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何でも屋  作者: ポテトバサー
第五章・拝啓万屋御一同様
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懐かしき国府台

※第五章は只今加筆修正中です。近日中に終了します。

男「そうかい…… それで東京に行くのかい……」


若者「はい、東京へ行って美容師として頑張りたいんです」


 山紫水明の古都。そこにたたずむ古びた駅のホームで、寅田進之助(とらだしんのすけ)は東京へ向かう若者と話をしていた。


進之助「するってぇーとあれか? カリスマ美容師って奴かい?」


若者「いえ、そうなれるかは分かりませんが、なれたら故郷に戻ってきて、こっちで開業するつもりです」


進之助「なるほどなぁ。親父さんもお袋さんも自慢の息子を持って鼻高々だろうな。ま、なんだ、一つだけ覚えておいてもらいたいのはさ、無理だけはしないってことだな」


若者「無理ですか……」


進之助「東京てのは、とくに一番の盛り場辺りはさぁ、いろんなところから人が集まってくるんだよ。夢を叶えようって熱い人間も入れば、そういう人間を食い物にしようって輩もいる」


 進之助の言葉には少しだけ寂しさがあった。


進之助「それに人でごった返してよ、流れってのが早くなっちまってな、どうにもこう、自分の事で精一杯になっちまう。頑張りすぎて体を壊したり、頭がパンクしたりって話もよく聞く」


若者「そうですよね……」


 進之助は小さくなってしまった青年の背中をポンと叩いた。


進之助「心配すんねぇ兄ちゃん! 人情だってあんだからよ、まぁ口悪いやつもいるけど」


 進之助はベンチから立ち上がり、自分の故郷を思い出しながら話を続ける。


進之助「だけどよ、どうにも首が回らねぇとか、一人じゃどうしようもねぇ、なんてことがあったら、東京の隣、千葉の若松市は八高ってところに行ってみな? 俺の同級生がやってる『何でも屋』ってのがあるからよぉ。 どいつもバカで、と言っても天才も混じるが、優しくて親切な奴らだからさ」


若者「わかりました。機会があったら行ってみます!」


進之助「まっ、機会がねぇほうが青年が上手くやってるってことなんだけどな」


若者「ははっ、確かにそうですね」


 駅のホームにアナウンスが響く。すると、若者を見送りに来ていた友人たちが声援を送り始めた。若者はすぐ気づき止めに入った。


若者「ちょっと! 嬉しいけどやめてくれよ、恥ずかしいからさぁ。他にお客さんいないけど、電車には乗ってるかもしれないんだし」


友人A「なーに言ってんだ! 親友が一人大都会に向かうんだ、これでも足りねぇくらいだ!」


 進之助はその話をうんうんと頷きながら聞き、腰と肩を回して咳払いをした。


進之助「よし! 俺も青年のために一肌脱ぐか!」


友人A「おじさん! お願いします!」


進之助「俺はまだ二十代半ばだぞ!? まぁいいや、フレー、フレー! ……あ、名前をまだ聞いてなかった」


智「智です、さとる」


進之助「智くんだな? フレー、フレー、さ・と・る! はいっ!」


友人A「フレフレっさ・と・る! 頑張れ頑張れ、さ・と・る!」

友人B「フレフレっさ・と・る! 頑張れ頑張れ、さ・と・る!」

友人C「フレフレっさ・と・る! 頑張れ頑張れ、さ・と・る!」

友人D「フレフレっさ・と・る! 頑張れ頑張れ、さ・と・る!」


 嬉し恥ずかし智の目に、信じられないものが映った。仕事で見送りには行けないと言っていた両親がいたのだ。


智の父「フレ! フレ! さとる!! 頑張れ! 頑張れ! さとる!!」

智の母「フレ! フレ! さとる!! 頑張れ! 頑張れ! さとる!!」


智「二人とも何て格好してんの!?」


 父親は紋付き袴、母親は留袖姿。二人とも必勝ハチマキにお手製ポンポンを持っていた。


智の父「出来のわりぃ息子が東京に騙されに行くんだ! これくらい気合入れなきゃよ!」


智の母「頑張ってきなさいよ!」


 智の脳裏にはいろいろな思い出が駆け巡る。


智「親父、お袋、皆、ありがとう! おじ‥ お兄さんもありがとうございます!」


 電車はホームに入ると正確かつ静かに停車した。


智「それじゃ、行ってきます!」


 智は大きなカバンを手に、電車へと乗り込む。仲間たちの声量が増すなか、進之助は智に近づき、声援の大きさに手を焼きながら話しかけた。


進之助「さっき言った何でも屋だけど、もし行くことがあったら、寅田進之助は、あ、寅田進之助ってのは俺の事だけど、寅田進之助は元気でやってますって伝えておいてくれ」


智「電話とかSNSじゃダメなんですか?」


進之助「おう、情緒ってもんがねぇからな。それじゃ気をつけてな!」


智「はい! 行ってきます!」


 電車の扉はゆっくりと閉まり、夢追う一人の青年を生まれ故郷から少しずつ遠ざけていく。両親と仲間の声援は「頑張れ」や「負けるな」の連呼になっていた。


進之助「行って来い青年!」


 いつかの自分を見ているようで、進之助も自然に叫んでいた。電車はぐんぐんスピードを上げていく。


進之助「頑張れよ! 悪い奴に騙され……… あっ! 待ってくれ! 俺もその電車に乗るんだった! おい! 待ってくれ! おーい!」


 ところ変わって千葉県は八高市若松にある何でも屋の事務所。ソファーに座っていた重と椎名はテレビのニュースを見ていた。事務所内にはアナウンサーの丁寧な言葉だけが聞こえていた。


