始まりの入学式
「起きてよっ、学校遅刻するよ!?」
耳元で少女の声が聞こえた。
「ん?…あと5ふ……ってえぇっ!?」
俺は遅刻と言われガバッと飛び起きた。
しかし時計を見てみるとまだ7時01分だった。
「ふざけんなよ、びっくりして心臓から口が飛び出るかと思ったぞ」
「……それはそれでどうかと思うけど」
呆れた顔でその少女はそう言ってきた。
「本当にやめてくれよ。ただでさえ今日入学式なんだから……」
初日から遅れるってのはいろいろとまずいから「遅刻」という単語には敏感なんだから……。
「だからこそだよ。8時30までに登校とはいえ、早めに起きたほうがいいでしょ?」
そ、そうなんだけど……はぁー……もういいか。
「そういえば飯ある?」
「あるよ。たまには自分でやったら?悠真、けっこう料理上手いんだから」
「はいはい、明日はやるよ」
とまあこんな感じに朝が始まる。
ちょっと遅いが自己紹介といこうか。
俺の名前は神裂悠真。「かんざき」じゃなくて「かみさき」だから間違えないでほしい。んで俺の横(どちらかといえば前)にいるセミロングの黒髪で黒い瞳の少女は高原唯。俺の幼馴染みだ。かれこれ12年ぐらいの付き合いがある。よく俺の家に来る、唯の家は隣だけどな。
簡単に話したが多分伝わったと思う。
で、今までの会話で出てきた「入学式」だの「遅刻」だの言ってるが、今日は俺たち2人が通うことになる旧東京都立紅蓮学園という高校に入学するのだ。
という訳で俺は15歳なのだ。
さっきは家と言ったが今は紅蓮学園の学生寮にいる。この部屋は3人用の部屋に2人いるのに、妙に広くて落ち着けない。……べ、別にぐっすり眠ってなんかいないんだからねっ!?……ツンデレで言ってもしょうがないか。
んで何故こんな広い部屋に居るかというと、まず俺たちの通う紅蓮学園には一般の人たちが通う『普通科』はもちろんのこと、異能者たちの通う異能系があり武術系や剣術の持つ異能力を人が選択する『武道・剣術科』、そして俺たちが入ることになった魔法をメインに学ぶ『魔法科』というのがある。
まあ、それはそれとしてとにかく飯でも食うか。そう思った俺はリビングの椅子に腰をかけた。
「「いただきます」」
2人とも声をハモらせ、本日の朝食である白米と焼きじゃけを食す。
ふむ……。皮が焦げてるが身は美味い。
「この鮭、産地直送なんだよ!ここに」
「へえ、だから―――ってここにぃッッ!?」
「あははっ!冗談だよ」
そんな会話も日常茶飯事だ。
俺と唯は朝食を食べ終え時間を見てみるともう8時だった。
「やっば、というか食事に30分近くかかってるんだっ!?」
まさかいるかどうか分からん読者にいろいろ説明しているうちに15分もかかったとでもいうのか……。
「まぁ、学園まで徒歩15分だからあと……5分ッ!?」
さすがの唯も驚愕の事実に絶叫した。
俺たちは急いで支度する。
どうするよっ俺、あと2分だよ!!あとは鞄に筆記用具エトセトラエトセトラ...を入れ、急いで寮を出る。
走る走る俺は走る、唯も走る。ウィー イズ ランニングッ―――合ってないと思うが気にしない!そもそも英語解んないしね!!
はぁはぁ…つ、かれ…たぁーーー。
「はぁ……はぁ、1回休も?」
「だな。さすがに走り続けるのはきついしな……
そう言って俺と唯は歩き始める。
改めて周りを見てみるといろんな人がいた。みんな俺たちと同じ制服を着ている人もいれば見たこと無いものを着た人もいる。他にも中年のサラリーマンや小学生etc...。
今は通学・通勤時間のようだな。あたりまえか……、じゃなきゃ俺ら制服を着てこんなところ歩いてないしな……。
まぁそれは置いといてと。
「……あっ、悠真!……と唯!」
学園付近の十字路にさしかかったとき誰かが俺たちを呼ぶ声が後ろから聞こえた。
「ん?……あ、紅莉じゃないか!」
「憶えててくれたんだ!……憶えてなかったら消し炭にしてやろうかと思ってたケド」
なんか物騒なことを言う少女は古川紅莉。炎のように赤い腰まである髪、炎のように紅い瞳が特徴的な女の子で俺の幼馴染みの1人だ。こいつは典型的なツンデレだったりする。
とまあこんな感じかな?
