これがホントの書き初め。
一階から豪快な笑い声が聞こえる。
朝だ。眠い。
しかし陽光は容赦なく分厚い窓を突き破って侵入してくる。
世の人々はこの光をありがたがり、山へ出向いてまで我先にその光を浴びようとするらしい。
初日の出だ何だいっているがいつ見ても太陽は太陽だから別にありがたくない、むしろ沈んでいてくれていたほうが夜型の自分としてはありがたい…そう思っているのは自分だけじゃないはず。
昨日の夜は年末恒例のお笑い番組を終わるまで見ていた。
最近はネタ切れなのかあんまり面白くない気がする。
いやまぁビンタが二回あったのは驚いたけど。
ちなみにその番組は録画している。
予約したのは僕じゃない、唯一の姉弟、実の姉である。
奴は僕に予約をしておけと命じ、自分はとっとと就寝しにいった。
おそらく今朝は早く起きて録画してあったそれを見ているところだろう。
下の階から聞こえる下品な笑い声の主は十中八九、姉のものだ。
うるさい。会ったら一言いってやろう。
外では雀やら鳩やらがやかましくないている。
うるさい。せっかくの冬休みなんだからゆっくりさせてくれ。
布団の中にもぐりこんでみたがもう目が冴えてしまっている。
起きるしかないか。
起きたら姉の部屋からCDを拝借してベランダに吊るそう。なんていい考えだ。
どうせ今日は年初めの大掃除をするんだ。それに紛れて盗れば問題ないだろう。
こうして僕の元日が始まった。
一階ではやはり姉がソファにへばりついてテレビに没頭していた。
あいかわらずゲラゲラうるさいので耳をふさいで居間を通り抜けようとすると不幸なことに姉に声をかけられてしまった。
「あんた今日倉庫掃除するんでしょ。私のものには一切触れないでね。」
「…」
背中越しに語ってくる姉の声にはなぜか怒気が含まれている。
いつものことなのだが、今日はさらに強くなっている。
たまに姉が電話をしている時がある。姉が電話越しに彼氏と思われる男性と話している場合、姉は猫なで声に近い声を出す。
このギャップにいつも恐怖を覚えている僕だが、前に一度これを指摘したことがある。
そのとき姉は目に捉えられない速度で僕の背後に回り、謎のプロレス技をかけてきた。父曰く、全盛期の藤波辰爾を彷彿とさせる見事なKOだったというが、やられた本人としてはたまったもんじゃなかった。
「あと録画、できてなかったから。古いやつから消してけっていったよね。」
姉は基本的に自分ことを自分でしないタイプの人間らしい。
レコーダーの管理は基本僕が行っている。しかし、録画の権利は完全に姉のものになっている。
しかもこの姉、録画したくせに見ていないものがほとんどだ。
前に一度、まだ見ていない音楽番組を消去したことがある。しかし運の悪いことに姉の好きなアイドルが出演していたらしく殴りかかってきたのだ。
その時、そのアイドルがファンの子と不倫関係をもっていたという事実を指摘した。
そしたら姉は地面に叩きつけるような謎のプロレス技を繰り出してきた。父曰く、なんとかという外国人の再来だといって涙を流していた。僕はいろいろなところから血が流れ出ていた。
「すいませんでした」
もう二度と首にギプスを巻くことはゴメンなので素直に謝ってそそくさと洗面台に逃げた。
背中から猛烈な殺気と舌うちが聞こえるのだがおそらく幻だろう。
はやく顔を洗って倉庫の掃除をしてこよう。
幻から逃れるにはこの方法が最良だ。