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何でも屋  作者: ポテトバサー
第五章・拝啓万屋御一同様
33/56

私が正義のヒーローです!

 キーケンナ・ライブハウスの前ではファンが群れを成しており、αチームの三人はその中に潜り込んでいた。


健一「す、すごい人ですね、重氏」


重「本当だねぇ、健一氏。修氏もそう思わ…」


修「氏氏氏氏氏氏氏氏うるせぇなタコ!!」


重「だって、そういうイメージあるじゃないオタクの人って」


修「氏を使ってんのはお前らだけじゃねぇかよ、ったく、にしてもコイツらどんだけ熱いんだよ」


重「確かに…」


修「冬だっつーのに、コイツらの熱気でちっとも寒くねぇ」


重「みんな湯気が出ちゃってるもんねぇ…」


 そのとき、会場スタッフが言った言葉に、ファン達は湯気の量を増加させた。


スタッフ「それでは、入場受付開始します! こちらから並んで、荷物検査を済ませてください!」


修「うぅ、妙に緊張するな」


重「だね…」


 会場前が慌ただしくなっている頃、会場の裏にビンテージグリーンの高級車が到着した。その車の運転席には知哉、助手席には椎名、後部座席には渡の姿があった。


知哉「どうでもいいけど、この車どうしたんだよ?」


渡「姉ちゃんに借りたんだよ」


椎名「ヘントレーだよねコレ?」


渡「えぇ」


 三人が話をしていると、会場の裏口から男が出てきた。知哉と椎名は慌てて車を降り、知哉は後部座席のドアを開けた。


男「お待ちしておりました」


 男は車から降りてきた渡に丁寧に頭を下げた。


渡「これはどうも」


 いやらしい手つきで髪を直す渡。すでに役になりきっている。


男「どうぞこちらへ」


 バカのくせに品というものを装ったスーツ姿のチンピラが、三人を中へと案内する。


男「皆様には会場二階にあります、VIPルームでお楽しみいただきたく思います」


渡「そうですか、それで雨宮社長は?」


男「VIPルームで他のお客様方とお待ちになっております」


 男と共にエレベーターで二階についた三人。渡は普通にしていたが知哉と椎名は少し驚いた様子だった。なぜなら、内装が会場の外見と違い、豪華絢爛であり、いたるところに絵や壷などが飾られていたからだ。


知哉「すごいですねぇ」


 小声で椎名に話しかける知哉。


椎名「……うん」


 椎名が小声で返すと、渡も小声で間に入っていった。


渡「その場しのぎの安もんですよ」


男「いかがされました?」


 男も小声で話しかける。


渡「あれ? 聞こえてました?」


男「いえ、みなさんがヒソヒソと話をされていたので、そうしたほうが良いのかと思いまして……」


 三人は思った、コイツは相当なバカなんだと。


男「えっと、VIPルームはこちらになります」


 男は成金趣味のドアを開け、三人を中に通した。VIPルームはステージがよく見えるようにステージ側はガラス張り。しかし、三人はそのことよりも部屋の内装に呆れていた。


渡「………ひどいな」


 ワインレッドの床に、ピンクの豹柄の壁紙、無駄にデカいモノクロの皮張りソファー、金縁のガラステーブル。そんなバカみたいな部屋をチープなシャンデリアが薄暗く照らしていた。が、三人は呆れるのも面倒になり、とりあえず部屋の奥へと進んだ。


