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五話 その鋭さ故に

 芝田一は織本の待つ海辺の家へと向かっている。疑いを晴らすために。杞憂が杞憂であることを願うために。願いと言うよりも、祈りと言った方が近いのかもしれない。彼は愛しい彼女の行方が心配でならない。織本に囚われている可能性があるならば、それを潰しておこうと考えていた。

 玄関のチャイムを鳴らした。織本が出てきた。

「やあ、高校以来だね。久しぶり。急に会いたいだなんて、家に行きたいだなんてさ。僕、困っちゃうよ」

「それはすまなかったな。どうしても確認したいことがあってな」

「ほう、そうかい。まぁ、立ち話もなんだ。入りなよ」 

織本が手招きをする。芝田はそれに従った。

「しかしまぁ、よくこんな所に家建てられたな」

「まぁね、僕の家は金持ちだし、いろいろとコネもあるのさ」

「へぇ、でも海辺だと潮風にやられてすぐにダメになってしまわないかい?」

「そんなことは無いよ。最近の技術はすごいもんでね。潮風なんてあんまり気にしなくてもいいんだ。」

「へぇ、すごいな」

芝田は応接室のような部屋に案内された。居心地が悪いと感じるくらい派手な内装だった。

「豪華だな。すごく派手だ。目に悪いくらいだ」

織本はそれに苦笑する。

「君は何かとズケズケ言ってくれるね」

「あぁ、悪いな。へそ曲がり者でな」

「はっは、そうかいそうかい。まぁ座りなよ」

彼は黒光りするソファーに座った。織本は金に縁取られたテーブルを挟んで同じ様に座った。

「さて、僕に聞きたいことってのはなんだい?」

「あぁ、それなんだが、うちの咲が居なくなってしまったんだ。本宮咲。同級生だろ?知ってるよな。でだな、どうやら連れ去られたようなんだ。何か知ってることは無いかい?」

それを聞いた織本が笑い出した。

「何を笑っているんだ?俺は真面目に話しているんだぞ?」

「あぁ、すまんすまん。君は本当に愉快な人だと思ってね。どうにも、ははっ!ポーカーフェイスは難しいな」

「おい」

「はっは、ははっ!申し訳無い。ちょっとトイレに行かせてもらうよ。あっはは!どうにも止められそうにないね」

その後も笑いながら織本は応接室を出て行った。芝田は存分に怪しんだ。織本がさらったのでは無いかと考えた。

「おい!いつまでトイレに居るつもりだ?」

「おや?君も使うのかい?ふっ!ははっ!あははっ!もう一個のトイレはそこの廊下を右に曲がって奥にあるよ。」

まだ笑っているようだ。しかもトイレまで教えてくれた。これは都合が良い。彼は家の中を散策した。もし見つかっても、トイレを見つけられなかったとでも言えば良いのだ。これで彼女を見つけられなければ、織本はただの変態ということで処理できる。可能性を一つ潰せるのだ。

 廊下を右に曲がって奥。では左に行ったらどうなるのか。行ってみることにした。それにしても部屋の数が多い。趣味は悪いが、豪邸と呼んでも良いだろう。

 家の中を歩き周り、数多くの部屋の中から、ある一つの異質な部屋を見つけ出した。その部屋は、外から見ても他の部屋と何も見た目に違いは無いが、雰囲気がまるで違った。

 ドアノブに手をかける。ガチャリ。開いた。その瞬間、猛烈な臭気が鼻を襲った。

「ウッ!」

思わず吐いてしまいそうな、そんな臭い漂うこの部屋に、一人の女性が囚われているのが見えた。汚物と、たくさんの食べ物にまみれて、部屋の臭気の根源となっている存在。それは紛れもなく本宮咲であった。

「咲?咲なのか!?」

もはや臭いなど気にならなかった。彼はドアも閉めずに走り寄った。

「一…?来て…くれたのね…あり…がとう…ありがとう」

彼女は消え入りそうな、か細い声で言った。

「咲!大丈夫か?辛かったろう、今助けてやる」

バタン。と、ドアが閉まった。彼は後ろを振り返る。そこには織本忠が立っていた。

「困るなぁ。本当に困るなぁ。人の家で勝手なことされちゃあよぉ、嫌な気分になっちまうよなぁ?普通はしちゃいけないよなぁ?」

怒りが、彼に沸々と湧き上がってきた。

「よくもそんなことが言えるなぁ!忠!お前よくもやってくれたな、許さんぞ!絶対に許さんぞ!俺の咲をこんなにしやがって!」

「俺の?俺の咲だって?何を言っているんだ?そうか、君も記憶障害なのかな?君はただ浮気しているだけってのに気づいていないのかな?」

何かがおかしいと感じた。いや、何もかもおかしいと感じた。

「お前は何を言っているんだ?気でも狂ってるのか?」

「僕は正常だよ。どこも狂ってなんかいないね。おや?それにしても、咲の様子がなんだかおかしいね」

ハッとして芝田は彼女に向き直った。それが失敗だった。織本は彼に一気に近づいて、隠し持っていたスタンガンを首に押し付けた。芝田一は気絶してしまった。それを見た本宮は暴れ出した。

「一さん?一!?いや!一さん!しっかりして!ダメ!気絶なんて!いや!」

「うるさいなぁ。咲、すぐ終わるからちょっとだけ待っていてくれ」

そう言って織本は彼女にもスタンガンを使った。本宮咲は意識を失った。

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