十五話 まるで怪物のような
海に面する崖。そこに建つ一軒家に、警察官が二人やってきた。
「ここですかね?先輩」
「たぶん間違いねぇだろう。あの飯田とかいう男が言ってたのはよ」
飯田亮。彼は友人がこの家に訪ねていったきり、帰ってこないので警察に今回のことを伝えたのだ。
「誘拐かもしれねぇってだけだかんな。あんまり緊張するんじゃないぞ」
「はい!」
この警官はまだ新人だった。
「よし、じゃあお前チャイム押せ」
新人の警官はチャイムを押した。緊張に指を震わせて。
「出てきませんね」
「居ないのかもしれんな」
しばらくたっても誰も出てくる気配が無い。
「入ってみるか」
「え、良いんですか?」
先輩の警官は笑う。
「当たり前だ。『誘拐されたかもしれない。事件かもしれない』だぜ?そりゃ、調べておかなきゃ警察官としてどうよ?」
「で、では行きましょう!」
「ははっ、良い心掛けだな。仮にも警察官が不法侵入やらかそうってのによ」
「え?いやでも、え?」
「何だよ?仮にも自分で言ったんだろう?自分の言葉にゃ責任持たなきゃな!」
「先輩、そんな」
先輩の警官は新人の肩を叩く。
「ほらっ、行くぞ」
先輩の警官はドアを開けた。鍵は開いている。
「お、開いてるな」
「先輩確かめないで言ったんですか」
「おう、閉まってたら帰ってたよ。ま、これで不法侵入の第一歩だな」
二人の警官は家の中に入った。目に入ってきたものは豪華な装飾。
「目が痛いくらい豪華だな」
「先輩もし人いたらどうするんですか」
「そんときゃあ黙って手帳見せりゃ良い話よ」
「先輩悪い人ですね」
「まあな」
目に付くドアは片っ端から開けていった。どの部屋も内装は何もなく、殺風景だった。ただ一つ、外見は同じだが、明らかに異質な雰囲気を漂わせる部屋を見つけた。
「おい、この部屋なんかあるぞ」
「え?俺には他の部屋と一緒に見えますが」
「わかんねぇのか、この部屋、なんか上手く言えねぇが、とんでもなく禍々しい感じがしやがる」
構わずドアを開けた。凄まじい臭気が鼻を襲う。
「先輩、俺もう吐きそうです。先輩?」
先輩の警官は固まってしまっていた。彼はその視線の先を追う。そこには、異様に大きな腹をした男が、骨に向かって、まるで懺悔するかのように跪き、その頭に付いた肉を貪っている姿だった。彼にはその男が、醜悪な怪物の様に映った。




