ドラゴンだって怪我します 少女と治療と成り立ちと
更に何年たっただろうか。二人は親友であり続けた。
世界は彼等を嫌い、排除する為にあの手この手で二人を傷つけたが二人が死ぬことはなかった。
そんなある日、人間の姿のまま、降り来る矢からツバサを庇ったコウが大怪我をした。
谷にある小屋に戻ろうにもコウを背負って安全に降りれる保証は無い。
大丈夫だ、とコウがツバサに笑いかけるがコウの意識はどんどんと遠のき
彼が気を失う寸前に見たのはツバサの背後に現れた見知らぬ少女だった。
「その人はどうしたの?」
「……矢に撃たれて怪我をしたんだよ。毒も塗ってたみたいでっ」
「それは大変ね、手当てはしないの?」
「出来たらとっくにしてるよ!!家に戻るにもここからじゃ遠すぎるんだ……」
「そう、じゃあ私のうちに来るといいわ。応急処置と軽い食事くらいならあげる」
なんでもないことのように二人に告げて歩き去ろうとする少女。
「ちょっとまった。僕達が人じゃないってわかってる?」
「解ってるわ、それがどうかしたの?貴方のお友達が怪我をして死にかけてる。私はそれを見つけた
私にはそれだけで助けるのに十分よ」
「……礼は言わないよ」
「えぇ、自己満足だもの。貴方はもう少し友達を救う為に周りを利用してもいいと思うのだけど」
「元々人間に追い回され続けたからね。信用するのが恐いんだよ」
「気にしないわ。それも当然でしょうし。せいぜい応急処置が終わるくらいまでは利用しなさいな」
これ以上言う事は無い、とさっさと歩いていってしまう。
ツバサも慌ててコウを背負って少女について行った。
●
村はずれの一軒家、少女(ナツというらしい)が一人で暮らすには少しばかり大きな家。
応急処置も終わり、コウをベッドに寝かし付けてようやく一息つく。
なんでも、強烈な毒薬が塗ってあったらしく解毒薬の副作用でしばらくは起きないらしい。
一度乗りかかった船だからと、ナツは二人に客室を借し、しばらく滞在する事になった。
数日経つとコウも目を覚まし、ナツに礼を述べた。
ナツはさっさと治して出て行ってくれ、と言ったが耳まで赤かったから照れ隠しだったのかもしれない。
ツバサは何処かで聞いたやり取りだと、笑っていた。
「リハビリが終わるまではここでのんびりするしかないな…」
「やっぱり毒がまだ残ってるの?」
「解毒剤で問題は無いレベルまで減ってるけど多少痺れが残ってるからな。
出るなら万全まで待った方がいい」
「そっか、了解」
●
更に数日後、コウの傷も全快しようやく家に戻ろうと準備をしていた時の事だ。
ナツがツバサと同じ歌を歌っていた。
コウとツバサには馴染み深く、この村には馴染みの無いはずの歌を。
ツバサが教えたわけでもないらしく、聞いてみても「物心ついたときには知っていた」としか解らない。
「一体何の歌なんだろね?」
「何かの呪歌でも無さそうだしなぁ」
「村人には歌うなってよく言われるわ。綺麗な旋律だと思うのに」
「…自然と覚えてるのが忌み子だけならジャイアントはこの歌を歌える奴を探してるって事かもな」
「っ!!」
「あぁ、大丈夫だよ。僕も同じだから」
「い、いつから気づいてたの……?」
「この家が一人には大きすぎるのと、この間礼を言った時に目の色が青から赤に変わった時だ」
「コウの前だと忌み子は目の色隠せないみたいでねぇ」
ツバサもナツに自分の虹目を見せると、ようやく警戒を解いて座りなおした
「僕達は相手がどんな種族でも気にしないし、恩を仇で返したりしないよ」
「人間にされるだけでお腹一杯だもんなぁ」
「そう、わかったわ。所で……忌み子が生まれつき知ってるって言うなら
――なんでドラゴン族のコウも懐かしい気がしたの?」
「あ、ソレは僕もきになる」
「……ドラゴン族の生まれははなしてなかったっけか?推測も交えていいなら話すが長くなるぞ。」
「「かまわない」」
「何処から話すか……まずドラゴン族ってのが何かから話すが――」
コウの話は深夜にまで及んだ。
この時、僕達がコウから話を聞かなければ、また違った結末があったのかもしれない。
それが世界にとって、僕達にとっていい結末かはおいておいて
なんて、そう思ったときには既に手遅れだったのだけれど。