【馴染まねば 治りもしない 五月病】第16話 ゴールデンウィーク地獄旅行 その13
そういえばハイジさんは集めた七体の贋作は前橋市内の何処かへ運ぶという。北海道での花見も楽しみではなかったと言えば嘘になるのだが、あのピシュンで北海道に運ばれたのではたまらない。渋滞で10時間かかってでも帰りは車でお願いしたいところだ。
柳女史の弟子の一人(今度は痩せた態度の悪いチビ男)が中性的な顔立ちの贋作『エクシオン』をいじくると、コォンともゴォンともとれる鐘の音のような音を立てて『エクシオン』の頭上に朧げな天使の輪のようなものが浮かび上がり、機体全体が淡い黄色の光を帯び始める。
「やっぱり贋作は本物よりもスペックが低いね」
「それはしょうがないことだ。本物の『エクシオン』と『アツム』が実在したらその存在だけで世界は滅びる。よし、『エクシオン』、飛べ!」
再びコォンの音を鳴らし、贋作『エクシオン』は見えない糸で釣り上げられるように浮上し、徐々に加速して上空へと消えていった。その贋作と言えども現在の科学技術を遥かに上回る性能に思わず感嘆の声が漏れてしまった。その間に日本人の子供の形をした『アツム』とメカメカしい『ポーラ』のチューンも終わったらしいが、その二体は耳を塞ぎたくなるような無骨な轟音を立ててジェット噴射で『エクシオン』の後を追った。
「よし、じゃあひふみんありがとな」
『スーパー武田信玄 聖! 風林火山!』と書かれた少女漫画を柳女史に投げて渡し、ハイジさんは再び『アンティーク水原私物5号機』の運転席へ。私は柳女史に一礼し、水原さんもそれに倣って車へ。後部座席には既に良崎と、白人の中年男性風の贋作『ゲシュタルト』が乗せられている。まだ体調が悪い良崎は本気で視線で人を殺すことを試みるようにハイジさんを睨んでいるが隣に鎮座している『ゲシュタルト』のせいでその光景はどこか滑稽なものへと成り下がってしまっている。
「じゃあ、本当にありがとう。この礼はいずれってことで」
窓から顔を出し、ハイジさんは軽く柳女史に手を振った。
「ひふみん、斎藤さんと鈴木さんを過労死させるなよ」
「残念、あの二人は過労死したがってる」
柳女史は物騒なことを口走って笑い、少し急ぐように扉の向こうへと戻って行った。そういえば、ハイジさんがここまで別れを惜しむのは初めて見るかもしれない。里心をつかせない彼女なりの気の使い方だったのかもしれない。
「よし、行くか」
「今度はどこですか?」
「お前にだけは絶対教えない」
水原さんの当然の質問を突っぱね、ハイジさんはハンドルを握った。
「Hello, Haiji here....Yes, I seemed to have flight off target. Uh...looks like I'm in a GUNMA of some sort. …What!? Well you told me to enter into MAEBASHI covertly! Won't you have JINNAI-BUNKO people work this out? Just be there for my extraction later,OK? Thanks! んあああ! 面倒くせい! 日本語に切り替え!」
ぶぅううん、と運転席がまた青い光を帯び始め、カーナビに踊る『大江戸通運とアンティーク水原はイースト・トーキョー・ユナイテッドを応援しています』の文字。荷を積み終えたのか、同時に小林氏のガンセキオープンのどっどどどうどどどうどどの独特のエンジン音も聞こえ始める。
「あれ? そういえば小林さんいつから……」
「発!」
ぽこん。
知ろうとしたが故に水原さんもあの孫悟飯(青年期)の得意技コマンドを食らって気を失ってしまった。確かに、小林氏は私には自分がつけていることをあっさりと認めたしそれはハイジさんも公認だった。しかし、小林氏は水原さんと良崎から隠れようとしていた。そして今も水原さんが小林氏のことを尋ねたらあの孫悟飯(青年期)の得意技コマンドだ。さっきの瞬間移動酔いの時は誰も気にしていなかったようだが、あの時は周囲の人間に気を配れるほど余裕がある常人はいなかった。何故私は知っていていいのだろうか。
「わたしにもそれを使ったんですか」
かすれた声で良崎が呻く。いや、良崎。ハイジさんはもっとやばいのを使えるみたいだぞ。それこそ地球がやばいくらいの。
「渋滞でいっそ気絶した方がマシだと思ったら、またやってやるよ」
「帰りは自力で寝ます」
あのトンデモビックリ技を目の当たりにしてもその程度のリアクションで済ますことのできる良崎の豪胆さにも驚くが、今日のハイジさんは水原さんに対していつもよりもひどい。




