んできたらハイジさんと正座を解除された良崎が二人がかりで倒せばいい。
「るるーん!」
私と良崎がそれぞれをハイジさんから受け取った直後、機の見計らったかのようにグランドシーサーが窓枠から飛び込んできた。その形相はもはや神ではなく悪魔であり、数万年にも及ぶ恨みを晴らすかのように歪んでいる。
「るるるるるーん!」
がこん!
飛び込んできた勢いそのまま、グランドシーサーは元いた段ボールに収まり、二度と出てくることも奇声を上げることもなかった。
「グランドシーサーはきちんと心得た怪獣だからな。人を襲ったりはしねぇよ。水銀、ほらよ、シーサー」
ハイジさんはそのまま段ボールにガムテープで封をしてグランドシーサーを封印してしまった。その段ボールを水原さんの元へと運ぶ。
「あの、ハイジさん。重そうなので、人形町の実家に着払いでいいんで送ってもらえないですか?」
申し訳なさそうに水原さんが言うとハイジさんも「……いいよ」と少し残念そうにつぶやいた。
「お前のお父さん宛てでいいか」
「はい」
六月になりました。私は元気です。




