四話 うめき声のする部屋
織本忠はイライラしていた。本宮咲が何も反応してくれなくなったからである。
「殴った事怒ってんのか?だったらさっきから謝っているだろう」
そう、彼は何度も謝っている。すまないと頭を下げている。しかし彼女はそれに応えない。それだけではない。織本の作った料理も食べてくれないのだ。彼はそれにイライラしていた。
「食べないと死んじまうぞ?それでも良いのか?飢えて死ぬのは苦しいらしいぞ」
本宮は無反応だ。仕方が無いので無理やり食べさせようとした。しかし彼女は口を固く閉ざしたままだ。どうやっても開かない。これはまずいと思った。この女は死ぬつもりだとわかった。なんとかしないと死なせてしまう。
結局織本は、本宮の口に無理やり食べ物を押し付けた。彼女のうめき声が部屋に響く。
「なぁ、咲。どうしても俺の女にはならんか?」
本宮が首を振った感触が手に伝わってくる。
「そうか」
彼はより一層手に力を込めた。彼女が咳き込んだ。鼻に入ったのだ。織本は、彼女が口を開けた一瞬を見逃さず、食べ物を押し込んだ。だが本宮はそれを吐き出した。彼女の太股に食べ物の残骸が積もる。口元は汚れてしまっている。
「違う。違う違う違う!そんなお前が見たいんじゃない!なぜだ。なぜなんだ。なぜ『愛してる』と言わない?それだけで何もかも解放されるのだ。なぜ言わないのだ。言え、言え!言うんだ!身体も洗ってやるし、掃除もする。そうだ!これならどうだ?家事は俺が全てやる。働くのも俺だ。お前はこの家で好きなことをしていればいい。金を自由に使って遊び呆けてもいい。な?な?良いだろう?素晴らしいだろう?そんな暮らしがしてみたくはないか?え?おい」
無反応だった。彼女は何も聞いてないように、何も感じてないように、ただそこに縛られているだけだった。
「なんか言えよ!」
そう言って彼女を殴った。殴ってしまった。また。またやってしまった。彼は懺悔する。すまない、すまないごめんなさいと頭を下げて謝った。しかし無反応だった。どうしても反応は無かった。
「そうか、お前は飯が入らないと言うのだな。ダイエットでもしているのか?それならそうと言ってくれよな。夫婦だろう?なぁ?」
そう言って織本は料理を彼女にぶちまけた。本宮はたくさんの食料にまみれた。
ピロロロロロ…ピロロロロロ…
織本の携帯が鳴っている。彼は掛けてきた相手を見て笑う。
「ほら見ろ咲。お前の愛人だ」
発信者は、芝田一だった。本宮の顔が歪む。