瑞希
私の1番だった瑞希が結婚する。
相手は見た目も性格も好青年という言葉が似合う同い年の男だ。瑞希が好きなタイプの男。私よりもずっとずっと後に知り合った男。
私に会わせたいとつい1週間ほど前に言われたばかりだった。瑞希の世界に私が今まで加えてきた色が透明になったのだと感じた瞬間だった。
瑞希があれほど生き生きしている姿、見たことがあっただろうか。
私の知らない瑞希。私ではなく別の人のもとで幸せに過ごすのだ。
ずっと瑞希のことを憧れていた。
小さい頃から可愛らしいが強さも併せ持っていて、いつも私を守ってくれた。
そんな瑞希に憧れ、瑞希を守りたいと思うようになった。だから受験も就職も身だしなみも人一倍頑張った。瑞希に友達ではなく、女性として認められたかった。
でも少しでも認められたことはあったのだろうか。
結婚式の参加を断ることができず、モヤモヤとした気持ちを抱えたまま当日が来てしまった。
タクシーで会場に向かっている間、何度も行くのを辞めようかと考えていた。瑞希の花嫁姿を見てしまったら、私の過去も今も未来までも壊れてしまうのではないか。そのようなことまで考えてしまっていた。
会場に到着し、受付へ向かう。
会場の中はとてもオシャレに飾られており、瑞希と知らない男だけの世界になっていた。
きっとこの会場も、装飾も、ドレスも何もかも全て瑞希が男にわがままを言って決めたんだろう。
受付にたどり着くまでに考えすぎて疲れ果ててしまい、近くの椅子に腰掛けた。
やっぱり帰ろうかな。
まだ瑞希への気持ちを諦めきれていない自分がいて良い場所では無い。
瑞希に宛てて書いた手紙だけ受付に預けよう。
重い腰を上げ、受付に向かおうと歩き出した時、突然会場のスタッフに声をかけられた。瑞希が私のことを探しているらしい。
一緒に着いて来てもらえないかと聞かれ、心臓が今にでも張り裂けそうなのにも関わらず、私はまたしても断ることができなかった。
瑞希が身支度をしている控え室の扉の前まで案内してもらった。ドアノブを持つが、どうしても開けることができない。
私の最後の恋は静かに終えたかった。でもこんな日にも関わらず、瑞希は私を求めている。
正直怖い。だって今日で完全に私たちの関係性が決まってしまうのだから。
「薫、そこにいるの?」
中から私を呼ぶ可愛らしい声が聞こえた。
もう声を聞いてダメだった。涙が出て止まらない。
嗚咽を必死に抑え、私は返事をした。
「早く中に入ってきて。すごく綺麗にヘアメイクしてもらったのよ。一番に薫に見せたくてずっと探してたんだからね。
でもこのことは俊介に言っちゃダメよ、薫と私が怒られちゃうから。」
私の気持ちなんて全く知らず、心が壊れそうになる言葉ばかりかけてくる。
こんな日にも関わらず瑞希はあの男ではなく、私を優先するの?
瑞希は私の事どう思っているの?ただの友達?ただの同級生?それとも、、
あの時に私にかけた言葉は何?期待させないでよ。
瑞希は私にとっての特別だったんじゃないの?
やってしまった。
気がついた時には私はドアを開け、瑞希に向かって全てを言ってしまっていた。
瑞希は目を見開き固まっていた。
お互い何も言葉を発することができない時間がただ過ぎていく。
こんな日に本当になんてことをしてしまったのだろう。
でもこんな酷いことをしてしまっても、花嫁姿の瑞希の姿に見とれてしまっている自分がいた。瑞希への気持ちはやはり変わらない。昔も今もこれからも。
「瑞希、大丈夫か?」
ドア越しに瑞希と家族になる男の声がした。
2人だけの世界に邪魔が入る。
「俊介、大丈夫だから、後で会えること楽しみにしてるから、愛しているから」
瑞希が今にも消えそうなのに明るく保った声で男に言う。
私の前でそんなことを言うようになったんだね、瑞希。
2人の世界は壊そうとしても壊しきれない。
私が入る隙間もないほど固く結ばれている。
やはりこの恋は諦めなければならない。
その後の記憶はない。
瑞希と男の結婚式が上手くいったことは後に友人から聞いた。
瑞希と離れてしばらく経つ。
結婚生活を楽しめているのだろうか。瑞希はきっと良い奥さんにもお母さんにもなるだろう。
私が愛した女性なんだから。
突然友人から電話がかかってきた。瑞希が離婚したらしい。
離婚の理由は分からないが、とても私に会いたがっているとのこと。
完全に冷めきっていた私の中にいる瑞希の温もりの行先は分からない。今は温もりを探そうともあまり思えない。だって私に結婚を告げたあの時から瑞希はあっちの世界の人なんだから。
友人から瑞希との約束に誘われたが断った。私の瑞希に対する反抗だった。
私のことを考えて苦しめばいい。そんなことを考えてしまう私は瑞希と男との関係を未だに引きずっているのだろうか。
この気持ちに終わりを伝えるために、あの時渡せなかった手紙にキスをして捨てた。