アナウンサー『今年も残すところ、あとわずかとなってきました。街はイルミネーションで……』


重「はぁー、時が経つのは早いですねぇ」


椎名「まったくだねぇ」


 二人は哀愁の声を出し、目線はテレビのまま話し始めた。


椎名「そういえば重君、昨日のお休みは何してたの?」


重「同士と妖怪談義です」


椎名「好きだねぇ重君は。そんなに面白いものなの妖怪ってのは?」


重「面白いの面白くないのって、まぁ奥が深いんですよ」


椎名「ま、深いは深いだろうねぇ。妖怪で浅いってことはないだろうねぇ」


重「椎名さんは何をやってたんですか?」


椎名「ゲーム」


重「好きですねぇ椎名さんは。ま、俺もゲーム馬鹿ですけどね」


椎名「でも、僕がゲーム好きになったのは皆のせいなんだよ?」


重「え?」


 重は思わず椎名の顔を見た。それにつられて椎名も重の顔を見た。


椎名「誕生日に皆がくれた新型のCONYのゲーム機が原因なんだよ? 青春時代にゲーム何てやったことなかったからね、勉強勉強で。だからその反動でどっぷりハマっちゃって」


重「そうだったんですか。そういえば休憩時間もやってますもんね」


椎名「一応やる時間は減らしてるんだけど…… でもネットで新作を買っちゃったんだよねぇ」


重「結局新しいの買っちゃってるじゃないですか!」


椎名「今日届くから楽しみなんだ。……ん? 知哉君の声が聞こえたような」


 閉めてある引き戸から、興奮した知哉の声が事務所内に入ってきた。どうやら誰かと話をしているらしい。


知哉「いやー買っちまったんだよ! 新作をさ! 椎名さんに前のを少しやらせてもらったんだけどよ、すっかりハマっちまって! よぉ教授さん、人の話聞いてんのか?」


渡「朝からうるさいんだよ! 聞きたくなくても、そんだけデカい声なら勝手に耳に入ってくるよ!」


知哉「朝から元気にいこうってことじゃねぇか!」


 大口を開けて笑う知哉は、渡の肩に手を掛ける。


渡「デカいのは身長だけにしなさいよ! まったく……」


 朝からモメている、いや相変わらず仲の良い二人は、引き戸を開けて事務所の中に入っていく。そして知哉はさらに大きな声を出した。


知哉「はい、皆様おはようございます! 寺内知哉、出社いたしましたよ!」


 重は黙ったまま近くにあったティッシュ箱を知哉に投げつけた。


知哉「イタッ! なーにすんだよ大先生!」


重「うるさいよ! 俺と椎名さんはのほほんとやってたのに!」


知哉「のほほんって歳かよ二人とも。あっ、椎名さん!」


 知哉はニコニコしながら椎名の横に座った。


知哉「いやー椎名さ‥」


重「買ったの?」


 椎名が声をさえぎり聞くと、知哉はニヤニヤしだした。


知哉「へっへっへー」


椎名「買ったんだね!?」


知哉「今日ここに届きます」


椎名「僕もだよ!」


知哉「やっぱり椎名さんもですか! いやー楽しみですよねー」


椎名「ねー。もう体験版やってから、ずっと待ってたからねぇ」


知哉「俺もですよぉ! 悶々としてましたよぉ!」


 テンションを上げ続ける知哉。さすがに鬱陶しくなった渡は、持っていた紙手さげを知哉に渡した。


渡「ほれ知哉、コレ!」


 渡から紙手さげを受け取った知哉は、嬉しそうに控室に消えていった。渡はその様子を見ながらコート掛けにコートを掛けると、自分の事務イスに腰を下ろした。


渡「ったく、なんであぁ声がデカいかな」


椎名「渡君、今の紙手さげは?」


渡「え? あぁ、ほうじ茶です。きのう実家に来たお客さんから頂いたんですよ」


椎名「あ、そうなの」