というか久し振りに紅莉を見た気がする。うーん、最後に会ったのっていつだっけ?
「んでさぁ……なんで俺たちと同じ制服なんだ」
「そういえばそうだね?まさか紅莉ちゃんも紅蓮学園なの!?」
「あたりまえでしょ!?」
「ですよねー(棒読み)」
「なんで棒読みなのよ……」
こんな会話もやったなぁ。昔は。
「久しぶりってのによくわかったな」
「そ、それは……うぅぅ、いつも見ていたなんて言えない……」
「……?なんか言ったか―――――」
「な、何でもないわよ!?」
ん?なんだよ急に大声上げなくてもいいだろ。
「それにしても本当に久しぶりだよね、最後に会ったのっていつだっけ?」
「えーっとたしか……」
「3年前よ」
「「そうだった」」
はぁ……っと溜息を吐く紅莉。
いやいや、そんな重い溜息吐かれても困るんですが……。
いろいろ話しているうちに学園に到着していた。
こんなに会話に熱中したのは久しぶりだな。そんでもって紅莉と話したのも。こうしてみると他の奴にも会いたいもんだ。というのも俺には5人の幼馴染みがいる。唯と紅莉以外にも雪城美希、織田桐香、岸本三成がいる。
この話はいいか。
俺たちは校門を通り昇降口へ入った。
「俺の下駄箱は……っと」
あったあった。
靴を下駄箱に入れ上履きに履き替えた。
「俺のクラスは……M1-Bか。」
M1-BのMは魔法学科という意味らしい。
さてと行くか。そのM1-Bの教室へ向おうとした時、2人(唯&紅莉)に声をかけられた。
「あれ?悠真もM1-Bなんだ」
「私たち3人共同じクラスなのね」
「へえ、一緒なのか。じゃあ、一緒に行くか」
「うんっ」「そうね」
という訳で3人で向かうことになった。……まぁ、周りの視線が痛かったけど。
階段を上ったりして教室の前に着いた。
ガラガラッ
扉を開け、教室に入ると。
「よっ、悠真!!久しぶりだな」
「えぇっと……。誰ですか?」
「なっ!?」
前にいる男子生徒が絶句した。
さぁ、何て言い返すのだろうか期待していたりする俺。
「お、お前はこの恩人を忘れたのかっ!?」
……何を言い出すんだろうと期待した俺がバカだった。
「恩人ってなんだ恩人って。お前はただの友達だ」
「なんだ憶えてたのか」
「誰がお前を忘れるか。っていうかわかってて言っただろう」
ばれてたか、みたいな表情をした。俺が分からない訳ないだろう。
んでこのアホ面の男は、浜辺海斗。中学校の時に知り合ってからずっとつるんでいる。
「アホ面とは何だアホ面とはっ」
「……あなたはサイコメトラーでもお持ちですか?」
……とまあ勘の鋭いんだか本当に心の中が読めているんだか判らん奴だ。
するとHRの予鈴が鳴った。
「やっば!俺の席は……」
あった、真ん中の席みたいだ。
俺は指定された席に座る。
すると教室のドアが開かれた。
見た目からしておっとりしてそうな顔立ちをした、たれ目の女性が入ってきた。
「皆さんおはようございます!今日は入学おめでとうございます!!私がこのM1-Bを担当する相川由利です。この一年間よろしくおねがいしますね」
へぇ………担任の教師は女性か……。
……俺っていつも担任が男だったから新鮮だな。
「さあ、並んでください。入学式が始まるので行きますよ」
先生に促されて廊下に並び、体育館へと向かった。
「―――――以上入学式を終了します。」
―――――――教室。
「はぁ……やっと終わったぁー……」
俺は深く溜息を吐くと椅子にどっかりと座った。すると俺のところへ唯、紅莉、海斗が来た。
「いやぁ、疲れたな悠真」
「だなぁ……、しっかし入学式ってこんな長いもんだっけ?」
「まぁ……っていつもやってなかった?主催側で」
横で聞いていた唯が答えた。
「そうよ、ばっかじゃないの?」
紅莉に関してはただの罵声だ。
「へいへい、そうでしたね」
「なんで投げやりに言うの!?」
「別にいいじゃないか(棒読み)」
「何なのよ……もう」
あれ?お怒りですか……。
「悪かったよ」
「べっ…別に謝って欲しかった訳じゃないんだからね!」
よっ!出ました、紅莉のツンデレ発言!!