雨宮「いやぁ、(みなと)社長、お待ちしていましたよ」


 事務所の社長、雨宮が笑顔で渡に話しかけてきた。湊と呼ばれた渡も笑顔で答えた。


渡「いやいや、少し遅れてしまいましたかな?」


雨宮「いえ、そんなことありませんよ」


渡「あ、一応紹介しておきましょう、これは私の秘書のようなもので姉ヶ崎といいます」


椎名「姉ヶ崎です、以後、お見知りおきを……」


雨宮「こちらこそ、よろしくどうぞ」


渡「そして、こっちの大きいのはボディーガードでして、名前は…」


雨宮「名前は?」


渡「ま、名前はいいでしょ。適当にデクノボウでもマツボックリでも、お好きに呼んでください」


知哉「………………」


雨宮「はぁ、テキトーにですか、えーっとそれじゃ、ペコムモンテ君とでも呼びましょう」


知哉「ペコムモンテ……」


雨宮「ブラジルにいるトンボ…」


知哉「そんなトンボが…」


雨宮「みたいな名前でしょ?」


渡「ははは、面白い冗談ですねぇ」


雨宮「笑っていただけて良かったです。では、どうぞお座りください、ははは、あっ、姉ヶ崎さんもどうぞ」


椎名「それでは失礼して……」


 二人は雨宮に促され悪趣味なソファーに腰を下ろした。


知哉「ペコムモンテ…… 逆さから読むとテンモムコペ…… 特に意味なし」


 その頃、αチームの三人はライブハウスの中に入り、ライブが始まるのを待っていた。各々、踊りや掛け声を頭の中で繰り返し練習してもいた。


重「うぅ、うまくできるか不安だ」


健一「僕もです、あの、二番目の掛け声とかつっかえちゃいそうで…」


重「そうなんだよねぇ、修は心配なことないの?」


修「会場の左端に進之助がいることが心配」


重「そうなんだよねぇ、二番目の進之助とかつっかえちゃいそうで…… ごめん修、いま何て言った?」


修「進之助のバカが会場にいるって言ってんだ!」


重「えぇ!? 進ちゃんいるの!?」


修「あぁ、俺ちょっといって話してくるから」


健一「あ、修さん!」


修「なんだい?」


健一「例のことを話すんでしたら、トイレの個室に入って筆談のほうがいいですよ」


修「なるほど、そうするよ」


 修はファン達の間を行き、進之助の腕を掴むと何も言わずトイレの個室まで引っ張っていった。急の事に進之助は呆気にとられたままついていった。


進之助「お、おい! なん…」


 修は声を出そうとする進之助の口を手で押さえ、個室の中に入った。そして、手帳とペンを取り出すとスラスラと書きだした。


修『人に聞かれちゃマズいから書いて説明する』


 書いた文を進之助に見せると、進之助は手帳とペンを奪い取り、何やら書きだした。


進之助『なんだよまったくめんどうくせぇ』


修『いいから聞け、ってか読め、ライブの後にオークションがあんだ』


進之助『ほんとうなのかよ』


修『マジだ、んで作』


進之助『なんか考えあんのか?』


修『書いてる途中で手帳取るな!』


進之助『お前がノロノロ書いてるからだろ!!』


修『言い、じゃなかった書きやがったなこの野郎!』


進之助『書いてやったよ!!!!』


修『黙って読んでりゃいい気になりやがって!』


進之助『だまってなけりゃどうすんだ?』


修『黙るぐらい漢字で書けバカ!』


進之助『馬塵ぐらい漢字で書け馬塵!』


修『カはシカの鹿だ馬鹿! なに土付けてんだ!』


進之助『つ、土ついてる方が男らしいじゃねぇか!!』


 便器をはさんで熱を増す書き合い。


健一「おそいですね修さん」


重「そうだね、なにやってんだか……」


健一「あっ、戻ってきました」


 トイレから戻ってきた修は、ファンの間をゴリゴリグリグリと抜けてきた。


重「遅いじゃないのさ! なにしてたの!」


修「あのバカが話通じねぇんだよ」


健一「修さん、重さん、ライブ始まるみたいですよ!」


 会場はしだいに暗くなっていき、ファン達は身構えだした。その様子をVIPルームにいたβチームも見ていた。


雨宮「皆さん、そろそろ始まります。どうぞ窓に近づいて品定めを……」


渡「えぇ、じっくりと……」


 胸くそ悪い気持ちを微塵も感じさせずに笑顔を見せる渡。たいした演技力だと知哉が感心していると、窓ガラスを震わすほどの音量で、ポップな、大変ポップな、イラつくほどポップな曲が流れだした。


