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何でも屋  作者: ポテトバサー
第二章・よそでイチャつけ!!
17/56

オレンジロードは気まぐれ

[あらすじ]

 デートコースについての話を同級生に聞いていた知哉と重は、喫茶店のコックとして働いている佐紀の元へとやって来ていた。そして佐紀は相変わらずの大きな声だった。

 佐紀を何とか止めた重はいきさつを説明した。


佐紀「ふーん、スクランブルでそのままタッチダウン…… 千葉オイルサーディンズのクォーターバックもなかなかやるじゃない!! というか、セイフティブリッツをかわしたのが‥」


重「いや、アメフトの話はしてないんだけど……」


佐紀「冗談よ!! 冗談!!」


 千葉オイルサーディンズ。千葉県のアメフトチームであり、イワシが逃げ回るようなトリッキーな動きが特徴のワイドレシーバー、その動きに対応できるアキュラシーを持ったクォーターバックのパスプレーが武器のチーム。しかし近年、負け越しが続いており、ディフェンス強化の為、昨シーズンに獲得したラインバッカーの活躍が、とこれはまた別のお話。


佐紀「それで、何の話だっけ!?」


重「デートコース!!」


 たまらず重も声を張ってしまう。


佐紀「ああ!! そうそう!! 私はね、食べ歩き!!」


重「あ、やっぱり?」


佐紀「何よ!! 重君!! やっぱりって!!」


 佐紀は身を乗り出し、重の耳元で叫ぶ。


重「うわっ! ちょっと勘弁してよ佐紀ちゃん!」


佐紀「あのね、食文化っていうのは国の文化そのものなのよ!? 特産品や名物、郷土料理なんかでその土地柄までわかるんだから!!」


 重はなんだかんだ、先ほどからの同級生の説得力に憧れを感じていた。自分にもこれだけの説得力があれば、世間に妖怪の事を上手く伝えられるのにと思っていた。


佐紀「どう!? 知哉君もいい案だと思うでしょ!!」


知哉「えっ? あ、そうだな…… けど食べ歩くにしてもいい場所がないと……」


佐紀「…………」


 あきれた様子で黙り込む佐紀は、ため息をほんの少しついたかと思うと、すごい勢いで話はじめた。


佐紀「私を目の前にして何を言ってるの!? それにオレンジロードで何を見てきたの!? いたるところにこのポスティーが貼ってあったでしょ!!」


知哉「ポスティー?」


 佐紀は、すぐ近くの壁に貼ってあったポスターを剥ぎ取り、二人の目の前に差し出した。


重「オレンジ祭りフィスティバル?」


知哉「オレンジ祭り祭りってこと?」


重「……とにかくあれだ、商店街でお袋の味とか故郷の味とかを楽しめるお祭りをやるってこと?」


佐紀「そうなの!! だからデートコースにオレンジロードを入れれば間違いなしよ!! この店に来てくれればサービスもしてあげるから!!」


重「本当に? それはありがたいよ! ねぇ知ちゃん」


知哉「あぁ、それは助かるよ」


 二人の言葉を聞き、佐紀はにっこり笑いながら手にしていたポスターを丸め、テーブルに置かれた大量の料理と二人を交互に指しはじめる。


重「なんだろ知ちゃん」


知哉「あぁ、何だろうな」


佐紀「料理を食べてって言ってんの!!」


重「えぇ!?」

知哉「えぇ!?」


佐紀「えぇっ、じゃないでしょ!! 話を聞いてあげた上に、良いアイデアも出して、デートの当日サービスをしてあげるって言ってるんだから、二人も私の料理を食べて感想の一つや二つちょうだいよ!!」


知哉「いや、でも……」


佐紀「でももハマチもない!!」


重「ヘチマじゃ‥」

知哉「ヘチマじゃ‥」


佐紀「いいから食べる!!」


重「はい、いただきます!」

知哉「はい、いただきます!」


 相変わらず女子の説得力、いや、脅迫に似たお願いを断れない二人は、満腹度80パーセントの状態で料理を食べ始めた。一口(ひとくち)二口(ふたくち)頬張るごとに賞賛の言葉を送り続け、佐紀はその言葉を聞くたびに満足げに頷いた。そしてそれは最後の一口まで続いた。


