町へ行こう 食べ歩きと説明と人攫い
約束から一週間後、二人は街にいた。
もちろんコウは肌を隠すように厚着をし、ツバサは帽子を目深に被ってと怪しい格好だ。
多少面倒だが無用の問題が起きるよりは何倍もマシだろう。
「ずいぶん変わったな…俺が上にいた時はもっと人は少なかったが」
「暴君がいるから人間が増えてるらしいよ」
「……いや、暴君がいたら増えるのはおかしくねぇか?普通重い税とかで死んでいくだろ」
「野党達も今の暴君が怖くて手を出してこないし
毎年街の娘を何人か差し出せば他は特に要求して無いんだってさ」
「そりゃ増えるわな。……ちなみに娘の命惜しさに逆らうと?」
「そのまま町ごと滅ぼされる。で、結局連れて行かれるから無意味らしいよ」
「ドラゴンよりひでぇな」
「それもそうだね、逆らう手段が無いからもっとたちが悪いし」
露天で買ったリンゴを齧りながら食べ歩きを続ける二人。
今の『上』のことがわからないコウにツバサの楽しそうな説明の声が続く。
なんでも、暴君は人ではなくジャイアントと呼ばれる巨人でドラゴン状態のコウの2倍ほどもあり
時に「忌み子」を狙って罪も無い村を滅ぼすことがあるとか。
ついでに言うならどんな忌み子を狙ってるかは生き残りがいない為わかっていないらしい。
無用に忌み子を増やす原因だろうな、と思考の海に漕ぎ出した所でツバサの声が途絶えた事に気づいて後ろを振り返る。
「……何処に行った?」
そこには街の喧騒しかなかった。
●
その頃、ツバサの周囲は真っ暗だった。聞こえてくるのは薄気味悪い男達の声だけ。
露天商にあったネックレスがコウに似合うと思い近寄った途端、皮袋に詰め込まれて連れ去られたのだ。
「まさかこんなとこで忌み子に出会えるとはな」
「忌み子の肉は寿命を伸ばす薬になるらしいからな、高値で売れるぞ」
「しかも親だって捜そうともしないから、安全にボロ儲けだ」
「暴君に売りつけてもいいかも知れんぞ」
周囲が見えず、抵抗が出来るほどの身体の自由も無い。
おかしくてたまらないと言う男達の笑い声がただただ怖かった。
ツバサに出来る事は、一刻も早くコウが見つけてくれるように祈る事だけだった
人攫いの一人が肩を叩かれる。警官でさえ恐れて彼らには関わらない。
男は振り払うように肩を揺らす、また肩を叩かれる。
男は苛立ちながら振り返らずにあっちいけと手で示す、しつこく叩き続けてくる。
他の仲間は肩を叩いてくる奴を睨みつけ、硬直した。……そいつはまだ肩を叩いてくる。
いい加減に鬱陶しくなったのか、怒鳴りつけながら振り返り、硬直する。
「なんだ!!いまいいとこなんだ…よ……っ」
「俺はそこの袋に入った奴に用があるんだがね?」
振り返り、目に入るのは虹色の壁、否、虹色の鱗を持った龍。
「は、ははははい、お、お返ししますから命だけはわわわわ!?」
「さっさと失せろ。俺は今虫の居所が悪い」
「お、おたすけぇええええ!!」
人攫いが逃げ去るのを見届け、ふん、と鼻を鳴らして人間に変化するコウ。
がたがたと震える皮袋を引っ張りだすと、その結び目を解いて中を確認した。
「おい、ツバサ。無事か?」
「…助かった…?」
「唐突にいなくなったら心配するだろ、まったく」
「ごめん」
「あやまんな、お前以外の人間はあんまり信用して無いから予測できた事ではある」
「じゃあ、ありがとう」
「……おう。ま、今日のところはここらで帰るぞ」
「晩御飯はなに?」
「んーまだ考えてない。帰り道に考えよう」
「はーい♪」
世界は大多数を誇るものと同義である。
――ならば、大地の上で大多数を誇る人間に嫌われる俺達は世界に嫌われてると言えるのだろうか?
ツバサの手を引いて歩く道すがら、そんな考えが頭から離れなかった。