二話 抗いの決意と死の覚悟
本宮が目を覚ました。見たこともない部屋にいる。ここはどこだろうかと立ち上がった。しかしそれは叶わなかった。彼女の身体は椅子に縛られている。そして昨日あった事が思い出された。叫ぶ。なにが起きているのかは理解できた。なんとか誰かに気づいてもらえば
「無駄だよ。ここらには他に家が無い。こんな所に人も来ないしね」
ガチャリ。と、織本が部屋に入ってきた。
「一体何なの?一体どうしたの?帰してよ!帰して!お願い、帰してよ」
「なに言っているんだ?ここが咲の家で、僕らは夫婦じゃないか。どこに帰るってんだい?」
この男こそ一体何を言ってるのだろうか。彼女はそう思った。
「ふ、夫婦ならこの縄解いてよ」
「それは出来ないな。君は逃げ出すかもしれない。気づいてないかもしれないが、君は精神を病んでいるんだ。僕のことが分からないんだからね」
織本は、物事を自分に都合のいいように解釈する癖があった。この癖により、友人を何人も無くした。
「そんなわけ…無いじゃない。私は本宮咲で、芝田一って恋人が居て、あなたはとんでもないただの犯罪者じゃない」
震える声で彼女は言った。
「犯罪者?僕はそんなんじゃないよ。芝田一って誰?僕はそんな人知らないなぁ。もしかして浮気してたのかい?恋人だなんて」
「ふざけないでよ!」
そう叫ぶ彼女に激痛が走った。天井と床、周りの壁がグチャグチャに混ざり合った。織本が彼女を蹴飛ばしたのだ?
「ふざけてるのはてめぇだ!!どアホ!この家だって何千万もするんだ!!建てるのにどんだけ苦労したと思ってる!!芝田一!?そんな奴にお前を渡してたまるか!俺の方がずっとずっと幸せにできる。華やかな暮らしをさせてやれる!さぁ言え!『愛してる』と!!言え!!!」
「嫌!絶対に嫌!あのとき言えば良かった。『あなたなんて大嫌い。気持ち悪いからもう関わらないで』って」
部屋の中を沈黙が満たした。唖然とした表情で、織本は立っている。次第に、彼の体が震えていった。それも修まると、だんだんと息が荒くなっていく。顔が赤くなっていく。彼は本宮を蹴った。踏みつけた。殴った。何度も、何度も何度も。彼女が泣き叫んでも、気を失っても、それは続けられた。
なんでだ!なんでだ!なんでだ!なんでだ!なんでだ!なんでだ!なんでだ!なんでだ!なんでだ!なんでだ!なんでなんだ!!
ようやく気が収まり、冷静になっていく。
「まあ良いだろう。まだまだ時間はたっぷりあるんだ。ゆっくりと自分の女にしてやろう」
そう言って笑った。
地獄。正に地獄。王である織本の許し無くして、ここから抜け出ること叶わぬ。たとえ抜け出たとて、それは本宮が彼の所有物になることと同義。逃げ道は絶望的に狭く、真っ暗だ。彼女は考える。彼女に唯一許された思考を最大限に使う。ダメだ。今のところどうすることもできない。ただ、一つはっきりしたことがある。彼女は、決して織本の所有物にはならない。私自身がさせないと言っていた。させてはならないと言っていた。彼女は彼を敵と認識した。抗う。ただひたすら抗ってやる。彼女はそう決意した。織本を決して満足させてなるものかと。死ぬまでさせなきゃ彼女の勝ちだ。死まで覚悟し、本宮の戦いが始まった。