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概念縫製

 魔王軍のトカゲ頭が変化した糸を、引き出して、指先に巻いていると、脳内にあるイメージが浮かんだ。


「な、何だこのイメージは――!」


「どうした、クソチビ」


 閃いた通りに、糸を持ってある物体を思い描く。


「ああ!? 何だそりゃ、さっきトカゲが持ってた武器じゃねえか?」


 右手に現れた剣を何度か振って空を切る。


「間違いないな。この重さ、本当に金属の剣だ」


「まだ分かんねえだろ。ほれ、その辺の硬そうな物にぶつけてみろや」


 近くの硬そうな物と言ってもなあ。重さだけが金属っぽくて、実は似せただけの紛い物かも知れないが……。


「硬度を確かめるには……」


 いいものを見つけた。


「あ? おい、オマエ何考えてやがる?」


 何かに気付いた世界樹の困惑を無視し、根っこに近づき刀身を叩きつけ、鋭い高音が響く。


「おおい!? オレの身体で実験してんじゃねえ! 次からは金とるぞ、取るからな!?」


「あ――普通に折れた。でも、ぶつけた感触は、どう考えても本物の金属だ。魔王軍が何で武器を作ってるかなんて知らないけど」


 折れた先が、放物線を描き、近くの地面に音を立てて転がった。


 そして、驚いた事に。


「おい、確かにそこに転がったのに、破片が消えたぞ!?」


「いや、クソチビ。オマエの握ってた分もだ!」


 手からは柄を握る感触は消え、元の糸に戻っていた。


「どうなってる? さっき、剣が現れた時、残った糸は消えてたか?」


 少し間が合って、返事が来る。


「いいや、右に剣、左には糸巻も、巻き取られた糸も残ってたぜ」


 剣が消えたら、また糸が戻ったのなら――。


「お、おい! その剣、何度でも出せるのかよ!?」


「分からない。だけど、感じるんだ。確かにこう出来るって」


 再び右手に握られた剣を掲げて、月光を当ててみる。


「ひとつ、試したい事がある」


 左手に残った糸。この能力の全容は見えないが、糸になる前の物質の再現が可能なのか、それとも何か別の――。


「鎧だ。あのトカゲ頭、胴体は板金鎧で覆われてただろ? アレをただ具現化するのではなく……」


「この剣に混ぜ合わせる!」


「は? それが単純な物質化能力なら、混ぜるなんて無理に決まってんだろ」


 ただの元になった物の再現なら、最初に現れたのは、何故、剣だった? あいつの死体がそのまま出て来てもおかしくなかったはずだ。


「違うんだ。多分、ただ物質を再現してる訳じゃなくて――」


「何だ? 勿体ぶってないで教えろや」


 目を瞑り、頭の中で剣と鎧を混ぜるイメージを描き、主体はあくまでも剣の形に限定する。


「概念の実体化だ……。剣と鎧。ふたつを混ぜ合わせた、より強度の増した剣が――!」


 左手の糸は、少し短くなったように思えたが、右手の剣に変化があったかを先ほどと同じ方法で確かめる。


「あ!? おおい!? 次やったら金!」


 鋭い高音が響き、根に弾かれた剣の刃は、全く欠損もなく、先の試行とは違う結果を生んだ。


「やっぱり……」


「おい、後で請求すんぞ? 覚えとけよ。……だがよ、オレにも分かる様に説明しろや。クソチビ」


 考えられるのは、武器と鎧の持つ、固定された役割、人が思い描く主観的なイメージを、混ぜ合わせた。


「簡単に言うと」


「防具である鎧から、防御力だけを抽出して、武器である剣に付与したんだ。だから、防御力の上がった剣は、さっきは折れたお前の根を斬りつけても、びくともしなかった!」


「ふ~ん。そうなんか」


「は? お前ぇ、さっきはあんなに興味津々だったろ!?」


「いや、よく分かんねえ」


「あ、そうか」


 こいつ、ただの植物だもんな……。


「おい、今、オレを侮辱しただろ。そんな気配を感じたぞ」


「いや! 植物全体への侮辱だ! そいつァ、草木の神への反逆だぜ。クソチビ」


「ん? 悪い、取り込み中で聞こえてなかった」


「おおい!?」


 しかし、実体化した剣が消えた条件は何だ? 折れた事? 意志で自在に出し入れ出来るのか?


「ああ? 何の手品だそりゃ」


 右手の剣を、消して出してを何度も繰り返し、実体化と消去の感覚を掴む。


「にしてもアレだな。それ、何かリソースは消費してねえのかよ? 無限に出し入れ出来たら、反則的じゃねえか?」


 その問いの返答に詰まる。


「ん~。今のとこ、分からないな……。俺だって、タダで無限に出来るとは思わないが」


 出し入れの感覚が掴めた所で、別の思い付きを試してみる。


「ん? こうかな?」


「何だよ。手には何も持ってねえじゃねえか」


「まあ、見てなって」


 右手を手刀の形に揃え、地面に生えていた延焼を免れた草をかすめて、腕を振り抜いた。


「草が、刃物で切られたみてえに……!」


 手が触れただけなのに、刈られた草の不揃いな切れ端が、宙を舞う。


「多分、手の形とか関係ないな。これ」


 次は握り拳で同じ動作を取ってみると、また草が切れて、青臭い香りが漂う。


「ほ~ん。そんな使い方も出来んのか」


「次は――」


 拳と剣の一体化を解き、そのまま地面を殴りつけて見た。


「いってえ! 骨まで響いた!」


「そりゃそうだろうよ。バカかオマエ」


「うるさいなあ、試すには素の肉体との変化を確認しないとダメだろ!」


「あ~、あ~。理屈くせえよ。クソチビ」


 でも、衝撃は肘辺りまで届いたが、拳には傷ひとつない。


「やっぱりこの身体、糸の力がなくても、防御機構が働いている……」


「それを見つけんのがオマエの役目だろ」


「呑気に眺めてるなよ。お前も傍から見てて、何か気付かなかったのか?」


「や、さっぱり」


 ちッ! 役立たず!


「まあいいさ。今の痛みを忘れないうちに――」


 もう一度、地面を強く殴りつけた。


「お? 何か変わったのか? 悲鳴がねえな」


 今度は、殴った反動は、手首辺りまでで消えて、拳に痛みも全くなかった。


「出来た! 拳と鎧の融合をイメージしたんだ!」


「ほ~ん。また、防御力を取り出したのかよ」


「そうだな。これが出来るのが分かったら――」


 しばらくの間、実体化の条件を変えながら、幾つもの方法を試した。どれだけの時間が流れたのか分からないが、気付けば空は白み朝の光が射し始めていた。


「精が出るな。植物は気楽なもんだ。オマエも植物にならねえか? 光合成の快感は、ここでしか味わえねえぞ」


「まだ、人生でやりたい事があるからな。断る」


「いや、オマエ、地縛霊だって」


 明るくなってくるのと同時に、燻っていた燃えカスがほとんど鎮火したのか、街中から煙が見えなくなっていた。


「これだけ明るくなると……。故郷が、本当に廃墟になったのが、より実感できる……」


「何だ? 泣いてんのか?」


 込み上げてくるものはあった。だけど、泣き崩れて、うずくまっている時間なんてない。


「いや。だけど、火が消えて、明るくもなったのなら、ひとつ確かめたい事があるんだ」


「街に入るぞ」


「あ? おおい。なにボス気取ってんだ。しれっと命令してんじゃねえぞ」


 決意を胸に、ゆっくりと壊れた門扉へと歩き出した――。

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