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結婚の定義(sideアディル)-前

ここからは新作です。

結婚の定義の若様sideを書いてみました。


予想以上にキャラが崩壊ww




『見つけた』


はじめて貴女に会ったときから、俺はずっと、貴方だけを見てきた。

絶対に、逃がしはしない。



**********



「アディル様、こちら、審判の門行き人間の年間数調査リストです。」

「ご苦労。そこに置いておけ。」

「若様、釜ゆで地獄の子鬼が薪にかかる税が高すぎると抗議に…」

「またか…懲りないやつだ。いい、後で行くから待たせておけ。」


地獄第332階層。悪羅王の執務室内。

広い部屋の中では様々な地獄生物が行きかい、書類や伝言を残す。

その中央で俺、アディル=オルクール=デルンブルクは巨大な机の前に座り、仕事をこなしていた。

表向きには親父の補佐、ということになっているが、実際はもうほぼすべての雑務を担当している。

親父の奴が全部押しつけていくせいだ。

…あの狸ジジィ、それならとっとと位を譲って隠居でもしたらいいのに。


「―そうだ、ニーアは今どうしている?」


全く減らない仕事のヤマに嫌気がさし、鬱憤晴らしにそう聞いてみる。


「ああ、ニーア様ですか。少しお待ちください。」


すると傍の蛇男はすぐに『呪』を展開し、居場所特定の操作を始めた。

俺は無表情の顔を少しだけ緩め、その様子を眺めていた。


―ニーアとは、俺の育て親である女性の名前だ。

元は人間だったが、人間界で命を落とし、今は死人として地獄に住んでいる。


だが―実は、悪魔に頼んで魂を運ばせ死人としてこの地獄に縛り付けたのは、他でもないこの俺だ。

幼い頃から強大な力を持つ俺をなだめるために、親父は無理矢理彼女を召喚したのだ。

そんなガキの我儘に付き合わせて、ニーアに現世での生命を失くさせてしまったのは非常に申し訳ないと思う。

しかし、手を伸ばせば触れられる距離にニーアがいる、と単純に喜びを感じたのも事実だ。


―そう、俺は最初から彼女に恋をしていた。

もう離れられないくらいに。



「…アディル様、ニーア様は現在、血の池温泉に向かうところのようです。」

「そうか、ありがとう。」


幼い頃に思いをはせていると、検索を終えた男がそう言った。

…血の池温泉、か。いいな。

あれに入った後のニーアは、いいにおいがして肌もすべすべで心地がいい。

さらにあの風呂上がり特有の火照った顔や艶やかな髪。触るとくすぐったそうに肩を揺らすニーア……

ああくそ、ヤバい。想像だけで逝きそうだ。


今すぐ仕事なんか放棄して飛んでいきたい衝動に駆られるが、そうもいかない。

今日だけは早急に仕事を終わらせる必要があるのだ。

ため息をひとつつき、俺はよしじゃあさっさと済ませるか、とペンを持ち直した。

だが、その瞬間、目の前の空間が歪んだ。


「あ、どーも、若様。」

「…何の用だ、デレク。」


中から突然現れたのは、青い髪の悪魔、デレクだった。

…ぶっちゃけ、俺はコイツが嫌いだ。

生前のニーアの知り合いとやらで、やたら距離が近いのが気に食わないし、いつもへらへらと笑っているのも気に入らない。

眉をしかめ、あからさまに嫌悪を示した。


「ご成人、おめでとうございます。先日の式典は素晴らしかったですね。」

「わざわざそんなことを言いに来たのか?」

「いいえ、まさか。ちゃんとお祝いの品も用意しましたよ!」

「いらん。」

「えー、そうですかぁ?ニーアちゃんから頂いてきたお手製のケーキn「もらう。それを置いて去れ。」


それを先に言え、と睨みつけると『分かりやすいなあ、もう』と悪魔が苦笑いをする。

渡された大き目のバスケットを覗きこむと、そこには俺の好きな香ばしいエビルナッツとブラッドチェリーの入ったパウンドケーキが入っていた。

―確かに、ニーアの作った菓子だ。俺は思わず頬をゆるめる。

後で食べよう、と大事に机の隅にそれを置くと、デレクが気の抜けた声を出した。


「じゃ、俺は行きますねー。」

「なんだ、本当に用事はなかったのか。」

「ええ。」


にっこりと笑う悪魔。

いつも通り掴めない表情でそう言うと、くるりと背を向けた。


「…デレク。」

「なんですか?」


その背に向かって声をかけた。デレクが顔だけこちらに向ける。



「午後には執務が終わる。…お前らの思い通りにはさせない。」

「………。」



悪魔は何も言わず、ただほほ笑んだ。



――



ようやく本日分の仕事が終わった午後二時四十分。

俺は外套を羽織るとその足で転移し、すぐに親父の元へ向かった。

重厚な扉を開け、ずかずかと遠慮なく中を進む。

そして、いつも通り偉そうに中央の椅子に座る赤ら顔の大男――俺の親父である第5142代悪羅王を正面から睨みつけ、


「親父、俺、ニーアと結婚する。」


開口一番でそう言った。

突然現れた息子に、悪羅王は目を瞬かせる。


「なんだと?」

「俺はもう成人した。結婚してもいい年頃だろ?」

