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虹と翼と  作者: 零式章
2-3 紫龍 ユカリ
33/52

蒼龍討伐中編 翼と重力と逃走

「そうか、風の噂に聞いた化物とは……小僧の事か」

「どんな噂を聞いたかしら無いっすけど、ツバサがあんたを殺すだけの怪力と、それに耐えうる頑丈さをもってる事は揺らがないっすよ」

「ふん、突然魔界に落ちてきてトカゲもどきを集めている化物とだけ解れば十分じゃろ」


瞬間、周囲の気温が一気に下がった。唐突な気温変動の原因であるツバサからあとずさろうとするドラゴン、ツバサは追いかけるように軽く踏み出して拳を振う。狙いは巨体を支える強靭な脚、しかしツバサはそれを物ともせずに拳を振りぬき、バランスを崩されたドラゴンが轟音を立てて大地に伏した。


「訂正してほしいな」

「ふん、化物を化物と言って何が悪い!!人の形をした、わしを越える化物が!!」

「そっちじゃない。コウ達はトカゲもどきなんかじゃない」

「それがわし等のような誇り高きドラゴンと同類だといいたいのか!!」

「天然種と九十九種って差はあるだろうけどドラゴンはドラゴン……でしょ」


ツバサは小さく首を振った後、自分の胸に左手をあてて歌い始める。コウは何度も聞いた曲、クロガネも聞いたことのあるメロディ、ユカリもマスターから聞かせてもらった大好きな歌。


「ツバサ、また契約を増やす気か!!ここまで死んでないだけでも不思議なんだぞ!!」

『いくらステータスが上がっておっても無茶は禁物なのじゃ?!』

「あっしらの為に怒ってくれるのは嬉しいっすよ、でも死ぬような無茶をする必要は無いっす!」


3人が必死に止めようとするがまだ息のあるドラゴンの前で隙を見せてしまうのは危険な為、物理的に止めるわけにもいかない。悲鳴のように叫んでも固い意志を持って歌い始めたツバサの心には届かず最後まで歌い終えてしまった。もしこの時、ユカリが本気で拒めば契約はなされなかっただろう。

……だが自分が化物だといわれたことより先に、ユカリ達をトカゲもどきと呼んだことに腹を立てたツバサが、自分との契約を必要とすることがユカリは嬉しかった。


『契約、完了っす……』

「ウァァアアアアアアアアアアアアアア!!!」


故に契約は成され、ツバサの絶叫と共にその背に紫翼が広げられた。絶叫が終わると気が抜けたように膝をつくツバサ、息は荒いがドラゴンを睨む瞳にはしっかりとした意志が感じられる。無事に、完了したようだ。コウに視線をやって、来い、というように右腕を伸ばす。それだけでコウには伝わり、光を放ちながら赤いマントに変化しツバサに纏わりついた。


『……無茶だけはしないでくれ』

「了解、あいつにトカゲもどきって言った事を後悔させてあげる」

「トカゲもどきにおんぶに抱っこされて偉そうにっ!」

「僕のことならなんとでも言って、どう言い繕っても結局皆がいるから僕は強くなれたんだ」

『わし等道具は使われてこそ、使いもせん主にどうこう言われる筋合いは無いのじゃ』


戦闘が再開され、その体を両断せんとドラゴンがその鋭い爪を振り回す。ツバサも紙一重で避けていくが突然掬い上げるような引っ掻き、と見せかけた大量の雪の投擲には反応できず白い津波と共に雪原を転がされる。追撃を警戒してすぐさま立ち上がるが一面雪に覆われた大地が広がっているだけだった。


「逃げられた?」

『アレだけ誇り誇り言ってた奴が早々逃げる事は無いだろ』

『恐らくアヤツの能力か何かで雪に紛れたのじゃ』

『多重結界で奴を止めるにしても、あの巨体を抑えるほどの枚数なんてイメージしてる間にやられるっす!』

「この前の共鳴発動だっけ……今いる3人でも大丈夫だよね?」

『あぁ、問題ない』


じゃあそれで、そう軽く笑ってツバサは両手を合わせた。編み上げるイメージは自分を中心とした巨大な球体、一枚一枚イメージして展開するのが間に合わないなら障壁内部の領域に細工してやればいい。


「いくよ皆」

『いつでもいいぜ』『まかされたっす!』『さっさと決めるのじゃ!』

「合言葉は?」

『『『不倶戴天!!』』』


綺麗に揃った3人の声が絶対に成功する、いや、させる、そういってるように思えた。この瞬間にも死角からドラゴンが迫っているかもしれない、でも何故か笑いが止まらなかった、勝つにしろ負けて死ぬにしろ、皆と力を合わせる今この瞬間が楽しすぎるんだ。


