【馴染まねば 治りもしない 五月病】第20話 ゴールデンウィーク地獄旅行 その17
「陣内」
店の外に『アンティーク水原私物5号機』をつけ、その脇で水原さんを待っていると、店長が店から顔を出した。
「弾いてみるかい?」
その手には、店内に飾られていたギターが握られている。照れを隠すような涼しいハイジさんの表情が少し揺らいだ。ガンセキオープンの運転席に目をやると、小林氏も目を輝かせている。やはり、あのギターもなにか希少な価値があるものなのだろう。昔イエス・キリストが布教をする際に弾き語りをしたとか。
「いいのか?」
「やりたいならおやり」
「じゃあ、遠慮なく」
店長からギターを受け取ったハイジさんはストラップを肩にかけ、慣れた手つきでネックを持ち、チューニングをした。勘を取り戻すように少しかき鳴らした後、一つ咳ばらいをした。
「生まれ持つー暴力センスー今ここでみせろー、気迫では負けはしないリーベルト=良崎。かぁっとぉーばぁせぇー! アーンナー! 行けー我らの良崎ー闘志燃やし飛びたてーお前の拳で決めてやれーサークルの若大将ー。かぁっとぉーばぁせぇー! アーンナー!」
この最高に整ったシチュエーションで水原さんじゃなくて良崎でいいのか。
「俺、真面目になったら世界中のOASISはビートルズを超えられないって人たちを論破することさえできる気がする」
苦笑しながらハイジさんは店長にギターを返した。
「気に食わないねぇ」
店長も苦笑を浮かべ、一枚のレコードをハイジさんに投げた。
「いいオトコはいいラブソングの一つでも持っておくべきさ」
しかし、ハイジさんはそれを取りこぼし、レコードは無残にも地面にたたきつけられた。
「……今の送球エラー? それとも捕球エラー?」
「神の審判に任せるしかないね」
ハイジさんの台無しスキルはすさまじいな。自分が台無しにするだけではなく、他人にまで台無しをさせるほど強い台無しフィールドだ。
「なるほどねぇ」
ハイジさんはレコードを拾い上げるが、中身が無事かどうかは定かではない。
「おいクソババア」
「なんだいクソガキ」
「年を取っても若いままってのは、羨ましいな。てめぇみたいなババアがいるか、って思っちまうようなババアが本当にいるってのはなんだか信じがたいが、俺も自分の老後がちょっと楽しみだぜ」
「お前が言うには50年早いよ」
今、築かれたばかりの友情を確かめるかのような二人の笑い声。
フッ、なんやねん。
「じゃあ50年後にまた来てやるよ。死ぬなよババア。おい曾根崎リーベルト。車の中で待っててやろ。お迎えはやっぱり俺だけでいい」
水原さんがあのおもちゃ箱を、持ってくるのか持ってこないのか。それは店を出た時にしかわからないだろう。もし、私が車の中にいれば当然視界は狭められる。もし持ち帰ってきてもトランクに入れられてしまえば、私にはわからない。つまり、ハイジさんはそのことの結末を見るな、と言っているのだ。
「はっきり言って、見直した」
良崎が悔しそうにつぶやいた。
「本当に曾根崎の言うとおりならね」
「なんだか、すごい悔しいなぁ。あのエセ金田一! 北海道に花見に行かなかったのは気にマジで食わないけど!」