「…は、何を馬鹿なことを。…ニーア、とはお前の育て親の小娘か。死人と一緒になれると思うておるのか。」

「なれるだろ。禁止する法も規則もない。実際に夫婦だって何組もいる。」


そこで、親父は少し黙った。自慢の髭をさすり、何やら思案しているようだ。

しばらくして、俺をじろりと見下しながら、口を開いた。


「分かった。では少し審議の時間をくれ。…そうだな、数日もあれば――」

「それでは遅い。今日、ニーアは転生するんだろう?」


ぴくり、と親父の眉が少し上がった。

予想外、だったのだろう。何故それを知っている、と顔に書いてある。

――全く、親父は本当に単純で分かりやすい。

俺はにやりと笑い、その問いに答えてやった。


「もう何年も前に、親父の帳簿を見たんだ。」

「…お前、あれは儂以外閲覧禁止と教えただろうが。」

「そんなことどうでもいい。どうせ俺も後で受け継ぐ。」


ふん、と鼻を鳴らす。

ニーアのためなら、なりふり構ってはいられないのだ。



「ニーアを地獄に残すには、魔族と結婚する必要がある。異論は認めない。」



―死人の寿命を延ばす唯一の方法、それが魔族の血族とすることだ。

長命な魔族の血を飲み、儀式を行えば死期の倍以上生きることができる。

―つまり、結婚すれば。


実はちょうどいい話だ、と思った。

結婚すれば、ニーアは一生俺のものだ。

家族という関係も心地よいものだったが、それでは足りない、と常々思ってきた。

心も体も、すべてを一番近くに置くためには婚姻関係を結ぶのが一番である。


だから、この時を、ニーアが転生するギリギリまでチャンスを待った。

親父に結婚の許しを請うのは、今しかない。


――あれが俺から離れるなんて、ありえない。

絶対に阻止して――彼女を俺のものにする。



「がはははは!」

「……?」


すると、親父はいきなり笑いだした。

可笑しくてたまらない、と言った風に腹を抱えて笑い転げる。

―なんだ?

嫌な予感を感じながら、俺は親父の発言を待った。


「なるほどな。噂には聞いておったが、これ程入れ込んでいるとは…ははは。」

「何がおかしい。」

「――もう遅いのだよ、アディル。その娘は輪廻の輪の元へ行ってしまった。」

「…な!?」


今度は俺が目を見開く番だった。

予定ではニーアの『転生』は夕方近く。それが――何故。

驚愕を露わにする俺を見て、悪羅王はさらに声を上げた。



「こんなこともあろうと思ってな、予定を少し早めておいたのよ。すでに娘は聖域に足を踏み入れている。お前にはどうすることもできないだろう。」



残酷な言葉が耳の内に響く。

事実、聖域に入ってしまえばもうその魂は地獄の管轄から抜け、『呪』を使って探索は不可能だ。

さらにその場所自体、かなり天界に近く、弱い魔族なら近づくことすらできない。

仮にニーアを見つけ出せたとしても、幾重にも張り巡らされた結界を破らねば中にも入れない……



「―結婚など認めん。お前にふさわしい相手なら他にいるだろう、アディル。あんな死人のことはさっさと忘れろ。」



親父は最後にそう言って俺をなだめた。

初めから決まっていたことだ、もう諦めろと、そう言った。


「残念でしたねー、若様。」


―とふいに、場違いに明るい声が響く。

いつの間にか、俺の背後にあの気に食わない悪魔が立っていた。

嘲笑うような瞳の中に俺を映し、相変わらずへらへらと笑う。


「…お前は、知ってたのか。」

「はい。連れてったの、俺ですし。ニーアちゃんも了承しました。」

「…ニーアも?」

「ええ。」


デレクはあっさりと言った。


「ああそうだ、あのお菓子、美味しかったですか?あれ、ニーアちゃんからの『冥土の土産』ってやつですよ。」


―まあ、消えるのはニーアちゃんの方ですけど。

そう呟き、からからと陽気に笑う悪魔。

その声が段々遠のき、気がつけば俺の世界には一切の音も光もなくなった。



……消える、ニーアが?

俺の育て親が―俺の前から、永遠に消える?


嫌だ、認めない。


――そんなことは絶対に許さない。



「――うわぁ!!」


突然、激しい突風が室内に巻き起こり、瞬く間にデレクの体は支柱に叩きつけられた。

ビシビシと地面に亀裂が入り、空間が震える。

中心に立つ俺から発生する超音波に、部屋ごと破壊されそうな勢いだ。


俺はすうっと真黒な目をひそめ、虚空を見つめる。

そのまま退室しようと足を踏み出すと、親父がでかい図体を揺らして立ちふさがった。


「ニーアを迎えに行く。どけ。」

「断る。」

「…殺すぞ、親父。」

「やってみろ、このバカ息子が!」


悪羅王は獣のような咆哮をあげ、俺と対峙した。

流石地獄の王とでも言うべき凄まじいパワー、そしてプレッシャーを放って来る。


―だが、俺の敵ではない。


ニヤリと口をゆがめた俺は、他の者の目からは至極楽しげに映ったことだろう。





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