渡「っていうか椎名さん、その新作のゲームってそんなに面白いんですか?」


椎名「そうだね…… ようやく外に出てきた引きこもりの人が、また引きこもっちゃうくらい面白いね」


渡「……発売中止にしたほうがいいんじゃないですか?」


 その時、お盆に人数分の湯呑をのせた知哉が陽気に控室から出てきた。


知哉「お茶が入ったぞー! はい椎名さん!」


椎名「ありがとう」


知哉「ほい教授さん!」


渡「どうも……」


知哉「あいよ大先生!」


重「あんがと」


知哉「ほらよヒゲ茶瓶! ……あれ? 修は?」


重「あ、そうだった! まだ来てないんだよ修の奴」


知哉「修がまだ来てない!?」


 知哉が驚くのも無理はなかった。修は時間厳守の男、どんな時でも時間だけは守っていた。時間だけは。


知哉「なんかあったのか? 大先生は何も聞いてねぇの?」


重「うん、何とも……」


知哉「他の二人は?」


 椎名も渡も首を横に振った。


知哉「なんだよアイツ、面倒なことでも起きたのか?」


 知哉が色々な考えを巡らせていたその時、事務所の引き戸がカラカラと音を立てた。全員はすぐさま引き戸の方を見た。


修「久石修、只今出社いたしましたー」


 何事もなかったかのように修は中に入ってきた。しかし、少し右足を引きずり、かばうような歩き方だった。もちろん知哉はすかさずたずねる。


知哉「どうしたんだよそれ!」


修「ん? あぁこれか。いやなに、安かったんだよこの上着。作業中なんかにいいかなって思ってよ?」


知哉「足だよバカ! どうしたんだよ!」


修「あぁこれか…… 説明する前に座らせてくれ」


 修は足に影響が出ないように、静かに重の隣に腰を下ろした。


知哉「ほれ、ほうじ茶」


修「おう、ありがと」


知哉「んで?」


修「んー、昨日は休みだったろ? んで暇だったし、ぷらーっと公園にいってのんびりしてたわけよ。したらさ、俺の団地の向かいに住んでる小学生の女の子とそのお袋さんが、サッカーの練習しててなぁ」


知哉「ふーん、それで?」


修「挨拶したらさ、お袋さんに『修君ってサッカー得意?』って聞かれてよ。詳しく話聞いてみたら、近々授業参観の体育でサッカーやるらしくてなぁ。それで親父さんに良いとこ見せたくて練習してたらしいんだよ。まぁその親父さんが忙しい人でなぁ。その子小学二年生なんだけどさ、親父さんまだ一回も授業参観行けてなかったんだよ。親父さんとは何回か喋ったことあんだけどいい人なんだよ。親父さんも、娘に申し訳なくて、なんて言っててさ」


知哉「まぁ、どっちも大切だからな。会社が融通きかないんだろどーせ」


渡「何でも屋(ウチ)はそういう会社には絶対にしないからね」


知哉「当然」


修「おう、けど休みとって今回は行くんです、って自治会の会議のとき聞いてさ。俺に出来ることならって思ってサッカーを教えてたんだよ」


 話を聞いてて修が足を痛めた理由がわかった重は、呆れながら自分の予想を言った。


重「じゃ、あれだ、良いとこ見せようとして調子こいて足を痛めたってことかい?」


修「いや、その帰り道、階段下りてて、あと三段って時に足がもつれて痛めた」


重「何だったんだよ今の話は!」


修「普段から好青年なんだぞって」


重「知るかバカ!」


 重のツッコミでこの話は終わったが、渡は困った顔して頭をポリポリ掻いていた。捻挫野郎はそれに気づいた。


修「どうした教授さん? シャンプーあってねぇのか?」


渡「違うよ! 頭を掻いてる理由はだね! 年末の大掃除的な仕事が今日入ってるからだよ! クソ馬鹿(ちから)ムキムキ(ひげ)野郎が捻挫なんかしたら、人手が足らなくなっちゃうだろ!」


