ドラゴン殺し 討伐隊と概念武装と修行の成果
ツバサが崖から落ちた日から何年かたったある日。
今日も日課となった鍛錬を済ませ、二人が散歩をしていると
遠くから馬に乗った集団が駆けて来るのが見えた。
「あれ、なにかな?」
「んー……?」
二人して目を凝らす。……唐突にコウがツバサを掴んで走り出す。
「ヤバいあいつ等に追いつかれたら殺される」
「えっただの武装した人達じゃないの?」
「たぶんあれはドラゴン殺しの呪いがかかった武器だ。
第六感とでも言うべきもんがさっきからガンガン警鐘鳴らしやがてる
死にたくなきゃ逃げろって!!」
「僕達を狙ってるとは限らないと思うけど……」
「ここらには俺しかいないんだよ、皆とっくの昔にいなくなってな」
「……そっか、じゃあ僕が説得してくる」
「危険じゃないか?」
心配性なコウにツバサは苦笑し、話が出来るんだから何とかなるよ、と笑って兵士達の方へと走り出した。
コウも迷いながら離れた所で見守ることに決め、後を追いかけるのだった。
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「すいませーん、そこのドラゴン退治な方々お願いがあるんですが」
「なんだ?早くドラゴンを退治して欲しいのか? なに、すぐにお望み通り退治にいくさ」
その声は無視して、ツバサは無邪気に笑って告げる。
「いえいえ、正当な理由がなく噂だけでここに来たなら引き返してもらえませんか?
コウはもう、人を殺さないって決めてるんです。
それに、ただのドラゴンスレイヤーじゃコウは殺せません。」
ツバサは更に膝を着いて頭を下げる。
しかし、兵士達の返答は軽蔑し、怒りに満ちたものだった。
「オレ達が……、貴様のような腑抜けの言葉だけではるばる追ってきたドラゴンを見逃せと……?
貴様のような臆病者が俺達に忠告……?許せぬ……、絶対に許せぬ。
じわじわと炙り焼いてやる。生まれたことを後悔するぐらい時間を掛けて指先からローストしてやる」
怒り心頭で火球を生み出す兵士達に対し、それでもしつこくツバサは嘆願する。
「これだけお願いしてもダメ?」
「しつこい奴だな!!構わん、殺して先を急ぐぞ!!」
「駄目か……なら、殺して止めるね?」
背筋が凍るほど冷めた声に硬直した兵士長が、最後に見たのは
――不用意にツバサに近寄って投げ飛ばされた兵士の姿だった。
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これはまた手にやってるなぁ……俺が直々に鍛えてたって言っても化けすぎだろアレは
あ、また一人大空にダイブした。今度は投げつけて人間ボーリングとかしてる。
そういえばドラゴン殺しの武器ってドラゴンを殺す『だけ』の為に概念を特化させるから
ドラゴン以外には効かなくなるんだっけ?
あの兵士さん達は逃げ帰ってどう言い訳するんだろうなー……
っと、ツバサが戻ってきた。
「おかえり、豪快だったな」
「あ、見てたんだ?離れてなきゃ危ないんじゃなかったの?」
「お前だけほって逃げるのも後味悪いじゃないか」
「ま、無事に終わったからよしとしよ。殺してはないけど怯えて二度と来ないでしょ」
「だな。あ、武器は圧し折っといてくれたか?あれ気色悪いんだよ」
「粉微塵にしといた」
「……ほんとに強くなったな、人間やめるくらい」
「先生がいいからね」
後日、谷底には新しい怪物がいるという噂が出来たのだが、それを二人が知ることはない。