白龍の笛 龍玉と報酬と宿屋にて
蒸気が立ち上る中、簒奪者の光刃の直撃を受けて倒れ伏したドラゴンは生きていた。いや、正確に言うなら術者の少年が直撃する寸前に誘爆させて威力を殺していたようだ。手加減されたのか?制御をミスしたのか?近づいてくる足音の方に薄く瞼をあけて視線をやる
「……なぜとどめを刺さん」
「殺したら、からかえない。今回は、僕の勝ち。君は、少年に、負けた、誇りズタボロ、ドラゴン」
「嫌味な奴…いや、甘すぎる小僧だな」
「自覚は、あるよ。でもまた、向かってきても、倒せるから」
そういって少年が指差した空をみると先程以上の魔力塊が渦を巻いていた。少し気を失っている間に再び魔力を集めていたらしい、尻尾と翼を伏せたげんなりとした様子でドラゴンが少年を睨む。
「分かった分かった、今あんなものくらったら塵も残らん。わしの負けじゃ」
「じゃあ、呪詛、といて?」
「ふん、わしの縄張りに入った人間を見つけるまでは……」
「……我が呼び声に応え」
「だぁあああ!!わかった、わかったからやめぃ!!」
いい笑顔で脅しをかける少年と焦った様に叫んで呪詛を解くドラゴン、端から見るととても間抜けな光景に違いない。国軍ですら恐れるドラゴンが少年の一言で黙るなんて民間に伝わる勇者の話でもそうはないだろう。村から解呪された魔力の残滓を確認し、リョクは懐から透明な液体の入った小瓶を取り出した。蓋を外して一滴だけドラゴンの焼け焦げた鱗に落とし上空の魔力塊の魔力で魔法を発動させる。一瞬ドラゴンの全身が淡く光り瞬きする間に全ての傷が時間を巻き戻したかのように無くなっていた。
「……治してもらっていうのはなんだが、なぜだ」
「別に、僕は、君を、殺したい、わけじゃない。誰だって、間違いはある、だから、今回はこれで手打ち」
「縄張りに入ったのは人間の間違いと?あの吹雪を抜けてくるようなやつらがか」
「その、吹雪のせいで、迷い込んだんでしょ」
「…………なるほど」
まさか気づいてなかったのかコイツ、と思ったがリョクは口を噤む。世の中黙ってたほうがスムーズに話が進む事が多いのだ。
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ハクオウがリョクを見つけたのは納得したドラゴンが謝罪を済ませ住処に帰ってからだった。
「無事だったんですね!村の呪詛も解けたみたいで皆快方に向かってます」
「ね、僕達の、パーティ、なら、大丈夫だった、でしょ?」
「疑ってごめんなさい、ところで報酬の件なんですが」
「もう、もらった、サファイアドラゴン、龍玉、お詫びって、おいてった」
「……えらく気に入られたみたいですね、あ、それとこれは私個人からです」
そういってハクオウが差し出したのは金貨の詰まった袋と龍が描かれた白い笛。金貨は最近荒稼ぎ(カルトの盗賊団の時の報酬)したので返しておいた、笛の方はなんだか気になってこれは?というように彼女の顔を見ると彼女は微笑んでこう告げた。
「私はこの村をとても気に入ってるんです。だから村を救った貴方達の力になれるなら、いつでも呼んでください。風が吹く場所ならどこでも行きますから」
「そう、期待しとく、ありがとう」
お互いに微笑んで、二人の間を一陣の風が通り抜ける。風を見送ったリョクの前にはもう誰もいなかった。
「風属性特化のチート、か。あのブレス、受け止めたなら、まともな、人間じゃないとは、思ってたけど」
ツバサ達の魔力もだいぶ近づいてきたしそろそろ戻ってくるみたい、お腹すいたし皆で何か食べにいきたいな。ここでドラゴンと会ったって知ったら驚くかな?でもツバサは優しいからハクオウを無理矢理連れて行くなんて事はしないよね。……あーぁ、早く帰ってこないかなー。
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「今回は美味しいとこ全部持ってかれた気がするよー……」
「まぁまぁ、雪山であれだけ暴れたんだから満足しとけって」
「わしなんてほとんど出番が無かったのじゃぞ?ただのボケ役だったのじゃ」
「あっしは相性の関係でそれなりに出番あったっすからね」
「雪山の、ほうだと、僕、微塵も、出れなかった、から、お相子」
今回の報酬の龍玉を転がしながらの座談会。リョクはハクオウのことを話したがツバサは予想通り「ここが気に入ってるならそっとしておいてあげよう。呼ぶのはどうしても必要なときだけね?」と笑ってた。必要とあらばまよわず呼ぶが、なるべく相手の日常を大事にさせる彼が僕達のマスターで本当によかった。いつか、僕達の命をかけるような時がきても彼を守る為なら躊躇しないとドラゴン4人は頷きあう。アイコンタクトだけの意思疎通だったからツバサが首を傾げたのが少し可笑しかった。
そして夜になり、今夜は村で一泊してから帰る事になった。というか村人達に礼を言いたいからと引き止められて夕方になったので泊まるしかなかったという落ちなのだが。今日は2部屋とって男女に分かれて泊まる、たまには皆一緒だとできない話でもしてみるか、とはコウの談。