修「んなこと言ったってしょうがないでしょ! 捻挫しちゃったの! 右足首ひねくりまわしちゃった後なの!」


渡「だーからそれで困ってんの!」


修「留守番役だったそこの茶をすすってる脱サラはぐれピエロさんに頼めばいいだろ?」


椎名「修君? はぐれってのは……」


渡「わかったよ! 連れてきゃいいんだろ、そこで茶をすすってる一向聴(イーシャンテン)止まりピエロさんをよぉ!」


椎名「渡君? 一向聴ってのは……」


渡「麻雀でテンパイの一つ前! テンパイってのはあと一枚で上がれる状態の事です!」


椎名「テンパイの一つ前…… それってピエロで上がれないってこ‥」


渡「一向聴さん! そんなことはもういいですから支度支度! ホラ! そこの湿気(しけ)たくびれ鬼と、あのーあれだ、デクノボウも支度して!」


 渡はそう言い放つと、足早に事務所の隣の倉庫へ向かう。


椎名「ねぇ渡君! 僕はもう一向聴で固定なの?!」


 椎名は渡の後を追いかける。その後ろでは知哉と重が顔を見合わせていた。


知哉「……俺だけ特に思いつかなかったから普通にデクノボウって言いやがった」


重「こっちは湿気たくびれ鬼だよ? 川の近くで人を死のうとさせるあの(くびれ)鬼だよ? そりゃ湿気てるよ川にいるんだから……」


 何でも屋を始めて小慣れてきたのか、あっという間に支度をすませた一同。軽トラには渡と重が、ワゴン車には知哉と椎名が乗り込んだ。修は一応見送ろうと外へと出た。


修「気をつけろよ」


 修の一言に重が反応し、ウィンドウのハンドルをぐるぐる回した。中古の軽トラの窓は、真ん中を過ぎると急にハンドルが軽くなる。


重「修さ、頼みたいことがあるんだけど!」


修「ん、なんだ?」


重「今日さ、事務所に俺宛の荷物が届くから頼むわ。代金は払ってあるから」


修「あいよ」


 するとワゴン車に乗っていた知哉もウィンドウを下げた。パワーウィンドウは楽なものである。


知哉「修、俺と椎名さんの荷物も届くから頼んだ!」


修「あいあい、わかったよ。気をつけて行けよ」


 その言葉に今度は渡が反応し、重の横から顔を出した。


渡「お前がな!」


修「わかったよ! さっさと行って来い」


 二台の車は走り出し、修はゆっくりと事務所に戻った。


修「んー、歩くのだりぃからなぁ。よし、大体のもんは机の周りに置いておくか」


 固定電話からお菓子まで、必要になりそうなものを机の周りに置いた修は、事務イスに座り落ち着いた。


修「ふぅー、今日は他に仕事が無いからなぁ、暇になっちまうな。なんかないかな」


 修の目に新聞が映った。


修「おっ、そういや今日はまだ新聞読んでなかったんだ。どれどれ…… ったく、気が滅入るようなクソみたいな記事しかねぇな、どうなってんだよ世の中は。………いいよもう芸能ニュースは、つーか何回離婚したら気が済むんだこの俳優は! ……お、クロスワードがあるじゃんか! 久しぶりにやってみるかな?」


 修はペンスタンドから鉛筆を取り出すと、縦のキーに目をやり、すぐさま横のキーへと視線を移した。

 その頃、依頼現場に向かっている四人はそれぞれの車の中で依頼内容について話していた。


重「教授さん?」


 重は軽トラを運転している渡に話しかけた。


渡「ん、何?」


重「現場はどこなの?」


渡「近いよ。あの…… ほら、でっかい家ばっかある悪趣味成金住宅街のとこ」


重「昔からそう呼んでるけど、今は何でも屋をやってるんだから、呼び方変えなよ」


渡「いーえ、悪趣味成金住宅街です。あそこだけは呼び方変えるつもりはございません」


 渡の家柄を考えると、昔なにかあったことは想像がつく。しかし、温厚な渡にそう呼ばせるだけの事をした悪趣味成金住宅街はある意味では大したものだ、重は短い間にそこまで思った。


重「でも大掃除なんでしょ? あそこに住んでる人たちだったら、ウチみたいなところじゃなくて、大手の清掃会社に頼みそうなもんだけどね?」


渡「いや、まぁ、あれなんだよね、よくわかんないんだよね依頼内容」


重「え?」


渡「いやぁ、年末で大掃除の依頼が多かったでしょ? んで、取る電話取る電話全部同じ内容だったから……」


重「だったから何よ?」


渡「だから、その、依頼人がさぁ電話先でモソモソ言っててよく聞こえなかったから、大掃除のような感じですか? って聞いたらそんなような感じですって言うからさぁ……」


重「言うからさぁ、じゃないんだよ! じゃ、掃除じゃない可能性もあるの?」


渡「ま、掃除用品は持ってこなくても大丈夫って言ってたから、部屋の模様替えとか不用品の整理とかじゃないかな?」


重「もう一回電話をかけなおして聞けばよかったでしょ?」


渡「忙しかったからさぁ」


重「ったく、かなーとか、かもーばっかで、はっきりわかってることが無いじゃないの!」


渡「あるさ!」


重「何よ!」


 軽トラの後ろを行くワゴン車の中でも似た話がされていた。


知哉「はっきりしているのは名前だけらしいです」


椎名「名前? いや知哉君、そりゃそうでしょ。名前とか電話番号とかは絶対に聞くもの」


知哉「それはそうなんですけど」


椎名「それで、名前は何て言うの?」


知哉「江古棚誠(えこだなまこと)さんです」


椎名「……………面倒くさいって臭いがプンプンだけど」


知哉「灰田小次郎的な?」


椎名「うん、灰田小次郎的な」


 そんな会話をしているうちに、一同は指定された場所に到着した。そこは住宅街の真ん中に位置する空き地だった。四人は車を空き地に停めると、車を降りて辺りを見回した。すると空き地の向かい側にゴミ屋敷が見えたが、四人は見て見ぬふりをした。


椎名「ねぇ渡君」


渡「なんですか?」


椎名「住所はここであってるの?」


渡「はい。車をこの空き地に車を駐車したら連絡してくれって言われてるんですよ。なんで、いま電話してみます」


 渡は携帯電話を取り出し、江古棚誠に電話をかけた。


渡「…………あ、もしもし。何でも屋の大塚ですが、えぇ、いま着きました。はい、はい…… あ、そうですか、わかりました」


 渡は一瞬だけ通話口を手で押さえ、三人に早口でしゃべった。


渡「道が複雑だから電話で道案内してくれるって」


 そう告げた渡は、再び江古棚と喋り出し歩き出す。三人は取りあえず後に続いた。


渡「はい、向かいに大きな屋敷? えぇありますゴ、あの屋敷みたいな…… あ、そこをまず右に……」


 それを聞いた後ろの三人は、現場がゴミ屋敷でないことに胸をなでおろした。それぞれの安堵の表情を見せ、お互いにウンウンと頷いた。

 一方、何でも屋の事務所では修が飽きもせずにクロスワードを解いていた。


修「うーんと、アライグマで…… 横の7がシマリスっと」


 クロスワードを軽快に解いていく暇人。


修「んでここがラッコ。んー縦の5は何だ? 八文字で最初がフで六文字目がギで最後がネ…… あっフェネック…… ん?」


 答えがわかったその時、修は人の気配を感じた。修が気配の感じるままに目をやると、事務所の引き戸の外に、ファーストフード店の店員らし女の子が立っていた。歳は二十代ぐらいで両手で厚みのない小さな箱を一つ持っていた。