ファン達『1速・2速・3速・4速! パドルシフトくそ喰らえ!』


 ファン達は掛け声、合いの手とともに踊りだした。もちろんαチームの三人も必死に踊り、声を上げる。


修「5速・6速! イキがりスポーツAT車!」


健一「シケた音の改造車! 恋にはバック必要なし!」


重「グングン高鳴る私の回転数!」


 そんな三人に同情の眼差しを送る椎名。知哉はその横で、ファンの熱気に自らも熱くなってしまっていた。


知哉「いやぁ、すごいですね! これじゃ熱キョウのキョウの字が、狂うの狂の字になっちゃいますよ!」


渡「最初っから狂うって字だよバカ!」


雨宮「面白い方ですねぇ」


知哉「…………ペコムモンテ黙ってます」


 ペコムモンテが誓いを立てたと同時に、ふるーつミントのメンバーがステージ上に現れた。


歌『恋に臆病な私 恋の縁石乗り上げるたびに サイドスカートが傷ついていくぅー それでも君に見つめられると 心のギア比がトキメキだす うっかり2速発進 それでも構わない TCなんていらない カウンター当てて恋の曲り道を ぬ・け・だ・す・の! また君にぃー 逢えたならぁー 私のぉー エキゾースト音がぁー 高鳴るぅー ブルルルンッ!! ハイッ!!』


ファン『ブルルルンッ! ハイッ!!』


 会場は盛り上がり続けた。が、ファン達に異変が見られ、αチームの三人はそれを肌で感じていた。


修「おい、シゲっ! なんかヤバいぞコイツら!!」


重「ホント、みんな目がすわっちゃってるよ!」


健一「異様な雰囲気になってきましたね…」


修「だな」

重「だね」


 VIPルームでは、雨宮がβチームと他の上客たちに商品(アイドル)の説明をしていた。


雨宮「赤、黄、緑、桃、紫。どの色のアイドルたちもオススメですよ? 赤の子は元気いっぱいで典型的なアイドルです」


 上客の一人が下品に口元をゆるませながら雨宮にたずねた。


上客「あの紫の子はいくつなんだい?」


雨宮「チョコちゃんですか? 22歳ですが」


上客「いやいや、スリーサイズの話だよ」


雨宮「おっと、これは失礼」


 VIPルームで下品な話が続けられている間もライブは進んでいった。

 二時間後、曲の他にもトークやゲームも行ったライブは残すところ一曲となっていた。


雨宮「皆さん、この曲が終わり次第、下のステージに降りてオークションを始めます。なのでこの一曲の内にどの子にするか決めておいてください」


 上客達は促されるままにアイドルを見つめ続けた。βチームの三人は雨宮の言葉に緊張していた。


椎名「……いよいよですね社長」


渡「あぁ、そうだな……」


 会場で踊り、声を上げ続けていたαチームはだいぶ疲れていた。


修「大丈夫か健一君?」


健一「はい… 何とか…」


修「最後の一曲だから頑張ってくれ…」


健一「はい!」


修「大先生は大丈…」


重「まぁーーーーーーー」


 重の半開きになった口からは魂が半分出ていた。それでも、ゆっくりではあるが体は踊り続けていた。


修「大丈夫かよシゲっ!? しっかりしろ!!」


 慌てて重の両肩を掴み揺らす修。


重「ほ、ほぇー… も、もう無理かなぁー……」


修「おい、しっかりしてくれよ! 最後なんだからよぉ!」


重「頑張る… 頑張る……」


修「ほら、始まるぞ!!」


 ラストソング『純愛大四喜(ダイスーシー)』が始まり、この曲も大盛り上がりのまま終わった。アイドル達はステージ上から感謝と別れの言葉をファン達に送り始めていた。しかし、それは雨宮によってすぐに中断された。


