【天高く 木の葉の如く ゆれなずむ】第6話 戦国大学 その5
「フ、ネット投票の結果が出ているぞ」
控室にあてがわれた教室で、ジャージでため息をつく良崎にユダが持参のノートパソコンを向けた。
「ネット投票って…さっき数えたら観客28人しかいなかったじゃない。しかもそのうち4人は麻雀してたじゃない」
「その28人の投票の結果だ」
ヴェロニカ:茂木美々 1票
高氏院:三瀬清子 5票
アイドル同好会:花屋敷アサ 2票
童帝軍:良崎=リーベルト・アンナ 5票
進行:梶井基九次郎 15票
ドクターK 圧勝!!
「司会に大差で負けてるじゃないですか。他の候補ならまだしも、司会に負けてるもの。トリプルスコアじゃないですか、司会に。過半数持っていかれてるじゃないですか」
それでも良崎が5票取れているのはすごいと思う。一言もしゃべっていないうえにジャージだ。小林氏のあのスピーチはインパクトはあったがよい印象を持たれているはずあるまい。見た目のみで掴んだ5票だ。
「ドクターK、確かによかったですよね。全員まともに喋れてない中で孤軍奮闘してたし、失敗のはぐらかし方もうまかったし」
良崎をなぐさめてやるつもりでドクターKをほめると、良崎はドクターKに白旗を上げるのかうむ、とうなずいた。ついでにユダと童帝も。
「フ、そしてさきほどの泥仕合とドクターK人気では企画が成立しないと、2回戦からはテコ入れで大幅に企画が変わるらしいぞ。もう壇上に上がることはないようだ。全てネット中継にし、進行のドクターKは人気過多で降板、代役で陣内一葉」
だあああ! なぜそうなるのだ! ハイジさん進行だと? あいつはセコンドじゃないのか? 出来レースになっているではないか。
「フ、これは我々が勝てば、既に勝利を確信している陣内により大きなダメージを与えることが出来るということ」
改めてユダに一つ尋ねたいのだが、お前はハイジさんにどんな恨みがあったっけ? 芥川を偲ぶ会で一発殴られてはいたがその後はむしろ喜んで会に参加していたではないか。
「ネット中継ならお前も緊張しないんじゃないの?」
「大丈夫かもね。カメラの前は大学入ってから結構あったし。対決大学とか」
良崎は根に持っているようで恨めしげな視線を小林氏に向けるが、そこに小林氏はいない。
「やぁ、みんな、向こうで流しそうめんやっているよ」
「ちょうど今、それが嫌だったって話をしてるんじゃないですか。仕舞には殴るぞこの野郎」
小林氏本人は楽しそうに窓から身を乗り出している。
「何を言っているんだい君たちは。せっかくの学祭だよ。楽しまなきゃ損じゃないか」
「おぅ、良崎、俺もやってやるぞ。やる時は呼んでくれ」
私もつい苛立つ。
「フ、学祭は明後日まであるぞ。急ぐことはない。見ろ、ツイッターで茂木が棄権を表明したぞ」
「え?」
ユダがまたノートパソコンを我々に向ける。茂木は、結果が振るわなかったことを建前に、この泥仕合から一抜けするようだ。うらやましいやらなにやら。棄権できることなら棄権して気分を仕切りなおしてきれいな心でハイジさんたちと和解して学祭を楽しみたいが、ここ数週間の臥薪嘗胆の日々を思い出すと否が応でも良崎を王座に座らせようという気持ちが勝る。そして大した恨みもない訳ではないが、親の仇敵のようにこの数週間はハイジさんを恨んできたのだ。すぐに身は翻るまい。
「いよぉす。元気かボンクラ共」
扉をぴしゃりと開けて、意気揚々とハイジさんがやってきた。
「何をしに来た陣内」
童帝がハイジさんをにらみつける。
「そう目くじらを立てるなよ童貞野郎。昔を思い出そうぜ? 俺たちが大学に入ってきたころ、学祭ってのはこんなにギスギスしたもんだったか? 否。もっと全員が楽しめたろ。今回が異常なんだよ。俺が面白くしてやるからさ。リーベルト、お前に言ってるんだぜ。お前が緊張してると面白くねぇ。もっと肩の力抜けよ。本来のお前ならこばやっちゃんに頼ることもなく、梶井に負けることもなかったはずだ。俺はエールを送りに来たんだ。俺がこばやっちゃんの奇襲に度肝を抜かれたのは確かだ。場をわきまえていない内容だったが、あのスピーチは最高に面白かったよ。悔しいがセコンドとして一番活躍したのはこばやっちゃんだ。俺も見習いたい。だが、やっぱり俺が物申したいのはリーベルトだ。お前、なに緊張してんだよ」
と、ハイジさんが良崎の肩にぽん、と手を置いた。
「俺たちのサークルが本来の活動をしてたら、お前はどうするんだ? 舞台上で固まるのか? いいか、ダメな人間ってのは恥をかくことに弱く、恥を恐れる人間だ。今回は一生ついて回るような恥じゃない。ただの照れだ。ここまで、お前は自分に満足できているか? 強い人間は、不甲斐ない自分への復讐を行動で示せるヤツだ。お前はこのまま、弱い人間でいいのか?」
「…よくありません」
「じゃあ、やるべきことはわかっただろ。午後を楽しみに待ってるぜ」
良崎がうなづくと、ハイジさんはばいびぃと古臭い挨拶をしてまた楽しそうに去って行った。
「やるからにはちゃんとやろうって気になりました」
と良崎が言った。ハイジさんの見事すぎるエールに童帝もユダも目を丸くしたままだ。
「やっぱりすごいなぁ。僕はあれに勝てるんだろうか」
小林氏が弱音を吐いた。