修「なんだ? エブリデイサマーの店員か? でも制服が違うような…」


 修が店員風女の子を見たまま考えていると、その子は爽やかな笑顔と共に会釈した。


修「あ、すいません。いま開けます!」


 修は右足をかばいながら、出来るだけ急いで引き戸へ向かった。


修「はい、どうも……」


 修が引き戸を開けたその時、店員風女の子は元気な声を出した。


店員?「いらっしゃいませこんにちはー!」


修「え?」


店員?「いらっしゃいませこんにちはー!」


修「いや… いらっしゃったのはそちらなんですけ‥」


店員?「いらっしゃいませこんにちはー!」


修「わかりましたよ! いらっしゃいました。私の方から来ました。ったく、それで何かご用ですか?」


店員?「お届け物と一緒にポテトやら何やらはいかがですか?」


修「何やら? 何やらってなにがあるん…… じゃなくて! いまお届け物って言いました?」


店員?「はい! お届け物と一緒にポテトやらあれやらはいかがですか?」


修「あれやらって…… ん?」


 店員風の女の子が胸につけている名札が修の目に映った。そこには名前と一緒に企業名が入っていた。


修「福ネコ川通運? もしかして配達の人ですか?」


配達員「はい! ただいま、コスプレ配達サービス期間となっておりまして、さまざまな職種のコスプレをして配達させていただいらっしゃいませこん…」


修「わかりましたよそれは!」


配達員「ご注文は?」


修「お届け物一つ」


配達員「ご一緒にポテトはいかがですか?」


修「…………ポテトポテト言ってますけど、ポテト頼んだら出てくるんですね?」


配達員「…………あの、近くにファーストフード店ありますか?」


修「え? ここから10分くらい行った駅前にミスター・ピーナッツがありますけど?」


配達員「10分…… ポテトのほうは25五分くらいかかってしまいますがよろしいでしょうか?」


修「買いに行く気だな! 往復20分のポテト出てくるまでの5分でしょ! いいですよポテトは、お届け物だけでいいです!」


配達員「かしこまりました。椎名様宛てのお届け物単品ですね? お届け物のほうはこちらで開けていかれますか? それともお持ち帰り‥」


修「お持ち帰りで!」


配達員「かしこまりましたぁ。ではお代金ハンコかサインです!」


修「んじゃサインで…… ここに書けばいいんですか? はいはい…… はい、書きました」


配達員「では、出来上がるまでこのカードを持って席についてお待ちください」


修「え? いや、ちょっと……」


 修は8番と書かれたカード渡された。


配達員「お席についてお待ちください」


修「いや、足痛いし、どうせすぐ呼ぶんでしょ?」


配達員「お席に‥」


修「わかりましたよ! ったくもう、俺一人しかいないのに、手にお届け物持ってるのになんで待たなきゃならねぇんだ!」


 修は再び右足をかばいながらイスに戻った。その瞬間。


配達員「8番でお持ちのお客様!」


修「だろうね! そりゃ、すぐ呼ぶだろうね!」


 修は右足の痛みを忘れて、配達員に足早に近寄った。


配達員「お待たせしました」


修「はい、どうも!」


配達員「ありがとうございます! またのご利用をお待ちしています!」


 配達員は深々と頭を下げると、小走りで大通りのほうへ遠ざかっていく。修はその小さくなっていく配達員の背中に叫んだ。


修「上に言ってやめさせたほうが良いですよ! コスプレサービス!」


 配達員はその声に立ち止り振り返ると、笑顔で会釈して再び進みだした。


修「ふぅ、配達業界もマンネリ化してるな。コスプレサービスって…… クオリティを上げにいったほうが良いだろ、コスプレしてる暇があったらよ? 大体、一つの届け先に何分かけるんだよ。というか疲れてるから訳のわからないサービスを考えちゃうんだよ。一週間くらい休みあげちゃえよ。一週間くらい我慢できんだろ、皆も」