雨宮「はいはい、ふるーつミントの皆さんご苦労様でした」


 VIPルームから降りてきた雨宮はβチーム含む上客達とともにステージに上がった。急な出来事にアイドル達は顔を見合わせていたが、リーダーの赤アイドルが雨宮にたずねた。


赤アイドル「社長? これはどういうことなんですか?」


雨宮「お前らは黙って立ってりゃいいんだ!!」


 今までに見たことが無い雨宮の姿に、アイドル達は怯え、身を寄せた。


雨宮「失礼いたしました。それでは会場の皆さん、番号札の準備はよろしいでしょうか?」


 ファン達が取り出し振る白い番号札が異様な空間を作り出す。


雨宮「それでは『ふるーつミント』オークションを開催いたします!」


 ライブの時より盛り上がりを見せる会場。ファンに囲まれているαチームは緊張感が高まっていた。


健一「いよいよですね…」


修「あぁ。大先生、ビデオのほうは大丈夫か?」


重「問題ないよ、撮れてるよ」


修「よし、健一君、落ち着いていけ」


健一「はい」


 αチーム同様、βチームも緊張感は高まり、余念は無かった。


渡「椎名さん、撮れてますか?」


 渡は小声で確認を取る。


椎名「うん、大丈夫」


渡「知ちゃん、いざとなったら頼むよ?」


知哉「あぁ、教授も柔軟しとけよ? バレないようにな」


 αチームβチームともに準備は整っていた。そんな事とはつゆしらず、雨宮はオークションを進めていく。


雨宮「本来は、目玉の商品は最後にとっておくものですが、今回はいくつもあるのでいきなりやりましょう!」


 雨宮が目で部下に合図を送ると、二人の部下が千代子を無理やり雨宮の横へと立たせた。嫌がる千代子は抵抗するが、男二人には敵わない。


雨宮「まずは清純なチョコちゃんを…… 一週間使いたい放題の権利からです!」


渡「ず、ずいぶん頭の悪い言い方だな…」


 そんなことはお構いなしに、狂ったように叫ぶファン達。


雨宮「それでは始めたいと思います、では20万円からスタートです!!」


 オークションが始まると、立て続けに札が上げられた。


健一「うわっ、えっ、どうし、うわっうわっ、千代子が、わわわ!!」


 オークションの急な展開に慌てふためく健一。


修「おい、落ち着けって健一君! もう少しアイツらの悪事をあぶり出さねぇといけねぇんだから! 今は耐えてくれ!」


重「いざとなったら、修に知ちゃんに教授さんが飛び出て、アイツらをコテンパンコテンパンしてくれるから!」


健一「いや、でも… え? コテンパンコテンパン?」


重「そう! 修は自己流のジークンドーもどきで強いし、知ちゃんはボンジャ鶴田のようにプロレスマニアで強いし、教授さんもあー見えてボクシングで強いにょ! それにほら、ボクシングって言っても教授ちゃんはプロじゃないし、正当防衛になるだっちゃ!」


修「正当防衛になるだっちゃ♪ じゃねぇよバカ! 強いにょだの、教授ちゃんだのよ! なに細かい情報出して自分は闘わないで済むようにしてんだ!! ちゃんと硬水持ってきてんだからな? いざってなったら飲めよ!」


