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虹と翼と  作者: 零式章
2-1 黒龍 クロガネ
18/52

盗賊討伐(後編) 失敗と援軍と制裁

「っぐ……なんて威力」

「範囲爆撃魔法特化は伊達じゃないのう、コウを生存者の守りにつけたのは失敗じゃったか」


がむしゃらに避ける事だけを考えて飛んだ二人は、それでも余波の熱に焼かれ苦悶する。

リョクから放たれた破壊光線はアジトの上部を半壊させ、一直線に貫かれた天井から夜空の星が見えていた。


「威勢がよかったのはちょっと小突かれるまでですか?なら、とっとと退場してもらいますよ」

『お姉ちゃん、もうすぐ、会える……』


再びカルトが風水盤に魔力を込める。すると中心にはめ込まれた水晶が光を放ち、周囲の魔力が徐々にカルトの周囲を渦巻くように流れ始めた。

込められた少量の魔力で周囲の流れを変化させ、広範囲の魔法を放つ。それがリョクの『魔法の範囲と威力を強化する』チート能力。

次の魔法が放たれる前にケリをつけようとクロガネが殴りかかるが


「残念、私は防御魔法が得意でね。表立って危険に晒されるのは部下だけで十分ですよ」

「っ、ショックプルーフじゃと」

「えぇ、正解です。賞品はおかわりといきましょうか」

『レイ・ブレイド』


物理攻撃を全てシャットアウトするプルーフ、その障壁にクロガネの拳は阻まれる。

歯噛みして距離をとろうとした途端、再び風水盤から巻き起こった閃光がクロガネを襲った。

閃光が通り抜けた後にクロガネの姿はなく少し大きめの籠手だけが残された。


「クロガネ!!」

「おやおや、ドラゴンといえど至近距離からの熱波を受けては死んでしまいますか。武具に戻ってしまわれたようで」

『カルト、約束は守る』

「えぇえぇ、解ってますよ。お姉さんの行方を探すんですよね。ですが、まだもう一人残ってます」

『ツバサ、だっけ?逃げるなら、今のうち。カルト、深追いしないから』

「……あの光景を見て、元凶を前にして、それでも僕に帰れと?」

『蛮勇は、賢くない。時には退くことも、勇気。武具の無い|忌み子(君)、武具持った忌み子(カルト)に勝てるわけない』

「君の心遣いは嬉しいけど……それ以上言うと砕くぞ、板切れ」

『そう、残念。カルト』

「また来世にでも会いましょう、今度は商品として、ね」


――視界が滲む、またあの時みたいな事が起きた。人間やめるような怪力があったって、魔法には無力だ。

カルトが風水盤に魔力を注ぐ。圧倒的優位に立った者が見せる嫌らしい笑みを浮かべていた。

――だからクロガネが、自分だけ狙うように仕向けて僕を逃がそうとしたんだ。

先ほどの一撃がこの部屋の魔力全ての流れを変えたとすれば、この一撃はフロア全ての魔力の流れを操っている。

――力があったのに、力だけしかなかったから、また僕は守られた。

カルトが周囲に、自分が巻き込まれないよう障壁が形成する。

――核になる武具が壊されない限り死なないからって、痛みも恐れずクロガネは僕を守った。

カルトがニヤリと笑って風水盤が淡い光を纏う。

――クロガネの気持ちを無駄にすることになっても、ここで一人だけ逃げ出したら僕は僕でいられなくなる。

立ち上がり、籠手に向けて駆け出す。カルトが嘲笑うように風水盤を構え炎の津波を生み出した。


「さ よ う な ら」『フレイムウォール』


ツバサがクロガネだった籠手を拾い上げ、逃げ出そうと顔をあげた瞬間には、そこに炎の壁があった。

避けきれない、喩えコレで死なずとも次が来るまでに動けるようになるかも分からない。万事、休すか。

悔しさに顔を伏せると共にフロア全てを赤津波が襲った。



「下っ端が片付けられたと聞いて警戒していたんですがねぇ?」

『ツバサ、虹目。クロガネ、黒龍。多分まだ、パートナーいる』