佐紀「それじゃ二人ともまたね!!」


重「さようなら…… うっぷ……」

知哉「さようなら…… げふっ……」


 飽和状態に近い二人はNight&Dayを後にした。


重「うぅ…… 牛のように胃袋が四つ欲しい…… 四つ欲しい……」


知哉「耐えろ大先生…… 耐えるんっぷ!! あ、あぶね……」


 二人はこれ以上の振動は命取りと判断し、近くの公園で一休みをすることにした。うっぷうっぷ言いながら公園に入ってきた二人を見て、賢明な子供たちは十分な距離を置いた。


知哉「うぅ…… 子供たちに蔑まれているような感じがするっぷ……」


重「知ちゃん、今は何もしゃべらずに… 消化促進の…… はっ!! はぁぁぁっ……」


知哉「だ、大先生ぇぇ!!」


 ここにきて、常日頃から愛飲しているウーロン茶と、先ほど食べた冷やし山菜の三色茶そばが命取りとなった。当然、二人がそれを綺麗に片付けたのは言うまでもない。そして、その最中、知哉が重の後を追いそうになったのは言うまでもない。


重「ふぅ、ようやく落ち着いてきたよ……」


知哉「大丈夫か?」


重「うん、もう大丈夫、ありがと」


知哉「それで? 最後は誰だっけ?」


重「最後はね……… 小春(こはる)ちゃんのとこだね」


知哉「小春かぁ、失敗したな訪ねる順番」


重「まぁ、何とかなるでしょ……」


知哉「何とかなるかぁ? 少しは丸くなってるといいんだけどな」


重「口調がきついからね小春ちゃんは……」


 二人はゆっくりとした足取りで、小春が働く八百屋へと向かった。その八百屋は小春の実家であり、小春は父親から継ぐつもりで働いている。もちろん父親もそのつもりでいたが、まさか本当に継いでくれるとは思ってもいなかったらしい。


