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うぉくのふぉそみつ リターンズ  作者: ムッシュ志乃
5月編
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【馴染まねば 治りもしない 五月病】第7話 ゴールデンウィーク地獄旅行 その4

「えぇと、はじめてだから日本語で」


 シートベルトを締めたハイジさんが誰かと会話をするように呟くように言うと、どこにも触れていないのに運転席に備えつけつけられた機器達がエンジン音と共に青い光を放ち始めた。カーナビにも日本語で『大江戸通運とアンティーク水原はイースト・トーキョー・ユナイテッドを応援しています』の文字が浮かび上がった後、地図を映し始めた。しかし、その下のアンティーク水原の文字が消えることはないようだ。スポンサーへの恩義を果たすのはクラブとしての義務であり、その忠義は評価に値するものだがそれが原因で同じ車内にいる誰かが苦しむのだったら、しかもそれが後輩なのだとしたらやめてあげるのが先輩だろう。


「いいないいな、ワクワクするなぁ。よし、アンティーク水原私物5号機、発進!」


 私物かよ。水原さんの実家は一体どんな経営をしている喫茶店なんだ? てっきり想像では珍しいもの好きの娘を溺愛した物好き店長が、道楽でハイジさんに車を買ってやったものかと思っていたが、5号とは随分と裕福らしい。

 キュイーン! ピピピピピピ……エンジン音も変。


「幸せはぁ、歩いてこないぃだから歩いて行くんだねぇ一日一歩! 三日で三歩! できることならもっと歩けー」


 ハイジさんがギアを操作し、アクセルを踏み込むとツッタカツッタカと軽快なリズムが流れ始める。

 チキチキマシーンチキチキマシーン猛レェースー……

 あ、そうか。『チキチキマシン猛レース』は本当に見るのか。

 ちなみに、小林氏もガンセキオープンもどっどどどうどどどうどどと不気味なエンジンで真後ろについている。小林氏、決して悪い人ではないのだが、会長の仕事はどうした。ハイジさんの言うとおり、『演劇部』がただひたすら伝統をなぞるだけだからそもそも指揮を執る必要がないのか。良崎奪還の際には『神輿戦車シェリダンM.G』に石を投げつけるほどの蛮勇を振るった『演劇部』構成員たちは小林氏が爆破された時は微動だにしなかった。人望がないのではないだろうか。


「『チキチキマシン猛レース』はいつまで観るんですか?」


「飽きるまで」


「飽きました!」


 良崎が遠慮なく挙手をする。


「えぇ、せっかく水原さんが貸してくれたのになぁ」


 残念そうにハイジさんが呟くと、水原さんはまた顔を隠して「お父さんのバカー」といたたまれない声で叫んだ。


「そういうなよ水銀。お前、『チキチキマシン猛レース』大好きだったらしいじゃん。お前のお父さん、お前のためにブラック大魔王が優勝する絵本を昔描いたって言ってたぞ。あの絵本を大事にしまったおもちゃ箱はどうした!」


「なくなっちゃいましたよ! 陣内さんもうやめましょうよ『チキチキマシン猛レース』観るの! なんだか恥ずかしいことをどんどん思い出します」


 なにせハイジさんと意気投合するようなお父さんだ。水原さんは常にこうやって父に、そして先輩に、人が生きてくる上で必ずかく恥を露呈させられ、抉られて辱めを受けてきたのだろう。


「しょうがねぇなぁ。換えていいよ。DVDは多分、曾根崎の足の下あたりにあるよ。めぼしいもの選べ」


 私がシートの下を覗くと、確かに半透明のブルーのDVDボックスが置いてある。私は迂闊にハイジさんに渡すわけにはいかないと、先に隣の良崎に見せて検閲を試みた。


「『実録トラファルガー海戦』『ワイルドスピード』『REDLINE』『TAXI』『トランスポーター』『マッドマックス』……」


 なぜスピード狂の映画ばかりなんだ。こんなものをみたら爆走暴走曲走をしたくなるだけじゃないか。

 良崎は顔の前で×印を作り、首を大きく横に振った。


「ダメダメダメ」


 『実録トラファルガー海戦』が一番まともに見えるラインナップだ。あとは……

 『ドラゴンボールZ 劇場版』と手書きの文字。明らかにテレビ放送を録画してDVDに焼いた代物だ。


「ハ、ハハハハハイジさぁーーーん! この『ドラゴンボールZ 劇場版』ってってって! 相手誰ですかァーーー!!!」


 良崎がこれでもかというほどに目をむき、まともに発音すらできないほどせわしなく、一気にまくしたてる。その勢いには私も思わずひいたほどだ。


「ブロリー」


「ブロリー!!! ハハハハハハイジさーん! これ観ましょうよ! 私まだ観てないんですよ! 私のいつも行くGEOのこれ、昔誰かが傷つけぇて再生不能になってからぁ新しいの入れてないからまだ観てないんですよぉーーー!!!」


「うわ、お前気持ち悪ぃな……」


「気持ち悪くても結構です!」


「……見ろよ、勝手に」


「ありがとうございます! 本当にこのサークルでよかった!」


 こんなもので連れるのならハイジさんも『演劇部』もあんなダメージを負うこともなかったのに。良崎のあのファイトスタイルから察するに日本に存在する格闘漫画では『ドラゴンボール』と双璧をなすチャンピオンのアレの方が好きかと思われたがまさかこっちだったとは。かめはめ波は幼い頃に諦めてしまったのだろうか。


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