 修はブツブツ言いながら引き戸を閉め、イスに座った。そして荷物を眺める。


修「椎名さんの荷物か。知哉と大先生の荷物も同じ業者だったら面倒だなぁ。でも配達先が一緒ならまとめて持ってきそうなもんだけどな」


 修は嫌なこと考えたと、クロスワードを再開した。

 またまたその頃、仕事に出かけた四人は、未だに江古棚の道案内で歩かされていた。


渡「次を左…… はい……」


 あきあきした声で返事をする渡。だが知哉の方は我慢の限界に近づいていた。


知哉「くっ! 椎名さん!」


椎名「なに知哉君?」


知哉「歩き始めてどれくらいになります?」


椎名「10分ぐらいかな?」


知哉「ですよね? ですよね!? オイ!」


渡「あっ、ちょっとすいません…… なによ?」


知哉「どんだけ歩かされなきゃならねぇんだ! あとどれくらいか聞け!」


渡「わかったよ! あ、すみません、あとどれくらいで着くんですかね? 2分くらい? あ、わかりました。で、ここを左」


 椎名は知哉をなだめる。


椎名「ほら知哉君。あと2分くらいだから、ね?」


知哉「まぁ、2分くらいなら別にいいですけど……」


 それから2分後、四人はある空き地に到着した。


渡「はっ!?」


 渡が驚きの声を発したのも無理はなかった。その空地は最初に来た空き地。その証拠に四人が乗ってきた車が停めてあった。


渡「え? 後ろに大きな屋敷? ありますけ…… ええ!? このゴミ、じゃなかった、大きな屋敷がお宅なんですか?!」


 知哉は怒りに任せて、渡の携帯電話を取り上げようとしたが椎名の方が早かった。


椎名「くぉーら! なーに考えてんだアンタは! ぬぅわんの遠回りどぅわったんだ!」


 慌てて知哉が止めに入る。


知哉「ちょ、ちょっと椎名さん! 落ち着いてくださいよ! 新たな一面見せなくていいですから!」


椎名「あっ、電話切れてる…… 勝手に電話を切るんじゃない!」


知哉「いや、切れてるんですから電話に向かって叫んでも意味ないですよ!」


 渡と重も加わり三人がかりで椎名を落ち着けさせていると、ゴミ屋敷から一人の男が出てきた。椎名はそれに気づくと三人を振り払って声を上げた。


椎名「アンタか! アンタだな!? アン、タ…… が……」


 椎名の目には、包帯でぐるぐる巻きにされた男の右足が映った。


江古棚「あ、皆さん、今回依頼した江古棚と申します」


椎名「これは、どうも……」


 江古棚の足を見て怒るタイミングを逃した椎名は普通に挨拶を返してしまった。


江古棚「どうぞ皆さん中にお入りください」


 四人はよく分からない展開に戸惑っていたが、江古棚に促されるまま、ゴミ屋敷の中へと入っていった。

 屋敷の中は家電や家具、その他細々したもので溢れかえっていたが、どれもゴミというには無理があるものばかり。ほとんどの物が使えそうな物ばかりだった。


江古棚「どうぞこちらに……」


 和室に案内された四人は促されたままに座布団へ座った。四人がどうしたものかと待っていると、江古棚がお盆を手に戻ってきた。


江古棚「粗茶ですが……」


渡「すみません、どうもありがとうございます」


 お茶を配り終えると江古棚は四人の正面の座布団に腰を下ろした。


江古棚「すみません、足を怪我してるもんで、あぐらのようになっちゃいますけど……」


渡「あ、お気になさらず……」


江古棚「どうも、すみません」


渡「あのー、江古棚さん? 依頼内容の事なんですけど」


江古棚「はい」


渡「大掃除と言いますか、不用品整理と清掃ということでよろしいんでしょうか?」


江古棚「えっとですね、ちょっと違うんですよ……」


渡「違うと言いますと?」


江古棚「えぇ、少しの間、仕事を手伝っていただきたいんですよ」


渡「仕事…… ですか。お仕事は何を?」


江古棚「リサイクル・リペアショップ、ま、修理屋といったところです」


渡「修理屋…… それじゃもしかして、ここにある品物は……」


江古棚「えぇ、敷地内にあるものは全部商品なんです」


渡「いやぁそうだったんですか。まぁ正直に話しますと、ゴミ屋敷なのかなっと思っていまして。どうもすみません。失礼をいたしました」


江古棚「いやいや、ゴミ屋敷と思われても仕方ありませんよ。商品と言っても普通の店とは少し違いますからねぇ」


 そう言いながら、江古棚は周りの商品を見回し始めた。


江古棚「ちょっと前まではゴミ屋敷のような所じゃなかったんですけどねぇ。私と従業員の六人体制で仕事をしていたんですが、あることが起きて私以外の従業員は休養中でして」


