【馴染まねば 治りもしない 五月病】第21話 ゴールデンウィーク地獄旅行 その18
目を少し充血させた水原さんが助手席に乗り、全員が気絶しておらず正気のままで、私たちはやっと昼前に学校を出発した時と同じメンバーに戻ったことになる。車の中にも黄昏の闇が漏れている。群馬の街頭や看板、車のライトに体をさらし、誰も何も言わずに車の振動にすべてをゆだねて進む。
水原さんにおもちゃ箱のことを問うのは野暮だし、これから一直線に東京に戻るかどうかを聞いてハイジさんと問答をするほど体力は残っていない。「じゃあ瞬間移動で帰る?」などと言われようものなら自分を呪うしかない。
「ブラック大魔王は、実は愛されていたんですね」
水原さんがポツリとつぶやいた。
「ん?」
「実は愛されていたから勝てたんです。わたしも、いつも見ててブラック大魔王が勝てばいいのにって思ってました」
「勝てなかったけどな。ニョホ」
ハイジさんはからかうように笑った。水原さんだけはブラック大魔王がどうやって勝ったことを知っている。その真相はおもちゃ箱の中だ。
「でも、少なくともわたしだけは知ってますから」
ハイジさんがまたニョホ、と笑った。
「何をきれいにまとめようとしてるんだお前は。後ろの一年坊どももこれにてエンディングとか思ってんじゃねぇだろうな。スタッフロールにはまだ早いぞ。お前ら後ろ見てみろ」
私の脳内ではすでに『ロマンティックあげるよ』が流れていたがそのレコードの針を止め、言われるがままに体を反転させて窓ガラスから後ろを覗くが、どっどどどうどどどうどどのエンジン音の小林氏のガンセキオープンのライトくらいしか注目すべきものはない。
「嘘、あれ小林さん?」
水原さんが驚いた声を上げると、良崎はバツが悪そうに身を屈めた。
「実は、東京からずっとこばやっちゃんのガンセキオープンが俺たちの旅のお供をしてくれていた。主に荷物を持ってもらったりな」
「そんな、小林さんも暇じゃないでしょうに」
それについては賛成しかねる。というか、さっき全員柳女史の庭で一緒に瞬間移動酔いと戦ったじゃないか。やっぱりご都合主義で忘れ去ったか。
「しかぁーし! こばやっちゃんのガンセキオープンにはまだ積荷がある。水原の荷物も消化してねぇしな……さぁ野郎ども! 気持ちを切り替えろ! 花見の準備だ!」
ほ、北海道にか! これからはもう無理だ。本当にこの旅は『クリーデンスクリアウォーターフィールド』がゴールだったと思い込んでいた分、緊張の糸は切れている。
「だから桜は散ってますって……」
「てめぇらソメイヨシノだけが桜だと思ってるような馬鹿野郎は粋ってものを知らねぇな。芝桜の旬は今なんだよ」