「虹・鉄・紫の共鳴。『障壁破りの重力結界』!!」


イメージの隅々まで魔力を通し思い描いた魔法、結界に区切られた内部の重力に干渉する無茶を世界に発現させる。この魔法に防御壁は無意味、クロガネとの共鳴によりこの領域内全ての障壁は僕以上の腕力を持たない限り強制排除(キャンセル)されるのだ。


「……といっても長時間は僕も少し厳しいけど」


そう、今回のような場合相手がそれなりに近づいてきた時点で重力に絡め取られてゲームセットとなるのだが”自分を中心にした領域内の”重力を増加させている為、自分もその影響に巻き込まれる事になる。


『……おかしいな』

『なにがっすか?』

「結界をどんどん広げてるのに何も引っかからない……潜ったか、飛んだかな」

『あの坊やにとべるとはおもえんかったのじゃが、球状の結界に引っかからぬ以上空と見るべきであろ』

「共鳴解除、ユカリ、続けていくよ!!」


思い描いていたイメージを一気に書き換え、大地から強力な反重力、空を覆うように超重力の網を発生させた。……上空で何か引っかかった、ほんとに上空に逃げてた(本人(?)がきいたら一旦距離をとっただけだといい張りそうだが)とは。


「ちっ、自滅すれば儲け物とは思っておったがもう気づきおったか」

「シロガネの契約効果である程度の距離なら音波で位置がわかるんだよ」

『そんなに便利な能力なんっすか?(ぼそぼそ)』

『音の扱いが上手くなる程度だったと思うぞ(ぼそぼそ)』

『何かがあるのは解るが何かまではわからないんだろ(ぼそぼそ)』

「そもそも今回使ってないからハッタリ(ぼそぼそ)」


重力に捕まって上手く飛べないこととツバサが仕掛けてこない事に痺れを切らしたのか、ドラゴンが大きく息を吸い呪詛を溜め、広範囲にブレスをぶつけてきた。だが無論ツバサが鬱陶しそうにマントを翻し呪詛払いで無効化してしまう。空を睨みあげたツバサはユカリの契約効果(えんし)でドラゴンの正確な位置を捉え、反重力の手を借りて一気に飛び上がる。脚を真っ直ぐに伸ばし全力の跳躍と反重力の後押しで突撃する姿は、まさに一本の矢の様だった。


「撃震脚!!」


その矢は叫びと共に重力の網に捕らわれた山の主を射抜き、威力と込められた魔力が山の主の体を突き抜けた。がっくりと力の抜けたドラゴンの上に着地して更に重力を書き換えていくツバサ。


「君みたいに空で自在に踊れないけど、ジャンプくらいは出来るんだよ」

『『『普通あそこまで飛べる人間は(いねぇよ・いないっす・おらんじゃろ)』』』

「前例が無いなら作れば良いー♪なんて、おちゃらけてないで落としに掛かるよ!!」

『重力増加っす!!』


軽くステップを踏むようにその巨体から脚を浮かし、次の瞬間"ツバサの全身"に重力をかける。ドラゴンにとどめを刺す為に放つ、先程とは逆の地上に向けた追撃。

空に舞う雪を蹴散らし銀色の大地に山の主の巨体が突き刺さった。


「……蒼龍落とし」

「今回は後で言うのか」

「寧ろ何処の月面キックっすか今の」

「好きなんじゃろ、言うてやるでない」


もうもうと立ち込める雪の中から姿を現した4人。それぞれ自分の体についた雪をはらっている。


「それにしても、やっぱり後で言うのはダメだね。手応えがなかった」

「「「そういう大事な事は装備外す前に言え!!」」」

「もう飛べもしないから大丈夫と思うけど……」

「それは暗に走れるって言いたいんっすか?」

「大丈夫だよ、僕達なら追いつけるって」

「つまりもう逃げてるといいたいんじゃな?」

「大丈夫、リョクがくい止めてくれるって!!」

「……つまり町ではもう戦闘に入ってるだな」

「ってリョクは相性悪いから置いてきたんっすよ」


九十九種ドラゴン3人が淡々とツッコミをいれ、ユカリがリョクの身を心配して慌てだす。


「こりゃまずい事になったな」

「そうじゃの……あのドラゴンと町が心配じゃな、急いで戻るのじゃ!!」

「まず心配するのはそっちなんっすか!?冷たすぎるっすよ!」


喚くユカリをツバサが宥め、足が速いクロガネが(ユカリの反重力で重みは消して)3人を引っつかみ町へ駆け出すのであった。

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