「じゃああの二人を捕まえておけばドラゴンかねづるが自分から飛び込んでくると」


カルトが笑って障壁を解く。プルーフは障壁としては有能だが防いでいる間は光を放ち周囲が見えなくなるのが欠点だ。

先ほどツバサのいた方に目をやると煙にまぎれてよく見えないが人影があった。


「立ったまま焼け死にましたか。立ち往生とは面白い」

『カルト、伏せて!』

「!!」


リョクの叫びに瞬時に従うカルト、しゃがむ時に鋼鉄の剣が頭上を通り抜けて肝を冷やす。

一陣の風が煙を吹き払い、投擲者の姿を露にした。

赤いマントを羽織り、足元まである赤い髪を揺らす20歳ぐらいの男。


『……ドラゴン』

「久しぶりだなリョク。覚えてるか?で?てめーが親玉か、案外みみっちい攻撃だな、おい」

「み、みみっちい、ですと?!」

「ドラゴンに戻る必要も無かったし、息吹ブレスすら使ってないのに防げる攻撃なんてみみっちいだろ?」

「えぇいさっきから失礼な。貴様、名乗りなさい!」

「貴様らに名乗る名など無い!!……って言いたいとこなんだが、そこの馬鹿に思い出してもらう為だ」


男はニヤリと笑ってマントに変化し、背後にいたガントレットを嵌めた少年に羽織られる。


「「虹の龍、コウだ」」



火に焼かれて死ぬと思った。でも、いつまで待っても伝わってくるのは暖かい程度の熱。恐る恐る目を開けたら、コウが目の前にいた。

片手を前に差し出し、赤い障壁が二人を包むように展開されている。


「間に合ったな。クロガネはまだ壊されてないな?」

「コ、コウ……!!大丈夫、ガントレットに戻っただけ」

「よし、じゃあこの赤津波が終わるまでにそのガントレットつけとけ。クロガネも結構心配性だから契約すんでんだろ?」

「え、あ、うん」


言われたとおりにガントレットを装着すると使い方、能力が直接頭に流れ込んでくる。


「…なにこのチート」

「いつものことだ。ある意味最強の矛と盾とでもいうべきかね。俺とクロガネは」

「アイツとは相性が悪いよ。……今度はこっちが有利だけどね」


そして、コウが開いた手でマントから剣を取り出し、赤津波が止まった所で先ほどのシーンに繋がる。



「防御重視のドラゴンですか、ちょっと焦りましたがソレがわかれば焦る事はありませんね」

『確かに俺だけなら勝てないだろう。お前の攻撃なんてなんともないが、逆に俺からの決定打も無い。

クロガネだけでも同じだ。決定打はあるが、お前の攻撃を防ぐ術が無い。

だから、俺達三人・・・・ならお前を倒せるんだよ』

「そう都合よくかみ合うとでも思ってるんですか?多重契約デュアルは忌み子の負担が大きすぎて使えないから『一人につき一個』の暗黙のルールがあるというのに」

「ただの人間、ならね。僕は魔物の血が混じってるから、そこらの人間よりも頑丈なんだよ」


唐突にカルトに向けて突進する、馬鹿の一つ覚えだといいたげにカルトは嘲笑し障壁を作った。

勢いを殺さずに障壁へ蹴りかかるも障壁を撃ち破れずに跳ね返される。


「さて、お尋ねしますがまさか今のが決定打なんて笑わせることはないですよねぇ?」

『ふん、よく見ておるがよいわ。行くのじゃ、コウ、ツバサ』

「『言われずとも!!』」


クロガネもようやく気がついたようだ。ガントレットに先ほど以上の力が宿ったのがわかる。


「遊んでるならさっさと帰宅してください、コレでも忙しい身でね」

『お姉ちゃん探す、忙しい。レイ・ブレイド』


風水盤が光を放つ。馬鹿の一つ覚えはお互い様、光った直後に広範囲魔法が飛んでくるんだからわかりやすい。普通の人間なら防ぐ術は無いので気にする事は無いが、防御特化のコウがいる以上それは自分からタイミングを教えているという致命的なものだった。リョクの閃光が放たれる時には既にコウの準備は万端だった。


