コウとツバサ 罵声と逆襲と自爆
ナツは絶望していた。ジャイアントへの恐怖や、すぐにやられてしまった二人への失望からではない。
この世界で唯一心を許せた最愛の二人を失ったこと、ソレが何よりもナツを絶望させた。
ツバサが人として規格外の怪力を誇ろうとも、人間なのだ、叩き潰されては生きていられない。
「颯爽と出てきて死んだだけか」、「龍と言っても情けないな」と村人達が失望して、死んだ友に浴びせる心無い罵声に胸が痛む。
さらに「はやく忌み子をさしだして帰らせろ!!」「忌み子一人で村が助かるなら安いもんだ!!」と騒ぎ出した。
二人の死を、ただの犬死にさせる醜い言葉。少女はそれ以上みること、聞くことを拒んで俯き、涙を隠した。私なんて生を諦めて最後ぐらい村の役に立てばいいのか?私の命が失われることがこの世界の望みなのか?隠そうとしても、次々溢れる涙は零れ落ちていく。
――だから突然竜巻が起こり、二体のジャイアントを吹き飛ばす光景を見逃した。
「「寝ぼけたこと言ってんじゃねぇ!!」」
竜巻の中心地から聞こえた声に、涙の事も忘れて顔をあげる少女が見たのは
目を虹色に輝かせ、赤いマントを羽織ったツバサの姿だった。
「っ……ツバサぁ!!」
「「ごめん、少し復活が遅れた。」」
いつものように困った笑みを浮かべてナツに話しかけるツバサ、直後、ジャイアントですら一歩下がるであろうほどの殺気を村人に叩きつける。
「「死龍にも口なしとは言うが大人しく聞いてれば随分な物言いじゃねーか。
自分達は立ち向かいもせずに少女を生贄にしてる臆病者が……
俺はそいつを護る為に来たんだ。そいつに手を出すならジャイアントより先に俺が食い殺してやる!!」」
「コ、コウ……?」
「「見ての通り、コウは元の姿に戻っちゃったみたい」」
少し寂しげに微笑んでから少女を撫でる。僕達に後悔は無いからきにしないで、そう言ってようやく落ちてきたジャイアントを見やる。
一人はぴくりとも動かない所からすると打ち所が悪かったのだろう。残った一人が冬眠中の熊すら飛び起きて逃げそうな唸り声をあげ、大地を震わせる。対抗するようにツバサの纏った雷が大気を振わせた。
「この、世界の敵めが!!」
「「なんとでも言え、お前が仲間を亡くし怒るように俺達にも心はある!!
お前は、俺(僕)が護りたいものを危険に晒した。殺す理由はそれだけで十分だ……こいっ雷龍!!」」
ツバサが両手を突き出し、生み出された2体の龍はジャイアントを拘束しにかかり
しかしジャイアントの怒りに任せた一撃で叩き伏せられてしまう。
その勢いのまま棍棒を振り上げ――
「「ばーか、電気が叩き付けられただけで死ぬわけねぇだろ」」
いつの間にか復活した、否、最初から倒されてなかった雷龍がジャイアントへ絡みつき、その巨体を軋ませる。
「それがあの方に反逆するための力か。この悪魔め……芽吹かぬうちに摘み取るつもりが、期を早めたか……だがまだ遅くは無い、根ごと刈り取ってくれる、共に地獄まで行こうぞ!!」
「「まずい!!」」
「コウ、ツバサ、どうしたの!?」
「「あいつ自爆する気だ。しかも僕達が逃げられないように一帯を巻き込んで!!」」
「「時限爆弾と地雷を混ぜたかんじか……時間がきても起爆するし、殺した瞬間にも起爆するぞ」」
「ツバサ……まさかとは思うけど死ににいったり、しないよね?」
焦っている間にもジャイアントが自爆の為に集める魔力は更に増え続けた。
この爆発範囲なら全力で行けば……
震えるナツの声に思考が中断される。
一目でコウとツバサを人間じゃないと見抜いたこの子は、やっぱり鋭いんだと思う。
コレが最期になるなら、とコウが一時的に同調を切ってくれた。
「大丈夫。僕はナツを護るから。絶対に帰ってくる」
「約束だからね!?」
頷いてもう一度少女、ナツの頭を撫でた。
最初で最期の嘘、全力でいっても僕が逃げ切れる可能性はないだろうから。
神様は、世界は本当に僕達が嫌いなのかもね。お互いが好きだから、別れ別れにならないといけないなんて
「「時間が無い、急ぐぞ。」」
●
「俺とツバサは会わなかったほうがよかったのかもしれないな。余計な哀しみを与える手助けをした。」
「僕はコウとあったことは喜ばしいことでしかないよ。コウと会わなかったら、きっと世界を怨んだまま死んでたから」
「そういってくれるなら嬉しいがね。俺も最期に使ってくれるのがお前でよかったぜ。」
「さぁ、世界なんてただのついで」
「好きな子護って胸張って死のうぜ、『相棒』」
「もちろん、僕達は地獄まで道連れだよ、『相棒』」
「また二人で探索しような」
「何処までも共に行こうね」
●
精神世界でのコウとの話も終わった。
覚悟は決まった、あとは実行するだけだ。
「「じゃ、いってきます」」
「……いってらしゃい!!」
ナツが頬にキスして手を振った。
「おーおー大胆だねぇ。真っ赤になっちゃって」
「コウ、からかわないでよ!!」
もう一体呼び出した雷龍に乗り、残りのコントロールを失わない位置へ飛ぶ。
あくまで魔術で形にしただけだから早々距離は取れない。
コレが僕が逃げられない原因であり、僕ならジャイアントをはこべる要因。
――3体の龍は空を駆け、ジャイアントの巨体を海へと運んだ。
雷龍達に指示を出し、陸から十分離れた所でジャイアントを海に向けて落下させる。
それを追うようにツバサもジャイアント目掛けて飛び降りた。
「コウ、世界は僕のこと嫌いだろうけどさ。僕はそれでも世界が大好きだったよ」
「あぁ、兵士に追い回された日に上が恋しいとか言ってたときから知ってるさ」
「もっとコウと、ナツと、3人でいろんなとこ行ってみたかったね」
「それは言わないお約束だ。俺と二人の地獄旅行で我慢しな」
「楽しい旅なら我慢するよ」
軽口を叩き合ってジャイアントに着地寸前、ツバサが右腕を振りかぶる。
周りを巻き込む心配が無いなら、少しでも魔力を溜めないうちに起爆させた方が海への影響が少ない。
マントから溢れ出る炎が右腕をすっぽりと包み込み
「「火の粛清!!」」
持てる力全てを込めて敵を砕かんと、拳を打ち下ろす。
少年と、ジャイアントと、空の一部を巻き込んで……あたり一面を爆風が飲み込んだ。