渡「それは大変ですねぇ」


江古棚「そうなんですよ。私もごらんのとおり右足を痛めて、一人では回しきれなくなってしまって。引き取った商品や修理依頼の商品がたまっていく一方……」


渡「えぇ、えぇ」


江古棚「近所の方たちは事の始まりから知っているので、現状には理解してくださっているんですけど、あまりに忍びないと、何でも屋の皆さんの事を教えてくださったんです」


渡「そういうことだったんですか」


江古棚「従業員が復帰するまで、最低でも私が本調子に戻るまで業務を手伝ってもらった方がいいんじゃないかと勧められまして」


 その時だった。今まで黙っていた重がすっと立ち上がったかと思うと、スラスラ喋り出した。


重「江古棚さん。申し訳ないんですが、今回の依頼の事で私たちだけで話したいことがありますので、少しだけ席を外してもよろしいでしょうか?」


江古棚「あ、はい、どうぞどうぞ」


重「それじゃちょっと失礼して」


 重は他の三人を無理やり立たせると、屋敷の外へ連れ出した。訳も分からず外に出された渡はすぐに口を開いた。


渡「ちょっと! 大先生!」


重「…………………………」


渡「何してんのよ?」


重「今回の依頼は断ろう」


 重の突拍子もない意見には知哉も黙ってはいられなかった。


知哉「急にどうしたんだよ? 何で依頼を断るんだよ!」


重「だっておかしいでしょ? 『あることが起きて私以外は休養中』ってのは」


知哉「まぁそうだけど……」


椎名「そういえば、そのあとの言い回しにも少し違和感があるよね。『事の始まりから』っていうやつとかね」


重「リサイクル・リペアショップってことは、中古品を取り扱う仕事なんだよ? 何かしらの念がこもった商品もあるかもしれないし」


知哉「そうかそうか、中古品だもんな。中には処分に困って持ってきたモンもあるよな……」


渡「それじゃ、『ある事』がどんな事だったのかと依頼内容の二つを聞いて受けるか受けないか決めようか?」


 屋敷に戻った四人は、さっそくその事について江古棚に訊ねてみた。


江古棚「あぁそのことですか」


渡「はい、伺っておきたいと思いまして」


江古棚「構いませんよ。んー、どこから話したらいいか…… とにかく不幸が続きまして」


渡「不幸ですか?」


江古棚「少し長くなりますが……」


渡「構いませんので話して頂けますか?」


江古棚「では。えー、今から二ヶ月くらい前の事です。ある名家の方から日本人形の修理依頼がありまして」


重「あぁ、日本産業」


江古棚「いえ、日本人形です」


知哉「……あ、あぁ、何とかファミリーとかっていう動物の小さい人形とかルミちゃん人形の?」


江古棚「いえ、伝統的な、つまり着物を着た女の子の人形です。髪の毛が少しずつ伸びたり、夜な夜な歩き出す、とか言われてる人形の方です」


知哉「…………」

重「…………」


江古棚「それで依頼主の方が、まぁ、お客様を悪く言いたくはないんですが、俗に言う『チャラい』お方でしてねぇ。『この人形さぁー、一回全剃りにしてぇー、赤毛のドレッドにしてぇーんだけどぉ、やってくんねぇかな』とおっしゃいまして」


渡「……はい」


江古棚「最初は断ろうとしたんですが、報酬として500万円出すと言われまして、さらに仕上がりに満足したらプラス200万円出すと言われて。何て人形思いの優しい方なんだと人柄に惚れて依頼を受けたんです」


渡「ガンガン、金に目が眩んでるじゃないですか!」


江古棚「そんな優しい方の力に何とかなりたいと、一所懸命に赤毛のドレッドに仕上げたんです。そしたらお客様も大満足ということで750万円をいただきまして‥」


重「50万増えてる……」


江古棚「従業員と手元にある750万円を見て『あー、もっとああいう客がこねーもんか』なんて前向きな気持ちがあふれてきまして」


渡「金の魔力! 人が変わっちゃってますよ!」


江古棚「その矢先です。従業員の一人が強風で倒れた大きな看板の下敷きになってしまいまして……」


知哉「えぇー! 大丈夫だったんですか!?」


渡「はい、命に別状はなく、骨折と打撲だけですんだんです」


知哉「それは良かった、不幸中の幸いでしたね。にしても大きな看板が……」


江古棚「えぇ、人形屋さんの看板がねぇ……」


知哉「はい?」


江古棚「それから数日後、別の従業員が消費期限の過ぎた物を食べてしまって」


椎名「あたってしまったんですか?」


江古棚「そうなんですよ。人形焼を食べて……」


椎名「はい?」


江古棚「そんな感じで他の従業員にも不幸が続きまして、とうとう私の身にも……」


渡「その右足の怪我ですか?」


江古棚「えぇ、まったくマンガのようなことが起こりましてね? 商店街を歩いていたら八百屋の前でバナナの皮を踏んづけて転んで、右足を痛めるわ頭を打ってしまうわで……」


渡「ほっ、バナナでしたか」


 微笑んだまま、何でも屋の四人は互いの顔を見合う。


江古棚「そうなんですよ。八百屋のバイトの子がバナナを盗み食いしてたところ、店長にバレそうになったらしく、慌てて皮を投げたら通りがかった私が踏んづけてしまったんです。もうバイトの子が大慌てで駆け寄ってきましてね。スマホを取り出して救急車を呼んでくれたんです。赤いドレッドヘアーが印象的なバイトの子でした」


