ガラスの金魚鉢 〜机の上の小さな銀河〜
スバルはお祭りで金魚すくいをしました。
その頬は赤々と輝いて、とても誇らしげでした。
小ぶりな和金が泳いでいる中、ひときわ立派な尾を揺らしていた金魚が欲しくて、何度も失敗しながら、なんとかすくい上げた一匹。
スバルは金魚を入れてもらった小さな袋に何回も顔を近づけて、わたあめにも射的にも目もくれず、まっすぐに家に帰りました。
「お母さん、金魚鉢出して!」
スバルは靴を脱ぐのももどかしく、玄関で大声を出しました。
「あら、スバル、おかえり。金魚すくいをしたの?」
「うん。ねぇ、お母さん、金魚鉢どこ?」
「出しといてあげるから、手を洗っていらっしゃい」
「はぁい」
スバルが急いで手を洗ってくると、お母さんが納戸から金魚鉢を出してくれました。
前に金魚を飼っていた時に使っていた、ガラスの金魚鉢です。
スバルは金魚鉢を洗って、水をなじませてから、ようやく金魚鉢の中にそっと金魚を泳がせました。
金魚が身をひるがえす度に、大きな尾がひらり、ひらり、と揺れるのが楽しくて、いつまでも見ていられます。
スバルは、ふと思い立って部屋の電気を消し、窓辺に置いてある机の上のスタンドをつけて、さぁっとカーテンを開けました。
「ここに置いたら、もっと綺麗だろうな」
黄色い灯りの下で、赤いうろこがキラッ、キラッと光ります。
ガラスの金魚鉢の向こうは暗い夜の空。
ぷくぷくと浮かぶ水の泡が、まるで銀河の星のようです。
またたく銀の星の間を、ひらり、ひらり、と尾を揺らしながら、赤い金魚が泳いでいきます。
アリオトを過ぎ、メグレズをひらりと曲がって・・・
いつの間にか、金魚鉢の中には北斗七星が浮かんでいるのでありました。
金魚鉢の中は、すっかり星空になっています。
フェクダをひらりとかわして、メラクの辺りで金魚はクルリと回りました。
赤い尾が、ゆらりと円を描きました。
そして、ドゥベの先で金魚はピョンと跳ねました。
水の粒がキラキラと舞って、スバルの周りにも星がまたたき始めました。
スバルと金魚は、銀河の星々の間を一緒にすいすいと泳ぎました。
時折、金魚の尾がスバルの頬をなでます。
優しい風がスバルの髪と金魚の尾を揺らしていました。
「スバル!ごはんよ!早くいらっしゃい!」
お母さんの声がしました。
スバルがハッとして振り返ると、またたく星たちは跡形もなく姿を消してしまいました。
「ちぇっ、せっかく星空を泳いでいたのになぁ」
スバルは、ぶつぶつ言いながら、もう一度金魚鉢を置いた机の方を見ました。
黄色い灯りの下で、赤い金魚は、ひらり、ひらり、と尾を揺らしながら、ゆらゆらと泳いでいるのでありました。
窓の外の夜空には、星がまたたいておりました。