重「えぇー! いやでも、ずいぶんの間、ほら、変身してないし……」


修「でももヘチマもねぇ!!」


健一「えい、やあ、とう!!」


 二人をあっさり無視をした健一は、千代子のために札を上げた。


雨宮「さぁ、ついに100万円を超えました!」


 二人が言い合いをしているうちにオークションの値は競り上がっていた。


進之助「くそぅ… おりゃー!!」


雨宮「はい、48番の紳士!」


 進之助は何とか食い止めようとオークションに参加した。


知哉「おい教… 社長!! あそこに進之助さんがいらっしゃいます!!」


渡「えっ!? なにやってんだあのバカ!」


 オークションは白熱していき、その金額の高さから札を上げる者も少なくなり、ついには四人となった。その四人とは、


進之助「まだまだ!!」


 と


健一「なんのなんの!!」


 と


上客「安い安い!!」


 と


ファン「きょえーー!!」


 の四人である。


雨宮「ついに250万円を超えました! さぁ、他にいらっしゃいませんか? いらっしゃらなければ110番のファンの方に決まります!」


進之助「なんの、なんの…」


健一「まだまだ…」


 二人は金額に驚きながらも札を上げようとしていた。が、上客の一人、腐河(ふがわ)のほうがわずかに早かった。


腐河「ふん、500万!」


 ただでさえ金額に驚いていた椎名と健一は、500万円という金額に驚くあまり、札を上げるのを忘れてしまった。そしてもう一人残っていたファンも二人同様になっていた。


ファン「きょえー……」


 雨宮は嬉しそうに笑いながら続けた。


雨宮「35番の方が500万! 500万円です!! さぁ他にいませんか? いないですね? それでは35番の方、落札です!!」


 その言葉を合図に雨宮の部下が木槌を得意げに鳴らした。その乾いた木槌の音のおかげで会場は我に返った。


進之助「しまった!!」


健一「わっ、わっ、わっ!! おさるさん! しげむさん! どうし、わっ、わっ!!」


重「落ち着いて健一君! 僕らの名前まで混ざっちゃって…」


 雨宮は会場のどよめきをよそに、落札者の腐河をステージ中央へと招いていた。


雨宮「どうぞ、こちらへ」


腐河「どうもどうも…」


雨宮「落札おめでとうございます。えー、本来なら手続きを済ませてからなのですが、信頼のできる腐河様ということで、今、この時からチョコちゃん使いたい放題の権利を差し上げます!」