『防いで消すだけが盾の仕事じゃないんでな、『反射の盾』』


コウの声が響きツバサの周囲に円錐型の障壁が現れる。閃光が直撃し障壁を揺らすが、閃光は魔力を吸収されていき障壁を砕く未来をまったく想像させない。寧ろ……、


ツバサは障壁で閃光へ切るように満身の力を込めて目の前の壁を押す、動いた。ならばと、更に押し出しカルトとの距離を詰めていった。

閃光の中をズンズンと突き進んでくるツバサを見て慌てたのはカルトだ。慌てて魔力の放出を止め、ツバサの攻撃に備えて障壁を作る。


「そんなちゃちな盾で大丈夫?コウの盾は……吸収した魔法を撃ち返すんだよ」


ツバサの障壁が炸裂し噴出した光の奔流がカルトを捉えた。だがカルトも障壁を何重にも張って光を弾く。


「私が出した魔法で私が倒れるわけないでしょう。こんな子供だましで私を倒そうなどと……!!」


光の奔流が止み、真正面に立つ人影に魔法を放とうと風水盤に手をかざす。そこにいたのは赤い青年だけだった。

小僧の方は何処に行った、カルトが周囲を見渡しても影すら見つからない。

――天井がミシリと音を立てる。


『カルト、上!』


今度の指示は間に合わなかった。一歩ずれればよかったものを先ほどの光の奔流のように魔法が来ると警戒して、障壁を張りなおして・・・・・・しまった。

カルトの視界が光で潰されている間にツバサはコウをフェイクに残し天井に着地・・

更に天井を蹴って加速したツバサの拳が、ガントレットが障壁をすり抜けてカルトを殴り飛ばす。


「『残念じゃったの、わしは障壁キャンセルが得意でな。後ろでコソコソしておる馬鹿を殴るのが好きなんじゃ。…黒の鉄拳制裁、無敵の一撃(インビジブルストライク)忘れるでないぞ』」


ツバサが、いや、ツバサの体を通してクロガネがカルトに先ほどの言葉を返す。さっき負けたのがよほど悔しかったらしい。


「惜しかったね、コウが来るタイミングがもう少し遅かったら僕達の負けだったよ」

「ま、間に合ったんだからいいじゃねーか。はぁ、とりあえずコイツは没収させてもらうぜ」


いつの間に奪ったのかコウが風水盤をヒラヒラと振っていた。


「な、き、貴様、返しなさい!!」

「あ、おい!今ツバサから目を離したら……」

「よそ見するなんて良い度胸だね、歯ぁ食いしばれ!!」


拳が風を斬る音と共にカルトの体が再び宙を舞った。


「殴られるぞって遅かったか。ツバサは私刑の時は容赦ないからな~南無南無アーメン」

『コウ、それじゃと混じっておるのじゃが』

「別に神様信じてないから問題ない。クロガネ、死なない程度でやめさせといて」

『了解じゃ、まだ牢に入っておる生存者がのこっとるから主に任せたのじゃ』



1、牢から囚われた人々を救い出した。

2、英雄だ何だと感謝されて拝まれた。必死で否定したが聞く耳持ってくれなかった。

3、全員馬車に乗せて待機の指示。


……以上のことを全て終らせて戻ってきたコウなのだが。


「右腕右足左腕左足、全部折ってあげる。大丈夫、お兄さん若いからすぐに繋がるって」


バキゴキと指を鳴らしながらまだまだ殴る気満々のツバサと、部屋の隅でがたがた震えて抱き合ってるクロガネとリョクの姿があった。


「……まだやってたのかツバサ」

「あ、お帰り、コウ。少し待って、コイツ折ったらはこぶから」

「いい加減にしろツバサ!!」

「っ!!」


一喝するとようやくツバサが拳を下ろした。おどおどと見上げてくるツバサを嫌いになってねーよと苦笑しながら撫で優しく言い聞かすコウ。


「お前があの村の光景を見て憤ってるのは解る。クロガネがやられて悔しかったのもわかる」

「……うん」

「だから、『いつまでも嬲ってないで一思いに』やってやれ」

「主止めんのか!?」

「クロガネ、俺だって結構ビキビキきてるんだぜ-?お前を殺した事とか」

「なっ」

「クロガネ、真っ赤」

「うっさい、リョクの癖に生意気じゃ!!」

「それじゃまぁ、今までのつけを払ってもらうって事で」

「次は来世で会おうね。出来るなら友達として」


クロガネが照れ隠しにリョクをぽかぽか叩いているのを背にツバサが深呼吸して拳を打ち鳴らす。

カルトの声なき悲鳴は誰にも聞かれることはなかった。

自己満足の作品にお付き合い頂き、真に感謝しております。

これからもドラゴンが増える『予定』ですので少しでもお楽しみいただければ幸いです。

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