【馴染まねば 治りもしない 五月病】第14話 ゴールデンウィーク地獄旅行 その11
前橋まであと少しと迫ったサービスエリアで休憩を入れることにした。一人激しい運動をした良崎と違い、私たちは座りっぱなし、そろそろエコノミー症候群を危惧しなければならない上、精神衛生上そろそろ危険だ。私は車を降りて、小林氏のガンセキオープンの荷台に積まれた二体の贋作を観察してみた。筋肉質の一体と、それと比較してやや肥満体系ともとれるもう一体。二体とも表面の素材は不明、プラスチックのきめ細かいなめらかさを持ちつつも金属のような重厚感もある。高さは1m程と人間を模して造られたロボットとしては明らかに小さすぎる。格闘王には物足りないサイズだ。
それよりも、ここまで約4時間、あと五体も手に入るのだろうか。ハイジさんはとりあえず前橋に向かってはいるのだから前橋には少なくとも一体の贋作があるのだろうが、残り四体のうちの一体くらいは本当に北海道にあるかもしれない。残りは四国、北海道、九州の可能性だってある。
「ん? 揃えてくれたんですか。暇ですねぇ~。つうか、相変わらず自由人みたいっすねぇ、ヤナギさん」
ハイジさんはペットボトルを片手に誰かに電話をかけているが、どうやらこれから向かう前橋でアポイントメントを取った人物らしい。察するに気に置ける仲のようだが、話の内容から察するにヤナギさんとやらは「揃えた」らしい。何を揃えてくれたのかは明言されていないのでまだ安堵の息を突くのは時期尚早だが、懐に安心材料を忍ばせておくのは旅行鞄に頭痛薬を入れておくのと同じことだろう。
「あと……2時間はかかるんじゃないでしょうかね。まぁ、どうせ暇してるんでしょう、気長に待っててくださいよ。ニュースで渋滞してる高速道路の映像観て、ざまぁ見ろって高笑いでもして」
気を置いている仲なのか? 大分失礼な言葉を投げかけているが。ハイジさんが敬語ということは年上かある程度の地位がある人物のはずだが、ヤナギさんとやらはここまで暇、をいじられて気を悪くしないのだろうか。もし、本当に「揃えて」いるのなら、これで機嫌を悪くして九州やナメック星に「揃えた」何かを送り飛ばしてしまうことはないだろうか。
「はいはーい、こっちの手持ちは『萬斎抄』の写本と『スーパー武田信玄 聖!風林火山!』くらいですが、残りは出世払いも含めてってことで」
海外のアスリートの如くペットボトルのスポーツドリンクを浴びるように飲み、またもや海外アスリートの如く中身の残るそれを小林氏のガンセキオープンの窓から投げ入れた。
「こばやっちゃん、ヤナギさんが『モリブデン』『ポーラ』『ゲシュタルト』『エクシオン』『アツム』集めといたってよ。前橋でそれを回収するまで、もう一頑張りだ!」
その言葉は俺たちにかけろ。俺たちは行き場もわからずただ連れてこられてるんだ。この数時間で二回も失神した良崎も、目を覚ましたらまたパニックだぞ。
「曾根崎、そろそろ行くか」
「行きます」
ハイジさんの後を大人しく追う。
「ハイジさん、あの『ドラゴンボールZ レイジングブラスト2』の孫悟飯(青年期)の得意技コマンドみたいな技もう使わないでくださいよ」
アレが怖いのだ。あの掌でポンっとやって意識ガクーってなるやつ。
「どれのことだ?」
ハイジさんがしらばっくれた声を上げ、驚かせるかのように大きなアクションで振り向く。
「これ?」
開いた両掌を右脇腹で構え、有名すぎるアレのポーズをとる。
「それも出来るんですか?」
「これも……出来る! ちやっ!」
バシュウッ!!! シュインシュインシュイン……
「2にはまだなれないけどな」
ハイジさんを中心に群馬県のパーキングエリアの空気が渦を巻く。私の髪の毛も強風で後方に流れてしまう。
「わかりましからソレもコレもアレもやめてください!」
ハイジさんがにやりと笑うと、シュインシュインの音も止まり、風もピタリと止んだ。
「やんないから大丈夫だよ。やりすぎると水原のとっつぁんに合わせる顔がないからな。でも、いいや。もう面倒くさいから」
ハイジさんが眉間に二本の指を添え、水原さんと良崎の乗った『アンティーク水原私物5号機』に触れると、ピシュンという音だけを残してハイジさんも『アンティーク水原私物5号機』もどこかへ消えてしまった。ソレもできるのかよ。
ピシュンッ!
「曾根崎、車ごと運ぶからガンセキオープン乗ってくれ」