腐河「それは、ありがたい。まぁ、落札したのは私だが、鶴の一声で決まってしまった。なので、少しばかりファンの皆さんにもおすそ分けをしましょう」


雨宮「と言いますと?」


腐河「うむ、チョコちゃんが生まれてきた時の姿を、皆さんの前で再現いたしましょう!」


 もはやファンでも何でもなくなってしまった無数の男たちは、異様な声を上げてまくしたてる。


雨宮「なるほどなるほど、よし、オイお前ら、チョコをこっちへ連れてこい!」


 命令された部下たちは嫌がるチョコを腐河の横へと連れてきた。


何でも屋「あのクソ野郎共……」

進之助「あのクズ共…」

健一「アイツら…」


腐河「どれどれ?」


千代子「い、いや!!」


 千代子が腐河の手にかかろうとしたその時だった。


修「待ちやがれ!」

ファン「待ちなさい!」


 修と先ほどオークションに敗れたファンが同時に声を上げた。


修「へっ?」

ファン「へっ?」


 少し離れたところから顔を見合わせる二人。


雨宮「なんだ!?」


 雨宮の声がすると、二人は再び声を上げた。


修「なんだじゃねぇ! 金で面を張るような真似しやがって!!」

ファン「なんだじゃない! 人身売買、強制わいせつ、これは犯罪だぞ!!」


 またしても同時に喋り出した二人。


修「へっ?」

ファン「へっ?」


 当然、顔を見合わせる。


雨宮「二人同時に喋りやがって! 何モンだ、てめぇら!」


腐河「江戸川・ドイル…… 探偵さ……」


会場『……………は?』


腐河「あ、ゴメンゴメン、ちょっと言いたくなっちゃって… どうぞ続けて…」


雨宮「……んんっ、よし、二人同時に喋りやがって、何モンだ、てめぇら!」


 聞かれた二人はそろってポケットからあるもの取り出し、雨宮と腐河に見せつけた。


修「久石修、何でも屋だ!」

ファン「遠山金次(とおやまきんじ)、若松警察だ!」


 互いの職業を耳にした二人は、またしても、


修「警察!?」

遠山「何でも屋!?」


 顔を見合わせた。


修「警察の方なんですか!?」


遠山「え、えぇ、人身売買など、その他多くの犯罪にかかわっているという情報が入りまして、極秘裏に調査を…」


修「あぁ、そういう事でしたか……」


遠山「えぇっと、いま、何でも屋さんと…」


修「あ、そうなんですよ、私たちも同じような情報をつかみまして、警察がその件については今は動くことが出来ない、なんて言うもんですから、こっちで証拠をおさえて、んでもって悪い奴らを警察に突き出してやろうと思いまして…」


遠山「そうだったんですか…」


修「いやいや、なるほど、すでに極秘に調査をしていたから、今は動けないって言ったんですね?」


遠山「そうなんですよ、少しでも我々の情報が漏れないようにと考えまして」


修「これは、どうもすみませんでした。というのも、市民が困り果てているのに助けようともしないなんてフザけるな! っと思っていたもんですから」


遠山「いえ、仕方のない事ですよ、こちらも秘密を守るためとはいえ、応対に問題があったわけですから…」


修「いやぁ、真面目な方で本当に良かった、どうです一杯やりませんか?」


遠山「い、いえ、まだ勤務中ですから」


修「失礼しました、そうですよね、あっ、それじゃ蕎麦なんかどうです? 美味い蕎麦屋を知ってるんですよ」


遠山「蕎麦ですか! いやぁ、蕎麦には目が無いんですよ!」


 きょとんとしている会場そっちのけで話し込む修と遠山。


雨宮「オイ! お前ら! オ、オイ、聞けよ!」


 雨宮の声が全く聞こえていない二人は、互いに近づき、名刺交換を始める始末。


雨宮「オ、オイ、オイってば! ………す、すみません! ……ちょっといいですか?」


修「なんでぇうるせぇなこの野郎! 車に引かれて干からびたウ○コみたいな顔しやがって! 雨に降られて元通りってか? ふざけろこの野郎!!」


雨宮「ベラベラと傷つくこと言いやがって!! オイ、こいつら全員、皆殺しに…」


修「全員、皆殺し? 右に右折するみたいに言いやがって、このバカ!!」


雨宮「くっ! やっちまえ!」


 雨宮が叫ぶと、ガラの悪い男たちが会場のいたるところから大勢出てきた。事の次第に恐れをなしたファン達は会場の端により、αチームは男たちに囲まれる形となってしまった。


修「よし、健一君、頼んだぞ?」


健一「はい!」


 様子を見ていた渡と知哉は同時に動いた。


渡「3… 2… 1…」


知哉「ゴー」


 知哉は勢いよく走り出すと、千代子を左右から押さえつけている男二人を、足を広げたドロップキックで吹き飛ばした。


雨宮「なっ!?」


渡「ほいっ、ほいっ、ほいっと! ついでにほいっと!」


 渡はその隙に、鋭いステップインと左右のショートフックを使ってふるーつミントの他のメンバー近くの四人のチンピラを叩き伏せる。

 二つの出来事で生じた少しの間に、健一と進之助は千代子を、椎名は他のメンバーのもとに駆け寄り、ステージ後方で一塊となって体勢を整えた。さらに、その動きに機転を利かせた遠山は、同じくファンに紛れ潜入していた部下五人を素早くステージ後方に配置した。