「はいはい」
とまあ、いつもこんな感じに軽くあしらってるけどな。
「んじゃ帰るか。LHR終わったことだし」
と海斗が喋り出す。
「だな。腹減ったし、4人で食べに行かないか?」
俺は三人を食事に誘って見た。
「私はいいよ!」
と唯。
「えぇ、大丈夫だけど」
と紅莉。
「おう!断る理由なんて無いしな!しかも久しぶりだな。俺と悠真たちと食うの」
「ん?そういえばそうだな……」
中学の頃この4人で屋上でよく飯を食ったもんだ。今思うと何故この4人だったのかな?なんて思わないことも有ったり無かったり………。
それは置いておいて……。とにかく俺たちは鞄を持って寮へ帰らず、そのままレストランへと向かった。
店内へ入り、店員の案内で席まで向かい、それぞれ俺・海斗、前に唯・紅莉が座った。
「んーと………何にするか……」
腹は減っているが具体的に「何を食べたい」というのは無い。とりあえずハンバーグセットでも頼むかな?
「皆決まっ――――――」
「「「いいや、まだ」」」
「即答かっっ!?」
いやいや、早すぎるって!まだ全部言ってないよ!?というかまだ決まってないのかよ……。優柔不断な奴らだな、まったく……。
「「「もういいよ」」」
「それも即答っ!?」
何なんだよ、こいつら。
……まあ、いいか。とにかく注文しないとだな。
「あのー、すいませ―――――」
「はい!ご注文はお決まりでしょうか?」
店員もかいっ!?
「え、えっと……ハンバーグセット1つ」
「しおとんこつみそチャーシュータンタン」
「ミラ○風ドリア」
「海鮮丼」
何だよ「しおとんこつみそチャーシュータンタン」って。んなもんあるわけ――――
「とんこつみそチャーシュータンタン、ミラ○風ドリア、海鮮丼、ハンバーグセットでよろしいですね?」
あ、あるんだぁ……!
「は、はい」
「かしこまりました」
そう告げると、厨房へと去っていった。
「な、なぁ、この店いろいろありすぎじゃないか……」
俺の質問に唯が答えた。
「それがこの店にモットーだから」
なんだかなぁー。
俺たちはこの5分後に運ばれた料理を食し、寮へと向かった。
「結構、味良かったな」
「だね~」
ちなみに今この場には俺と唯しかいない。紅莉は用事があると言って先に行った、海斗も買い物へ行ってしまった。
2人で会話しながら歩いていたら、いつのまにか寮に着いていた。
そのまま階段を上り、5階にある俺の部屋の前に着く。
「えっと……唯さん?」
「ん?何?」
「何でここまでついてきてるのかな?」
「一緒の部屋だから」
「のうえぇえええぇぇぇぇっぇえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえぇぇぇぇええええええっ!?」
おもわず絶叫してしまう。近所迷惑だろうが今は気にしない。
「………今更驚いても仕方ないか…」
「そうだよ」
はぁ……先が思いやられる。そんな事を思いながら玄関で靴を脱ぐ、今日この頃。