一話 告白とその答えを巡る勘違い
君はなんて美しいんだ。まるで花のようだ。
男、織本忠は恋をしていた。クラスで一番の美人、本宮咲に。
織本は自分に自信があった。毎朝鏡を見て、自分は完璧な容姿を持っていると思っていた。家はかなりの金持ちで、彼は自他共に認めるイケメンだった。友達も多く、よく女の子に告白される。しかし、織本は本宮が好きなのだ。彼がYESと言うことはなかった。
本宮は頭が良かった。そのため、彼女と同じ所に立とうと、他人を蹴落とし蹴落とし、猛勉強の末、成績上位の仲間入りを果たした。
本宮にアピールを始めたのはそれからだ。織本は彼女が何かを落とすと、誰よりも早くそれを拾ってあげた。二人の席は3つ離れている。
本宮はそれをよく思っていなかった。織本が自分に好意を向けていると思うと寒気がした。彼女は彼が大嫌いだった。彼女が好きなのは、地味だけど優しく頼りがいのある芝田一だった。何かと人の前に立って目立とうとする織本は受け付けないのだ。
織本はそろそろ本宮が自分を意識し始めただろうと思っていた。それは間違ってはいないが、彼にとっては悪い方向に向かっている。織本は彼女に告白した。結果は惨敗だった。
「ごめんなさい。今は勉強に集中したいの」
本宮は優しい人間だった。傷つけないように配慮した。だが、それが勘違いの原因だった。はっきり『あなたには興味が無い』と言えば良かったのだ。織本は彼女を諦めなかった。
5年が経った。彼は海辺に一軒家を買った。本宮と暮らすことを夢見て。
本宮は大手の会社で働いていた。芝田と付き合っている。来年には結婚する予定だ。ケンカもするが、ちゃんと愛されている。そう実感していた。幸せだった。
織本は彼女が会社から出てくるのを待った。ゆっくりとついていった。だんだん人気が無くなっていく。彼はここぞとばかりに声をかけた。
「本宮さん?」
声をかけられて彼女は振り返った。そこには織本がいる。懐かしさと共に、胸に不安が訪れる。
「お久しぶりです。私、今忙しいので失礼します。また今度、ゆっくりお話しましょうね」
そう言って、足早に立ち去ろうとする。しかし、彼の次の言葉に戦慄する。
「嘘はいけないなぁ、本宮さん?あなた仕事帰りでしょう?毎日見てたから知ってますよ」
鼓動が速くなる。心臓の音が外に聞こえてしまいそうなほど。
「ストー…カー…?」
織本がニヤリと笑った気がした。
「ストーカー?何を言ってるんですか?迎えに来たんですよ、あなたを。さぁ、行きましょう!僕らのマイホームへ!」
「何を…言っているの?」
何かがおかしい。いや、何もかもおかしい。このままではいけない。助けを呼ばねば。逃げねば。大変なことになってしまう前に。なんとかしないと。でないと…だが、無情にも足は動かない。
「何言ってるって、今言ったとおりですよ?本宮さん昔言ったじゃないですか、『今は勉強に集中したいの』って。それって、勉強が終わったら僕のモノになってくれるってことですよね?ずっと待ってたんですよ?せっかく教えたのに連絡も全然無いし。ひどいですよ」
勘違いしている。とんでもない。なんとかしないと。この勘違いを正せば、どうにか、正さなくては。
「あ…そんなの、違いま…す…私…が好きなのは、あの頃から…ずっと芝田さんだけ…なんです。今も…お付き合いしています」
織本の顔からだんだんと表情というものが抜け落ちていく。そしてゆっくりと、怒りが湧き上がっていった。赤黒く煮えたぎるような憎悪の炎。それを彼は彼女にぶつけた。
「ふざけるな!!なんであんな!あんな男のどこが!クソッ!クソッ!お前のために家まで買ったんだぞ!!この5年間お前のために費やしたんだぞ!!てめぇ!どうしてくれんだよ!なぁおい!なぁ!」
本宮の足は力を失った。彼女は立っていることすらできず、へたり込んでしまった。そんな事、彼女には何の責任も無いのだ。
織本は本宮を殴り倒した。そのまま彼女に覆い被さる。
「いやっ!やめてっ!許して…」
ハッ…ハッ…ハッ…ハッ…ハッ…
これではダメだ。まるでダメだ。このままでは取り返しが付かなくなる。彼は急に冷静になった。そして考え、あることを思いついた。彼は彼女を気絶させ、彼女の為に買った家に連れて行った。
まず彼女を椅子に縛り付けた。逃げないように。次にそれを部屋の真ん中に運んだ。彼女の孤独を慰める為に。そしてカーテンをしめ、豆電球のみを付け部屋を暗くした。彼女が自分以外に興味を持つことが無いように。
彼女を捕らえて離さない。地獄のような監獄が、ここに完成した。