雨宮「無駄なチームワーク見せやがって!」


修「こっちはこれで憂いが無くなった…… あとはお前を捕まえて終りだ」


 重は修に小声で話しかける。


重「修? 硬水をまだもらってないんだけど?」


修「ゴミはゴミらしく、ゴミ箱に入れてやるぜ!」


 気付かない修。


遠山「おとなしく、あき…」


雨宮「うるせぇ!!」


重「ねぇ修ってば、硬水…」


雨宮「てめぇらも何してんだ! とっととやっちまえ!」


重「ちょっと! 早くしないと始まっちゃうよ!」


修「ぐたぐた言ってねぇでさっさと来いよ、この野郎!」


重「ちょっと! 早く硬水ちょうだ…… いいいぃーっ!」


 重に硬水が届かないまま大乱闘が始まってしまった。


修「うらあっ!!」


 相手の攻撃をさばくと同時に、裏拳に直拳、サイドキックなどをめり込ませていく修。


渡「ほいっと、ほいっと…… にーひゅーすとん!!」


 まったくボクシングらしくない掛け声だが、次々にカウンターを取っていく渡。


知哉「ぬおおおっ!」


 アックスボンバーで倒した相手をジャイアントスイングで他のチンピラごと吹き飛ばし、さらに起き上がってくる者にシャイニングウィザードを決め込む知哉。


進之助「ほにゃ!!」

健一「くいっ!!」

椎名「ぺいむっ!!」


 戦いに不慣れな三人ではあったが、遠山の部下と共に何とかしのいでいた。


遠山「公務執行妨害!!」


 遠山も次々と襲いくるチンピラ達を、用意しておいた結束バンドで瞬く間に取り押さえていく。


重「ひゃー! あぶ、あぶない!! うへっ、ひゃっ、やめ、ひゃー!!」


 硬水をもらえず変身できない重は、会場中を走り回りながら何とかしのいでいた。


重「修! 修修修!! 早く硬水! 硬水早く!」


 怒号が響く会場で、重の声はかき消された。


雨宮「くっ、何だコイツら、なんでこんなに強いんだよ!」


 このままでは、と思った雨宮は素早く会場の壁に近づいた。そして隠しスイッチを押すと、壁の一部がくるりと回転し、中から38口径の拳銃が出てきたのだ。雨宮はそれを手にするや否や安全装置を外し、上に向けて一発はなった。


パァンッ!!!


 乾いた音がその場の人間の耳をつんざく。


雨宮「キレたぞこの野郎!!」


 敵味方関係なく銃口を向ける雨宮に、全員は乱闘をやめて距離を置いた。その時、チンピラの一人が修のバッグを蹴飛ばしてしまい、中から硬水のミネラルウォーターである『ヴォルヴォックス』のペットボトルが転げ出てしまった。


