予告1 赤と塔と盗賊の町
そこは魔界のある所、治安が良いとはお世辞にすら言えない都市。ここにいるのは盗賊だけで盗みや殺しなんて日常茶飯事、相手のものを盗んでうっぱらう事すら当たり前。そんな都市の中央部に、この町が出来た原因とも言われる宝が眠る塔が聳え立っていた。
塔の前に立つのは赤髪の少女。猫の様なつけ耳と尻尾をつけ、いや、尻尾が機嫌よさそうに揺れているから自前のようだ。少女は塔を見上げて不敵に笑う。
「にゃっはっは、このアカトラ様を相手にどこまで梃子摺らせてくれるかにゃー?」
少女も盗賊なのだろうか?ソレにしては堂々と塔の正門に向かっていく……数秒後、「お邪魔しますにゃー」という言葉と共に正門が"消えてなくなった"。塔内の警備が非常事態を受け慌しく活動を始める、至る階の至る所でセキュリティのトラップが起動し盗賊を逃がしまいと待ち構えているようだ。
だが無駄だった、少女が進む順路をなぞるかのように、爆発やカマイタチが塔を突き破って空へと舞っていくのだ。あの様子ではセキュリティを破壊しながら進んでいると見て間違いない。
正門が消失してから30分後、アカトラは最後の階段を上っていた。
「ったく、無駄に高いところにあるにゃ。トラップはへちょいくせににゃー……」
この階段を上がれば目的の物が見えると自分を鼓舞してようやく最後の一段を上りきる。……目の前に巨大な扉が聳え立っていた、ご丁寧にも巨大な鍵付の。
「ここまで来させてとどめがコレとはにゃー……」
とりあえずこじ開けようとドライバーを取り出し扉に触れた瞬間、アカトラが扉を蹴って背後に下がった。一瞬前まで彼女の頭があった所を火炎弾が通り過ぎる。どうやら不用意に扉に触れたものへの洗礼らしい。階段の踊り場に着地したアカトラが不機嫌にドライバーをしまいながら再び扉の前に戻る。
「出来る事なら壊さずに潜り抜けてやろーかと思ったけどにゃ……そっちがそういうつもりならアカトラ様も手加減しないにゃー」
今度はナイフを取り出し、扉に向けて構える。扉をナイフで破壊できるとも思えないが彼女には奥の手があるようだ。揺れる尻尾と同調するように全身から魔力が溢れだしナイフに流れ込んでいく。
「赤龍のアカトラ様、舐めてもらっちゃ困るにゃー」
赤い瞳を爛々と輝かせ、閉ざされた扉に魔力の込もったナイフを振るった。
ナイフが扉に触れたと思った途端に扉が"消し飛んだ"。何をしたのかわからなかったが、これが彼女の九十九種としての力なのだろう。自分が起こした結果に満足そうな顔でお宝の在処へと入っていくのだった。
もし、アリアがこの場にいたならば今のが『MB死に至る病』だと気づいただろうが。生憎この場にそれがわかる者はいなかった。