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うぉくのふぉそみつ リターンズ  作者: ムッシュ志乃
5月編
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【馴染まねば 治りもしない 五月病】第15話 ゴールデンウィーク地獄旅行 その12

 瞬間移動。

 超能力と言えば念力、透視、テレパシー、そして瞬間移動だ。かの有名な野比のび太ももしもボックスを使って超能力を手に入れ、念力を使いしずかちゃんのスカートめくったこともある。超能力とは人間の憧れだが叶わない憧れだからこそ夢があり、体験できないから幻滅することなく憧れることが出来る。


「オォウェ……」


 私が初めて体験した超能力は瞬間移動であったが、その酔いのひどさは車や船などとは比べ物にならない。現に今、瞬間移動で前橋に移動した私、水原さん、良崎、小林氏の全員がだだっ広いどこかの庭先で両手両膝を突き、あるものはえずき、あるものは吐いている。


「もう、前ばぅおえ」


 良崎は涙だの吐しゃ物だのを地面に零しているが、それでも現状確認は怠らない。恐らく、いつまで経っても辿り着かないパニックを瞬間移動酔いが上回って逆に冷静になってしまっているのだろう。


「前橋だよ」


 ぐるぐると定まらない目を凝らし、この庭の持ち主であろう家の表札を見る。場合によっては散る寸前の大学生×4の詫びを五体投地で謝らねばなるまい。

 柳一二三。


「ひふみーん、来たぞー出てこーい」


 ガラガラとサッシを引く音の後、敷居を跨いでTシャツにジーンズの背の高い女性が現れ、腕を組んで呆れたようにため息をついた。


「それよりも後輩の心配しなよ、先輩」


「柳一二三……本物だぶぅぇ……」


 どうやら小林氏の属する私の知りえない世界ではヤナギことひふみんこと柳一二三は有名な人間らしいが、小林氏、散る。


「心配して治るものでもないけど、せめてポーズだけでも取るべきだったかな?」


 ノミの心臓ほども心配するそぶりを見せない態度の何が悪いとでも言いたげにハイジさん。


「取るのが賢いリーダーだね」


 柳女史が水原さんに手を貸し、体を持ち上げる。水原さんはまだ吐かずに持ちこたえている。


「君、根性あるね。そこの君も。瞬間移動酔いでそこまで持ちこたえるのはすごいことだよ」


 と、空いた方の手で私を指さす。


「そこの君も大丈夫そうだね。そっちの君は体調がよくなるまで楽にしてるといい。すぐに弟子を呼んでくるよ」


 吐いた分楽になったのか、手を貸そうとした私の手助けを断って小林氏は自力で立ち上がった。そうでなければタカ派揃いの『演劇部』の長は務められないのだろう。いや、もしかしたら今は小林氏のマニアックな趣味のミーハーブースターが彼の体を無理やり動かしているのかもしれない。

 体調がよくなるまで楽にしていると良いと言われた良崎はまだ動けないと見える。


「千鶴ちゃーん、庭の子看病してやって。さて、残ったメンツはとりあえず顔を洗おうか」






 バブル景気の日本を濃縮したような成金趣味の意味不明な掛け軸。あちこちに飾られたトロフィーや賞状、やたら広い家。柳一二三というこの女性は若くして数々の栄光を手に入れてきたようだ。今、庭から玄関まで良崎を運ばせたように弟子を従えていることも含めどこかハイジさんと関わりがあっても、さほど疑問は浮かばない。

 彼女も、ハイジさんと同じ仙人の類だ。そしてあの弟子の千鶴女史は柳女史の使役する式神かキョンシーだろう。


「柳さんってどういう人なんですか?」


 話し込むハイジさんと柳女史には割って入れず、隣でまだ酔いの余波を残した青い顔の小林氏に問いかける。


「日本で一番若くて有名な女性社長だよ」


「そう。わたし社長」


 地獄耳なのか柳女史が楽しそうに声をあげる。


「『ひふみ大百科をつくろう!』って面白サイトをやってるよ」


 そ、それはこんな一軒家を持てるほどに儲かるのか!? 水原さんの実家といい、詳細不明の富を得ている人間が多すぎやしないか!?


「柳さんは20歳で起業し、現在に至るまでトップ付近を走り続けているその方面では非常にご高名な方だよ」


 小林氏も解説役を買えたことが嬉しいのか、先ほどまでの酔いをふきとばすようにすらすらと続ける。


「トップ付近って、失礼じゃないですか?」


「いや、トップじゃなくてトップ付近だから面白いんだよなぁ、ひふみん。いつひふみん達がトップになるのかってのが馴れ合い信者たちの間では人気なんだよ。進化を続ける永遠の二番手。ひふみん達との追撃をかわし続け、進化を続ける一番手とのデッドヒート」


「そろそろ勝たせてもらうけどね」


 不敵に微笑んでカチ、とタバコに火をつける柳女史。


「鈴木さんと斎藤さんが辞めたら一気に空中分解する会社だけどな」


「だからこそ二人も休まなきゃいけないのにね。わたしみたいにたまには実家で一息つくべきだよ」


 おやすみ中に申し訳ありません、と小林氏が頭を下げたが柳女史は手をひらひらと振って


「気にしないでいいよ。どうせ暇だったから。さて、七体の贋作だっけね。揃えたはいいけど、どうやって運ぶ? さっき軽トラと既に集めた贋作は観たけど、あれじゃあ全部は乗らないよ。運べませんでした、じゃ日本中回って集めた憲次が報われない」


 ハイジさんと同じ浮世離れの匂いはするが、ハイジさんと違って随分と気持ちのいい人じゃないか。よっこらしょい、と重そうに腰を上げた。


「チューンしなおせば『エクシオン』と『アツム』と『ポーラ』は飛べると思うけど、モノがモノなだけに、空中から東京に近寄ると自衛隊だのガメラレーダーにひっかかるし」


「んー、飛ばすのでいいんじゃない? どうせ運ぶのは前橋から前橋だし。『モリブデン』はこばやっちゃんのガンセキオープンに乗るだろうし、『ゲシュタルト』は俺の車の後部座席に乗せるよ。はい、約束の『萬斎抄』」


 ハイジさんが懐から例の『萬斎抄』を取り出し、柳女史に手渡した。名残惜しそうに小林氏がその行方を見守るが、柳女史はそれを手に取り、抽斗の中に隠してしまった。


「『萬斎抄』一冊と贋作五体で釣り合うんですか?」


 だいぶ調子が戻ったのか小林氏が問うと、柳女史は「唯一自由に動かせる『萬斎抄』が最も持ってはいけない男に手に渡った」と述べ、自分は『萬斎抄』の神は使役できない旨を述べてさらに自らの悪用の可能性を否定し、


「贋作五体で世界の平和を守ったと言っても過言ではないんだよ」


 と笑った。


「それに、探し集めるということは個人的には苦じゃないんだよ。宝も人材もね」


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