【馴染まねば 治りもしない 五月病】第18話 ゴールデンウィーク地獄旅行 その15
「クリーデンスクリアウォーターフィールド」
到着した先の店にかかっている古ぼけた看板の文字を読み上げる。
「クリーデンスクリアウォーターフィールド?」
「水原のお父さんの祖父の弟夫婦がやってた店だ」
つまり、水原さんの大叔父さんの店か。漂うコーヒーの匂い、ここもまた水原さんの実家と同じく喫茶を生業としているようだ。
「なんで大叔父さんが関係あるんですか。本当に小さい頃しか会ったことないのに……」
恥ずかしさで顔から火が出そうだ、というのは当事者が言うセリフだが今の私でも十分に水原さんの言葉を代弁できる。幼い頃にしか会ったことがない大叔父さんもまさか自分の親戚の子供が軍人の恰好をしてベンツに乗ってくるとは思わなかっただろう。
「それが、関係があるんだ」
ハイジさんは意気揚々と扉を押す。カランカランと心地よいベルの音の余韻が残る中、店内にかかっている古さを感じさせるカントリー風のロック。茶色やベージュを基に作られた店内は、喫茶店と言うよりも海外のバーのような雰囲気。ギターやドラムセットも置かれている。
「約束の時です、店長」
ハイジさんの声に呼応するように、カウンターの向こうから高齢の垢抜けた、でも痛々しくない女性が一人歩いてくる。
「七体の贋作は揃えました。代わりに、壊させていただきますよ」
「銀子ちゃん……?」
ハイジさんを素通りし、水原さんの鼻先三寸まで近寄る女性。どうやら彼女が店長らしい。確かに、ハイジさんは大叔父さんが店長とは一言も言っていない。店のネーミングは明らかに水原姓を持つ大叔父さんが元ネタだろうが、こういう場合もあるのだろう。
「お久しぶりです」
苦笑を浮かべながら水原さん。
「随分と大きくなったわねぇ。この男に何かひどいことはされてない?」
「されてないですよ。とってもいい人です」
そこは躊躇わずに言い切る。それでこそ水原さんだ。それについて良崎が否定することは契約違反になるし、私が否定すれば「然るべきプレゼント」の然るべきものがよりひどくなってしまう。
「遠いところご苦労様。ゆっくりしていきなさいな。陣内、お前の用があるものは裏よ。主人はいないわ。もしお前の顔を見たら殺してしまうって言ってたもの」
どうやらハイジさんはあまり歓迎をされていないようだ。
「はいはい。じゃあ、お前らはその辺でミルクでも飲んでろ。俺はちょっと用があるから」
ハイジさんは店長と共に店の奥に消える。真っ赤な顔の水原さんは居たたまれない顔で水を飲み、良崎が心配そうにその顔を伺う。
実家のみならず、血縁的にも地理的にも遠い親戚がハイジさんの射程距離に入ってしまったのだ。恥ずかしさも恐ろしさもひとしおだろう。
「これ……かぁ。ちょいと骨が折れますな」
「折ってやっても構わないんだよ」
水原さんと良崎から目を逸らし、バックグラウンドミュージックの奥から聞こえてくる何やら物騒な会話に耳を澄ます。
「いえいえ。俺はこのために自分の宝も世界を掌握する力も手放したんですから。店長、ちょっと下がっててください。本当に骨が折れちまいます」
ピシ、と一気に張りつめすぎた空気が裂けるように感じるほどの緊張感が漂い始める。
「うぁぉらぁああああ!!!」
ビッ、バシュウ、ウウウ……
ハイジさんの気合の籠った後に、どこか歯切れの悪い音。水原さんと良崎もその音にどうしても耳を傾けてしまうようだ。
「ずあっ!」
でぃ、ばっしゅうーん! シュインシュインシュインと心地よく流れるように音が続く。
ああ、ハイジさんまたアレやってるなぁ……。
「ひぃ」
店長の恐れおののく声。
「てぁ!」
ガチガチガチと、金属が小刻みに震える音。
ぴょろるん
「ん?」
「ん?」
「ん?」
? ? ?
キュイィィイイン、ドッ!
「いい加減にぃ……くたばりやがれェー!!!」
「きゃあ」
店長の悲鳴。
バッ、ズズズズゥン……
この重厚な音に私は聞き覚えがある。ハイジさんと小林氏がリアルウイニングイレブン対決を行った際に、ハイジさん、小林氏、水原さんがそれぞれ爆弾を踏んだ直後に閃光と共に弾けた音だ。
「へっ、ガラクタめ」
キュポン、と緊張の糸が緩む音とハイジさんが得意そうに鼻を鳴らす音。
「七体の贋作を代価に、俺が出来るのはここまでですね。ただ、できることならこれは銀子とあなたの前で開けたいんですが構わないですね?」
銀子。