知哉「大先生も小春が八百屋を継ぐと思ってた?」


重「何となくはね、だって小学生のときから手伝いしてたからね」


知哉「そうか。俺は格闘家にでもなるのかと思ってたよ」


重「言いつけるよ?」


知哉「だって本当に強かったろ!? 修のバカと一緒で暇さえありゃトレーニングしてたしよ?」


重「なぜこうも、私たちの周りにはいろいろな意味で強い女性が多いのでしょう……」


 二人はかなりの時間を歩いて佐紀の八百屋があるトパアズ商店街へ到着した。


重「ふぅ、ようやく着いたね」


知哉「いやー、懐かしいなぁ、この商店街」


重「小学校がこっちの方にあったから当時はよく通ってたけど、中学以降は全く通らなくなったからね」


知哉「そうだな…… あっ、あれ小春じゃないか?」


重「本当だ」


 黒い長髪を上にまとめ上げ、ねじり鉢巻きをし、袖をまくり上げ、紺の前掛けをした小春が、野菜を並べながら威勢のいい声をだしていた。


小春「いらっしゃい!! いらっしゃい!! インゲン、キヌサヤ、エダマメ、ソラマメ! 茹でるだけで一品(ひとしな)出来ちゃうよ! さぁ安いよ安いよ!!」


 パンパンと手を鳴らす度に、小春のしなやかに締まった腕の筋肉が見え隠れする。そんな小春に知哉は静かに話しかけた。


知哉「よう小春、久しぶりだな」


小春「そうそう、安いよ安いよ! 小春も安いよ! …………安くねぇよ! 誰だ、あたしが安いって言ったタコは!? お前か!」


 小春は色々と勘違いをして、たまたま通りかかった頼りなさそうなサラリーマンの胸ぐらを掴んだ。


男「ひいいいっ! 私は何も言ってません、言ってません!」


小春「似合いもしねぇネクタイなんぞ締めやがって! ゴボウで尻をひっぱたいてやろうか?!」


 知哉と重は慌てて止めに入る。


知哉「ちょっと待って、小春! 誰も小春を安いなんて言ってねぇよ!」


重「知ちゃんが話しかけただけだよ!」


小春「あぁ、勘違いか。つーか何だよ二人揃って? ろくに顔も見せねぇでよ」


 頼りなそうなサラリーマンをあっさりと離し、腕を組んで知哉と重を見つめる小春。知哉と重はとりあえず小春を無視し、サラリーマンに謝り続けた。


知哉「すみません! すみません!」

重「本当に申し訳ありません!」


男「あ、いえ‥ ギャーーッ!」


 サラリーマンは急に叫びだしたかと思うと、目にもとまらぬ速さで逃げていく。なぜ逃げ出したのわからない二人は、不思議そうな表情のまま小春のほうへ振り返った。


小春「どうしたんだアイツ?」


 ゴボウを片手に立つ小春が、逃げ出したサラリーマンを見つめていた。知哉はすぐにそのゴボウを取り上げた。


知哉「おい、なにゴボウ持ってんだ! 小春が勘違いしてあの人に迷惑をかけたんだろ!?」


小春「バカ言うな! 詫びにゴボウでもやろうと思ったら、あのタコが勘違いして逃げ出したんじゃねえか!」


知哉「ゴボウでひっぱたくとか言うから勘違いしたんだろ! 全く……」


 小春はブツブツ言う知哉からゴボウを取り、元の位置に戻した。


小春「んで? 何の用だよ二人とも?」


 ブツブツと独り言が止まらない知哉の代わりに重が答える。


重「い、いやー 実はさ…………」


 四度目になるいきさつ説明をする重。四度目ともなると説明の仕方もうまくなる。


重「というわけなんだよ」


小春「なるほどな…… けどよ、ウチは牛の胃袋なんか扱ってねぇぞ?」


重「いや、そこじゃなくてデートコースの事!」


小春「あぁっ!」


 小春は重の肩を軽快にひっぱたく。


重「イタッ!」


小春「デートコースの事を言ってやがったのか。悪りぃ悪りぃ」


重「それで…… いつまでブツブツ言ってんの!」


 重は知哉の鼻にデコピン、つまりは鼻ピンを放つ。


知哉「いってぇぇ!」


重「あ、ごめんね小春ちゃん。それで小春ちゃんはデートならどこがいいかな?」


小春「うーん……… そうだな」


 小春は考え始めて十秒も経たないうちに口を開いた。


小春「特にねぇな」


重「えっ?」


小春「だから、特にねぇよ?」


重「どこにも行かなくてもいいの?」


小春「行かなくていいわけじゃねぇよ。ただ、惚れた相手となら近所を散歩するだけでも楽しいだろ。二人でいる時間をどこで楽しむかじゃなくってよ、どう楽しむかだろ? 土手の河川敷で川見ながら、近くで買った今川焼きかなんかを、茶でもすすりながら食べてるだけでも十分楽しいだろ?」


重「なんかすごく良いこと言ってる感じがする……」


小春「ったりめぇよ。誕生日とか正月、祝い事の日にゃどっか行きてぇけどよ? 互いにいつも腹を割って話してりゃ、おのずとどこに連れていったら喜ぶかもわかるだろ?」


重「とんでもなく良いこと言ってる感じがする!」


小春「そうだろ、そうだろ! だいたい、んなこともわからねぇ男と付き合ってるやつの気が知れねぇよ、まったく ………こら、いつまで痛がってんだ知哉!」


知哉「あのな小春、鼻ピンだぞ!?」


小春「おい知哉、さっきから小春小春偉そうに呼び捨てにしやがって、女子の名前を何だと思ってんだ?」


知哉「いや、別に偉ぶってるわけじゃねぇよ…… 同級生だし、呼び捨てにしても……」


小春「親しき中にも礼儀ありって知らねぇのか? 野郎同士ならまだしも、可憐な女子に向かって名前を呼び捨てじゃ育ちが知れるぜ?」


知哉「人のこと言えんのかよ、粗暴な口のききかたしてるくせによ」


小春「ほう、粗暴なんて言葉知ってたのか? あたしは別に良いんだよ、八百屋の娘だ、これくらい威勢がよくないと客受けわりぃだろ? 知哉は少し大先生を見習ったほうがいいんだよ」


重「えっ、俺?」


小春「そうだよ。大先生は苗字か名前に『さん』付けしたり『ちゃん』付けしたりして呼んでくれるだろ」


重「ま、まぁね……」


小春「私、優しくて親切な重君のこと、とっても大好き」


 重の手を取った小春は、お(しと)やかな声で言った。重は急な事にドギマギしてしまい声も出せなかった。


小春「てな具合にだ、いざってときはギャップを利かして一発キメることもできるわけよ? 男ってのはポンコツなところがあるからな。どうだ大先生、今のは武器になんだろ?」


重「あ、あ、うん……」


小春「はっはっはー、照れてやんの大先生!」


知哉「全身凶器の小春に言われて照れるわけねぇだろ」


小春「この野郎…… 頭出しやがれ! 南瓜(かぼちゃ)を叩きつけてやる!」


知哉「だっ! せめて胡瓜(きゅうり)にして!」


知哉「よし、間をとって冬瓜(とうがん)にしてやる」


知哉「威力増してるじゃねぇか!」

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