挿話 狂った王 忌み子と魔王とシロガネ
おっす、俺はアリア・クロス。ほとんどの奴は俺をアリアと呼ぶ、個人的にはクロスの方が好きなんだけどな
身長は高いがひょろいとよく言われる、人間の年月で言うなら20歳ほどの若造だ。
銀髪に黒、時々銀の瞳をもつ「忌み子」でもある。
そんな俺だが今、人生初の大舞台に立っていた。
それは……
「さて、昨日先代魔王を撃ち破り、本日から魔王となったアリアだ!!
今日は諸君に魔王としての提案がある!」
そう、魔王の即位式、しかも主役は俺なのだ。
マイクに向けてはなった一言で一斉に静まり返る魔物の軍勢。
即位し立てとはいえここは実力主義の魔界であり、強さこそ全て先代の魔王を撃ち破った俺には最大限の敬意が払われている。
「突然だが争うだけの魔界に飽きたから今度は平和な魔界を作ろうと思っている。」
魔物達が今度は一斉にこけ、皆が皆魂を抜かれたような鳩が豆鉄砲を食らって呆けてるような顔をした。
仲良いなお前等。そんなにおかしいこと言ったか?
「魔王様、魔族が争いもせず平和に暮らすなどとそんな無茶な!」
「もちろん完全実力主義は変えない。必要な戦いは禁じない、それでも文句がある暴れたい奴は消し炭にしてやるから掛かって来い。因みに俺一人の時ならいつ来てもいいぞ。ただし、俺以外を巻き込む奴は容赦なく一族郎党皆殺しにするから覚えとけ」
皆の衆渋々といった感じで頷いて再び静まる、ように見えたのだが
「納得できるかぁ!!この場で貴様を討って魔王交代だ!!」
そう怒鳴り声を上げたのは怒り心頭で馬を駆り、自慢の刃を振りかざすデュラハンのリーダーらしき男。たしか前の魔王の腹心だったか?即位式の最中の為演説台まで信じられないほどのスピードで駆け上がってくる
早速くるとはいい度胸だ。怒りからとはいえ魔王を討とうというのだから剣速もなかなか素早く、太刀筋も悪くない。
誰かが悲惨な未来を思い浮かべ、また誰かがふざけた魔王に鉄槌が降りたと嘲笑し、デュラハンを称えただろう。
『俺に刃が届いていれば』だが。
「シロガネ、そのくらい防がなくても自分で何とかできたんだが?」
「アリア 守る 私の仕事。アリア 演説 続ける」
デュラハンの刃はどこかから飛び出してきた銀髪のショートカットの娘に受け止められていた。
デュラハンに表情なんてもんはないが明らかに動揺している。
彼女は幼馴染兼俺のパートナーのシロガネ、こいつがいなかったら俺が魔王になるなんてのは夢のまた夢だっただろう。
小柄なことと人形を彷彿とさせる整った見た目の所為で舐められがちだがタイマン戦なら俺とタメをはれる影の実力者だ。こいつは権力とか魔界に興味がないから俺に協力してくれているが、もしこいつが戦闘狂だったらと考えるとぞっとする。
……と、そろそろ放置していたデュラハンを片付けるか。
「こいつは俺の腹心だから例外だ。一族皆殺しは勘弁してやる。ただし
――お前に二度目はない」
少しだけ魔力を開放し狙いを定めた。
溢れ出た魔力の濃さに魔物達が息を飲むがそれら一切を意識の外に追いやる。
魔力を練り上げ、術式に変換し、ただ一言発動の命令を下す。
「鳴り響け、神の笛」
金属を引っかくような、耳を劈く轟音がデュラハンを襲う。
轟音ごときがこの鎧野郎を倒せるわけない?あぁ、ただの轟音だったらな。
「このような、音程度ではわしは倒せんぞっ、魔王アリアぁああああ!!」
「お前 頭 悪いな。音 ただの副次効果」
「お、おい、デュラハン様の鎧が砕けていってるぞ!?」
「いやー俺調節が下手でな?振動でお前を砕くはずだったんだが……空気まで揺らしちまったみたいだ。まぁ修正するから、永遠にさよならだ」
指をぱちんとならすと同時、塵も残さずにデュラハンが消滅する。
誰も酷いとか残酷だとは言わない。強さこそ全て、それが今の魔界である。
最近でこそ人間界から招いた客人たちの手によって、少しづつ平和は作られているが未だほぼ無法地帯といっていい。RPGで魔物に襲われる村を想像してもらうと早いだろうか?
人間界ではジャイアントが猛威を振るっているが、それ以外の魔物(争いが嫌で人間界に移ったもの達)はひっそりと暮らしている。
そういえばジャイアントが討伐されたという噂を聞いたがほんとだろうか、退治した奴には感謝せねば。
などと考えていると唐突に袖を引かれた
「アリア 皆 続き待ってる」
「あ、わりぃ。とりあえず言いたい事は他にない、死ぬ覚悟がある奴だけかかって来な?」
こうして、無事ではないが怪我もなく魔王の即位式は終了した。