盗賊討伐(前編) 惨状と命令と偽善
討伐編では残酷な表現がありますので苦手な方は飛ばすことをおすすめします。
懐かしい匂いがする
突き刺される男の匂い
斬り倒される女の匂い
焼き殺される赤児の匂い
撃ち殺される老人の匂い
全部纏めた……死の匂い
「こいつはひでぇ……」
「流石にこのレベルは久々にみたねぇ」
「むしろお主等が見たことあるのにびっくりじゃの」
木製の家々が半壊し火を噴き、街道には絵の具をぶちまけたように人の血液がしぶいている。
粘性の高い燃料を家々に振りまき、込められた魔力が尽きぬ限り消えない火炎の魔法。
無残に焼けていく村。その中には村人の死体が焼ける臭いも交ざる。
悲鳴すら上げられず魔物にさらわれる者。
魔物に喰われたのか、売られる為なのか。身体のパーツを奪われた男性の死体。
逃げる者は遊びの的に魔法で刻まれ、中身を引きずり出され、臓物がまだどくどくと息づいたまま魔物に貪り喰われていた。
傭兵らしき集団の死体は集められ、壁に立てかけられている。
首から上を失った身体が家屋を舐める火に炙られ、異臭を放っていた。
「僕の生まれた村がこうなったからね。忌み子一人を殺すのに村一つ滅ぼしても構わなかったんだ」
「俺達は戦で使われるんだからこのくらいは慣れっこだしな」
物音が聞こえ、3人別方向に散って隠れる。
そっと音源を覗き込んだ。
「いや、いやいや、いやぁああああああああああああ」
男が少女を組み伏せていた。か弱い抵抗に男は薄ら笑い、少女の服を剥ごうと手を伸ばし
「流石に同じ女としては見逃せんのぅ」
鈍い音を響かせ、いつの間にか飛び出していたクロガネに蹴り上げられた。
男は綺麗に放物線を描き大地に打ち付けられる。
「大丈夫かえ?」
ジーンズについた埃を払い、クロガネは優しく少女に手を伸ばす。
だが少女は錯乱したようにその手を払いのけた。
「こ、来ないで!!こっちに来ないで、いや、いやあぁ!!」
「……コウ。すまんがこの娘を頼むのじゃ」
「あいよ」
そっと近寄ったコウが少女を気絶させて抱えあげ自分達が乗ってきた馬車に積み込む。
そこでようやく盗賊団の男が立ち上がり、一番無防備に見えるツバサを捕まえようと襲い掛かった。
「てめぇら……俺達を誰だと思ってやがる。魔王ですら恐れ戦く盗賊団だと知っての」
「……黙れ、お前こそ僕達を誰だと思ってる」
ズドン、と音がした。ツバサが無造作に男の頭を掴み、叩きつけた結果だ。
男の頭が半ば以上地面にめり込んでいる。
ツバサは見掛けよりもずっと力がある。単純なパワーだけなら3人の内では一番といえる程に。
そして、普段なら人間相手には容赦する彼も、そんな余裕が無いほどに憤っていた。
たしかにこんな光景には慣れている。だが、動揺しないだけであって何も感じない訳ではないのだ。
「……運の悪い奴だな、怒ったツバサを人質にとろうなんて」
「コウ、クロガネ。……お願いしてもいいかな?そんなに乗り気じゃなかったけど、僕もこいつ等を潰す事に決めたよ。手を貸して」
「命令はもっとシンプルに行こうぜ、『マスター』」
「わしらは主の道具じゃ。望みを言え、我らが叶えよう」
「不倶戴天だ。これ以上あの盗賊団に僕達と同じ空を見させるな!!」
二人の返事は、目に付いた盗賊団員への突進で代えられた。
ここから、3人の盗賊団殲滅が始まる。
●
赤い道を駆け抜け、コウとクロガネが気配を頼りに生存者と盗賊団を探す。
下卑た笑いでクロガネに寄ってくる男がいた。
汚され生気を失った眼で狂ったように叫ぶ少女がいた。
死にたくないと血塗れの体を引きずって逃げようとする者がいた。
助けられる者は助けて馬車に乗せていく。盗賊団は虫の息でも縛り上げて別の馬車に投げ込む。
時折魔物に食い散らかされた人のパーツを踏みつけるが意にも解さずスピードを上げた。
助けられなかった者はいくら嘆いても戻ってくることは無いのだ、ならば今は助けられる者を助ける為に行動するのみ。
「とんだ偽善者だね、僕は」
「元々助ける義理がねぇんだから気にすんな。俺達の仕事は本来盗賊を片付ける事だけだ」
「どうせ偽善だからと見殺しにする主等ではあるまい。一人でも多く助けて自己満足すればよいのじゃ!」
そして、3人の疾走と共に村の魔物と盗賊はあらかた片付いた。
「頭っぽいのがいなかったな」
「アジトに残ってるのか先に引き上げたのか……くそっ!」
「簡単な事、娘や盗品を乗せた馬車がまだ近くにおるじゃろ。それを追えばいいのじゃ」
「クロガネ、ツバサを頼む。俺はここに残って生存者のお守でもするわ」
「主は守り主体じゃからの、任せよ」
「急ごう、追いつけなくなったら大変だ!」
休む間もなく駆け出したツバサに慌ててクロガネがついて行く。
コウは二人を見送って生存者を乗せた馬車の護衛に戻った。