 凍りつく何でも屋たち。


江古棚「そんな感じで不幸が続いたかと思ったら、つい最近なんですけどね、ここをゴミ屋敷と勘違いした人が不法投棄をしていったんですよ!」


重「……それはひどいですね」


 重は一応の返しをした。


江古棚「五日連続ですよ! 加湿器から始まって、ミキサー、鍋、オーブン、洗濯機。もう頭に来ちゃいますよ!」


重「頭にねぇ。か・しつき、み・きさー、な・べ、お・ーぶん、せ・んたくき。かみなおせ。髪直せ……」


江古棚「本当に何の祟りか…… まぁ、そういうようなことがあって皆さんに依頼をしたということでなんです。それで、依頼の方は受けて頂けますでしょうか?」


 何でも屋四人は正座をしたままズルズルと後ろに下がり、額を畳につけ声を揃えた。


渡「お断りします」

重「お断りします」

知哉「お断りします」

椎名「お断りします」


 快諾してもらえると思っていた江古棚は目が点になった。


江古棚「ええぇ! どうして受けてもらえないんですか!?」


 四人は一斉に顔を上げてその質問に答えた。


知哉「どう考えたって人形の祟りだろ!」

渡「こっちにまで不幸が回ってきたらどうすんだ!」

重「魑魅魍魎をなめてるんだアンタは!」

椎名「呪いが目に見えてるのに受ける奴なんかいるか!」


 江古棚は文句を言われながらも、四人を引き留めようと必死に考えていた。


江古棚「あの、えっと、じゃあ、こうしましょう! 依頼料のほかにこの家にあるもだったら、一人につき一つ何でも差し上げます! どれも、そんじょそこらじゃ手に入らない物ばかりですから! ね? ね? ほら、例えば、んーと大塚さん。何か好きな物を言ってください!」


 渡は江古棚の提案を崩すために、この屋敷にありそうに無いものを考え答えた。


渡「ボクシングが好きですけど……」


江古棚「少々お待ちを!」


 江古棚は立ち上がり屋敷の奥へ消えたかと思うと、古びたグローブを持ってすぐに表れた。


江古棚「大塚さん、これなんかどうですか! ギアボックス富田が東洋チャンプになった時のサイン入りグローブですよ!」


渡「ギアボックス富田の!? なんと!」


江古棚「ね? ね!? 良いものでしょ!? さてそちらの背の大きな‥」


知哉「寺内です」


江古棚「寺内さんの好きな物は?」


知哉「物じゃなく人なんですけど、岩原さと子ですかね?」


江古棚「岩原、あの女優の?」


知哉「はい、そうです」


江古棚「それじゃ、お隣の長髪の‥」


重「水木です。好きな物は…… 妖怪です」


江古棚「妖怪ですか…… わかりました。最後に‥」


椎名「あ、椎名です。好きな物は、そうですねぇ、最近はゲームが好きですかねぇ」


江古棚「ゲームですか……」


椎名「えぇ、ゲームなら新旧問わず好きですね」


江古棚「わっかりました! 皆さん少々お待ちを!」


 江古棚は再び屋敷の奥へ消えると、荷物を両手に抱え戻ってきた。


江古棚「はい寺内さん!」


 荷物の中から一枚のラッピングされた色紙とブルーレイケースを手渡した。


知哉「こ、これは!?」


 キスマーク入りの岩原さと子のサインと、グラビアのブルーレイディスクだった。


知哉「このキスマークは確かに、確かにさと子ちゃんのもの! しかも、このブルーレイ! 今では入手困難のファーストグラビア『the-satoko』じゃないですか! ネットなんかじゃ定価の七、八倍の値がついてるプレミアム物!」


江古棚「良いものでしょ寺内さん?」


 知哉は子供の様な笑顔を見せ、江古棚に向かって何度も頷いた。


江古棚「水木さんは、これをどうぞ!」


 重は風呂敷で包まれた四角い形の物を渡された。大きさは30・40センチの長方形。


江古棚「広げてみてください」


重「あ、はい」


 重が風呂敷をゆっくり取ってみると、木枠のガラスケースが現れた。中には様々な妖怪のフィギュアが並んでいた。


重「のおおおおお! まさかの、まさかの新日本妖怪不可思議連盟公式フィギュア! 煙羅煙羅(えんらえんら)に倉ぼっこ、クネユスリにべとべとさん! あっ、カラス天狗もいる! かっけぇー! やっぱかっけぇーなーカラス天狗は!」


江古棚「どうですかぁ? なかなかの物でしょ? さて、最後に椎名さんこれを……」


 小さめな箱を手渡された。


椎名「あぁあぁあぁ! こりは! こりは! 初代バーコードファイター! しかも未開封じゃないですか!」


江古棚「えぇ、ですから実際に遊ぶときは、こちらの開封済みの物を使ってください」


椎名「ええ! 良いんですか!? いやー中学生のときから欲しかったんですよぉ。勉強の毎日で両親も買ってくれなくて、今じゃどこ探しても売ってないし…… ありがとうございます!」


江古棚「いえいえ、それで皆さんどうでしょう? 依頼の方は受けて頂けますか?」


 その言葉を聞いた四人は楽しそうな表情から一変シリアスな表情になり、受け取ったお宝を畳の上にそっと置くと、再びピシッと正座をした。


渡「ご依頼、承りました!」

重「ご依頼、承りました!」

知哉「ご依頼、承りました!」

椎名「ご依頼、承りました!」


 何でも屋四人の元気な声が屋敷の外まで響いた。

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