重「どわーーー! どわーーー! ひゃーーー!」


 パニック状態に陥ってしまった重は、会場が静まり返ったのにもかかわらず、ぐるぐると走り続けていた。


知哉「あのバカ…」


 知哉に言われたらおしまいである。が、その時だった。転がっていたヴォルヴォックスを踏みつけた重は、見事にすってんと転んでしまった。


重「イタッ! 何よもう! あぶな… あっ! 硬水!」


 重はペットボトルを拾いフタを開けると、水をガブ飲みあっという間に飲み干してしまった。


修「シゲ! 今は飲むな! 相手は銃を持ってんだぞ!」


雨「悠長に水なんか飲みやがって! 銃が見え…」

重「黙れ悪党!!」


 普段の重からは想像できない爽やかで清々しい声が響いた。飲み終えたペットボトル片手に重はゆっくりと立ち上がる。


重「そこのお前、こっち来い」


 重は近くにいたチンピラを呼びつけると、ラベルとキャップを分別したペットボトルとメガネを渡した。


重「しばしの間、俺のメガネを持っていろ」


チンピラ「は、はい…」


重「声が小さい!」


チンピラ「は、はい!!」


重「よし、それと、レンズには指一本触れるなよ?」


チンピラ「はいっ!!」


重「よし… おいキサマ!! そうだ、銃なんぞ持っているキサマだ!!」


 重の鋭い眼光が雨宮を貫く。


重「夢や希望をうたう事務所も日陰の梨、純真可憐な乙女を食い物にしようとは断じて許せん! この俺『フォルス・スタートマン』が…」


修「5ヤード罰退じゃねぇか……」


重「…………フォルス・スタートマン改め、お色気レモンタルトマンが」


修「改めたなオイ!」


重「キサマを成敗してくれる!!」


 重を知っている人間以外がキョトンとしている中、雨宮は何とか我に返った。


雨宮「訳のわからねぇこと言いやがって! 銃が見えねぇのかよ!!」


渡「そうだよ大先生! あぶないって!」


重「戦友よ、心配は無用… だっ!!」


 言葉と共に雨宮に向かい走り出す重。いや、お色気レモンタルトマン。


雨宮「う、うわっ!!」


 予想していなかったお色気レモンタルトマンの動きに、雨宮は慌てて銃を撃った。


パァンッ!!!


重「すぅ……」


 お色気レモンタルトマンは素早く反応すると忽然と姿を消した。会場全体が度肝を抜かれた。


雨宮「なっ! どこへ消えた!!」


 辺りを見回し、血眼になって探す雨宮は、未だ経験したことのない恐怖を感じていた。そしてそれは、空中に舞うお色気レモンタルトマンの姿を発見した時、頂点に達した。


雨宮「い……」


重「ウルトラ・スーパー・ハイメガ…」


 空中でクルクルと様々な方向へ回転するお色気レモンタルトマン。


雨宮「う……」


重「イリーガル・フォーメーション・フルーティー…」


雨宮「や、やめ……」


重「キリモミ・ヨーイング・コーキング・ハイメガ…」


雨宮「ハ、ハイメガ二回目…」


重「成敗キーック!!!!!!」


 空中の回転状態からどうやって推進力を得たのかは定かではないが、目にも止まらぬスピードで蹴りを繰り出した。そして、お色気レモンタルトマンの右つま先が雨宮の眉間に触れるか触れないかのところで、お色気レモンタルトマンは一回の前方宙回転で雨宮の頭上を越え、音もなく着地した。


雨宮「ぐうぅ…」


 声を漏らす雨宮をよそに、お色気レモンタルトマンは勿体ぶりながらゆっくりと立ち上がる。


重「成敗!!」


 正義の一言。雨宮はその言葉に反応するかのようにその場に倒れこみ爆発。七色の煙と共に木端微塵に、まぁなるわけはない。成敗キックで気絶し、その場にただ倒れこんだのだった。


重「ふんっ! 寸止めにしてやったのに礼も無しか! ……まぁいい、オイ!! メガネ!!」


 メガネを預かっていたチンピラは、ハッと我に返ると大きな声で返事をし、大急ぎでお色気レモンタルトマンのもとへメガネを届けた。


重「ご苦労!」


 と受け取ったお色気レモンタルトマンは、またしても、勿体ぶりながらゆっくりとメガネをかけた。


重「ふぇー、変身はちかれますな、ほんにちかれるでゲス…… あっ、遠山の旦那、この悪党を逮捕しちゃってくださいな」


 変身の影響か、変な話し方をする重。


遠山「……え? あっ、よしっ、確保だ、確保しろ!!」


 遠山の部下二人が雨宮に手錠をかけると、チンピラ達も諦めたのか、抵抗をやめて大人しくなった。


渡「なんだか、前よりも強くなってなかった?」


知哉「おう、とんでもなくな?」


修「しかも、寸止めしてあれだぜ?」


 その後、外で待機していた遠山の部下たちも加わり、悪徳な事務所の人間達は様々な罪状で逮捕され、ふるーつミント以外のアイドルや練習生も無事に保護された。また、進之助・健一・何でも屋達も聴取などいろいろあり、一旦落ち着けるまでに四日ほどかかった。


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