忘れちゃいけない事 門と魔王とやつあたり
……ずっと、大事な事を忘れてた気がする。忘れちゃいけないこと、なのに忘れてた。初めはすぐに人間界に帰ろうとしてたのに、気づいたら魔界でクエストをこなしてドラゴンを集める旅になっていた。ナツも待ってるだろうな、早く人間界に帰らなきゃ。
「……と考えていた時期が僕にもありました」
「いや、そんなじと目で俺を見られても困るんだが。俺が壊したわけじゃないし」
善は急げとアリアに人間界への界門へ連れていってもらおうとしたツバサ、しかし待っていたのは界門が破壊されて復旧にはしばらくかかると言う衝撃の事実だった。恨みがましくじと目でアリアを見るもソレで解決するわけもなく
「ツバサ達、魔界、ドラゴン集め、来た、思ってた」
「そうっすよねぇ、集めようとしてもこんなハイペースでドラゴンを見つける人なんて今まで一人もいなかったっすよ?」
「わしは単純にクエストにいってるうちに忘れておったのじゃ」
本来ドラゴンは気のあった者しか仲間にならず生涯に2人仲間にするだけでも多いらしいのだが、魔界に来て半年も経たないうちに黒・緑・銀・紫・白の九十九種を仲間にしているツバサ達のペースは異常と言えた。……コウが所在を知ろうとしただけで仲間を増やそうとしたわけではないから全て偶然の産物なのだが。
「仕方ないさ、ツバサ。しばらくクエストで稼いで帰るか?稼ぎがあって悪い事はないだろ」
「そうだね、あーぁ、せっかく想いだしたのに……とりあえず今度は何処に行こうか」
「あぁ、そう言えばこの間青龍見つけたぞ」
「「「「「それを早く(言え・言ってよ・言うのじゃ・言えっす)!!」」」」」
「唐突に呼び出されて界門まで来たから忘れてたんだよ」
うっと言葉に詰まるツバサ。確かに宿屋で目が覚めた途端に焦ってアリアを呼び出したから言ってたとしても聞く耳持たずにいただろうからあまり強く言えないのだった。
アリアはそんな様子を見て苦笑し地図を取り出す。
「すぐ近くの都市なんだが、そこで一ヵ月後に都市内最強トーナメントが開かれるんだ」
「まさかその賞品っていうんじゃないよね?」
「ビンゴ、そのまさかだ。一応譲ってくれないか頼んだんだが国庫からそうほいほい物をあげるわけにはいかないらしくてな。トーナメントの商品にするよう説得するのが精一杯だった。お前らなら楽勝だろ?」
「楽勝かはわからねぇけど何とかなるだろ」
「寧ろなんとかする、が正しいとおもうっすよ?」
「青じゃったら自分から正体を見せるとは思えんのじゃ。勝ち取るしかあるまいな」
アリアが現在地と目指すべき都市を指し示し、移動にかかる大体の日数を教えてくれた。まっすぐにいけば空を飛んで一日、街道沿いなら馬で数日、徒歩なら1週間。俺が連れていっても良いけど毎度一瞬じゃ旅の楽しみがなくなるしな、と笑ってついでのように修行が出来そうな森の情報もくれた。
「もしかしてまた何かのクエストに関係してたり?」
「ワイバーンとかが群れてたはずだが今のところクエストは無いはずだ。暴れん坊だからお仕置きに痛めつけてもいいし修行にはもってこいだろう」
「じゃあ、都市、行く前に、そっち、いってみよ」
「そうと決まれば早速いくか。あ、アリア、門が直ったら連絡くれ。あと修行で遅くなりすぎたら送ってもらうかもしれねぇから、そこんとこよろしく」
「コウはいつも魔王相手に気軽に用事頼むよな……まぁ別にいいが、呼び鈴失くすなよ」
また一ヵ月後、そういって僕達の新しい旅が始まった。
何気なく開いたコウの取説には『必ず呼び出すことになるから呼び鈴の紛失に注意』と書いてあった。また何か起きるんだろうね、まぁ僕達らしいといえばそこまでだけど。……ところでこの取説最近やけに人間臭くない?
●
少年は震える手で棒切れを拾い上げ飛龍に立ち向かう、ワイバーンに攫われた幼馴染を救う為に。
「サキを返せぇぇえええ!!」
「返して欲しかったらここまで来て俺を倒してみろよー、ほらどうした、お猿さんには地べたをずるずる這う事しかできまちぇんかー?ヒャッハッハッハ!!」
魔法も使えぬ身で兵士でもなければ剣士でもない、しかも武器はただの棒切れ。少年のそれは自殺行為に等しかった。いや、ただの犬死としかいえない愚かな行為だった。気紛れに相手が降りてきてもブレスの一発も喰らえば消し飛んでしまうだろう。
ワイバーンが地を這うだけのサルと嘲笑う声が響き、少年が悔しさに唇を噛んだその時。
……それは現れた。
唐突に聞こえた無数の風切り音に反応しワイバーンが高度を下げる。少年からは意味の分からない行動だったが次の瞬間、前の一瞬までワイバーンがいたところを掠めるように岩石が通り抜けたのだ。
ワイバーンと同じくらいの大きさの岩石だった、つまりアレを投げたのは相当な怪力を持った化物という事になる。……空にそれらしき影は無い、なら、その化物がいたのは――
『ツバサ、外れたみたいっすよ』
「やっぱり遠距離じゃだめみたいだね、直接殴った方が早そうだ」
『ワイバーンが可哀想じゃ……』
『でも、さっきの、やりとり、あいつ、倒しても、問題ない』
『まぁ肩ならしにはちょうど良いんじゃねーか?』
岩石が飛んできた方の茂みから飛びだしてきたカラフルな装備をしたツバサと呼ばれた少年。
赤いマント、黒いガントレット、緑のモノクル、紫の翼、その全てから別人の声が聞こえた。
少年が腰を抜かして後ろに下がろうとするとツバサがこちらを向く、こ、殺される?!
わたわたと逃げ出そうとした少年を見てツバサは頬を掻いて声をかけた。
「あーそんなに怯えないでくれると嬉しいんだけど。大丈夫、僕はあいつを殴りにきただけだから」
「な、殴りにって……あんな高いところにいるのにどうやって!!」
「こうやって」
軽く膝を曲げたと思った次の瞬間、少年の視界からツバサが消える。別に魔法を使ったわけじゃない。ちょっと勢いよくジャンプしただけのこと、ただのジャンプとは勢いが桁違いだが。
「必殺、ただの踵落とし!!」
弾丸のようにワイバーンに接近しまず膝を打ち込む、相手の翼を掴み体を回転させてそのままギロチンのような……踵落とし!
何かが割れたような鈍い音をさせてワイバーンが飛行を止め、一人と一匹は地面へと落下していった。落下した所でぐしゃっと音がした気がするが少年は聞かなかった事にして落下地点を目指して走る。
「いやーまさか二撃程度で落ちるとは思わなかったよ」
「強くなりすぎて加減が出来ないのも考え物だな」
「まったく、心臓に悪いのじゃ」
「ぎりぎりで重力操作が間に合ってよかったっす」
「ツバサ、やつあたり、あった、おもう。界門、壊れてたの、怒ってない」
少年はワイバーンと共に落ちたはずの人間が五体満足でぴんぴんしてる、よりも先に
「増えてるー!?」
一人しかいなかったはずなのに落ちた後に5人になってた事に驚くのだった。